カイン ― ベクト王国にて
ベクト王国―――
この星の中で一番小さい国の名前である。
全人口30万人弱のこの国では、産業はあまり発達せず
主に農業、畜産業などで細々とだが、平和に暮らしていた。
この国の王は飾ることをせず、質素倹約を常としている。
自分の子供たちも特別扱いをせず、
民の子供と同じ学校に通わせていたので
王という存在が、人々にとって
極めて身近なものに感じられていた。
「カイン様、お待ちください!
そんなに急いでは私がついて行けませんから」
小さな森の奥で少年が2人、急ぎ足で歩いている。
「何だジャン。 もう疲れたの?」
「いえ、疲れたのではありません。
ただ、まだ始まるまでに時間があるようなので
急がれてもあまり意味がありませんから」
「どうして? 早く行ったほうがいいってアリスも言ってたもの。
やっぱり急がないと」
「カ、カイン様・・・」
二人は森の奥の小さな湖まで走るようにして近づいた。
湖のほとりには水草がびっしりと生い茂っている。
二人はそこにしゃがみこむようにして、
湖の中まで茂っている水草の奥をじっと覗き込んだ。
「ほら、もうすぐみたいだよ。間に合ってよかった!」
カインと呼ばれる少年は、嬉しそうににっこりと笑った。
金髪の癖のある髪に緑がかった瞳の色がとても印象的である。
二重の大きな目に、
よく通った鼻筋とピンク色の薄い唇をしていたが、
表情はとてもあどけなかった。
ジャンはカインの向けたまぶしい笑顔に、
照れたように顔を赤くした。
「ほら、始まったようだよ・・・」




