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雑記2

作者: helios

ダイヤモンドは砕けないのか。昨年の十一月のことだ。文集に書くことも碌になかった。来年こそは東北のデレッダだとか山形の田中貢太郎といった異名をとれる、そんな文章を書けるようにネタを用意しておこうとダイヤモンドのごとく硬い決意をしたのだった。―砕ける以前にダイヤモンドは消え去った。

 一年近くが経ちまた秋が来る。秋の眠りは授業開始を気づかせない。休み時間は眠くない。授業時間は眠くなる。後期の始まりにあった、授業は真面目に聞こうというこれまたダイヤモンドのごとく硬い決意は砕けてどこかに散っていった。ひょっとしたら蔵王の向こう側にでもキラキラ欠片が落ちているのかもしれない。気になる人は休日にでも行くのが良い。たとえ目的のものが見つからなくともお釜は今日も綺麗なはずだ。そんなことを考えながら教室の窓を通して見る秋空は高い。僕が深い眠りにいるからだ。(眠っていても心の瞳で秋空は見えるのだからつっこんではイケナイ。)今年も授業は寝るし文集のネタも頭にはない。概して決意なんてそんなもんなんだろう。少なくとも僕にとっては。

  書くこともこれといってないままパソコンの前で今頭を抱えている。そう言えば去年は何書いたっけか。見直してみる。夕暮れの砂浜で素敵な女性と波打ち際を歩き、彼女が宵の明星(金星、ヴィーナス)を指差すのを見て君こそヴィーナスだと思う、そんな日々を生きたいと書いてある。まことに結構な話だ。それから財布をなくした話が書いてある。奇遇だが昨日から財布が見つかっていない。武道場に置き忘れていたはずなのに武道場にない。となると帰り道に落としたか、家にあるかの二択だろう。ちなみに去年の文集によるとその時には財布は交番に届けられていたそうだ。物忘れ、物無くしが絶えない。うちの八十五歳のじーさんも似たようなことを言っていた。他には、進歩について書いてある。曰く、来年この文章を読み直し、過去の自分を恥らうようになるのだろうか、と。幸か不幸か、恐れることは無い、去年の僕よ。一年経っても変わらずに財布をなくしているし、相変わらず授業中に惰眠を貪っている。

  さて過去を振り返るのも大概に。未来を見ねばなるまいて。よし、毎日が学校部活食って糞して寝るだけであってもだ。毎日変わらぬ学校部活食って糞して寝る毎日を繰り返し、気が着いたら二十歳になっていた。光陰矢の如し。そのうち気が着いたら老い先短い身になってるんだろう。そう思うと何だか勿体無い気にもなる。俺は食って寝て糞するために生まれてきたんじゃないはずだ。この世に生を受けたからには何か高尚なこと―と言ってそんな高尚なことなど全く具体的には思いつかないのだが―そういうことをしてみたいもんだ。そういう漠とした目標(と言えるか知ら)が無いわけじゃない。けれど、具体的な何かに落とし込めない目標の実現は望めないことも分かっちゃいる。仕方がないので逃避するために映画を見る、小説を読む、ヨークベニマルで半額の刺身を買って食べる。―テストの後など、暇になると一文にもならないことを考えるのでいけない。忙しい時の方が却っていいのかもしれない。少なくとも振り返って楽しかったと言える時期は押し並べて忙しかった。

 一方昔の話。幼稚園の卒園式の時、園長先生が君たちもいずれは中学生になり高校生、やがて大人へと……、そんな話をしていた。その先生の顔も覚えちゃいないし、同じびわ組の人の顔も名前も全然覚えちゃいないのだけれども、僕は中学生になんかなれないよって考えたことだけは今でも覚えている。僕はミジンコ程度には小さかったのであんなに大きな生き物に自分がなるとは当時の僕にとっては天地がひっくり返るくらいに信じがたいことだったからだ。

 ほぼ同時期、僕は今まで何日生きてきたのか、これから先小学校を卒業したり二十歳になったり、そうなる頃には何日かかるのか。そんなことを寝床でふとんに包まりながら親に聞いた。返ってきた数字の大きさに驚き、そうして自分が死ぬまでに生きなくてはならないあまりにも長い茫漠とした時間を意識してちびりそうになった。それでも今では僕は気が着いたら老人になっていて、気が着いたら棺桶の中だろうと言える。ということは幼稚園児だった頃は大層暇だったんだろう。

 さて、今日あたりで暇な日常にさよならをしなくてはいけない。テストが迫る。そんなものは低俗だって言うかもしれない。けれどそう言うことだって十分低俗なことなのだ。

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