北側へ・・・
次の日から、食料の調達はカインの担当になった。
カインは毎日朝早くから家を出て、島を歩き回った。
行動範囲が広がっていくと同時に、次々と新しい発見もしていった。
島の西側はうっそうとしたブナの木々に混じって
果物の木もたくさんあった。
さらに奥まで分け入った場所には
カインの大好物である“コーク”の赤い実が生っていた。
しかしそれは、いつも見ていた木の枝ではなく、
太い木の幹に直接びっしりと隙間無く、
木の先端まで生っている凄い物だった。
まるで赤い大木が立っているようなその光景に、
カインは実を採ることも忘れ、ただ呆然とひたすら眺めた。
島の東側では、野菜やハーブの他にも、
奥の方に入ればカインの国で薬草とされている草や根が何種類もあり、
カインはそれを持ち帰ると、さっそくすり潰して日に干し、
簡単な傷薬や痛み止めを作った。
カインはもっとこの島のことを知りたかった。
主神の手掛かりを知りたい・・・
トーマと主神との対話の名残になっているものがあるのなら
見つけたかった。
主神の謎を解き、
人々がもうその存在を恐れることなく暮らせるように・・・
キースのくれると言った9年間の猶予のうちに
やれるだけことはしたかった。
カインは、キースの言っていた島の裏側、
つまり島の北側のことを思った。
「・・・北側へ行こう!」
カインはその日、島の北側を目指して進んでいた。
※ ※ ※
カインは島に来てからの数ヶ月間、
島のあちこちをくまなく調べて歩いていた。
草がうっそうとした道なき道を進んだり、
迷路のような森の中をひたすら歩き、
島の南側から中央までのおおよその地形は把握できたようだった。
残る場所は島の北側―――
そしてカインは島の中央と西側のそれぞれの場所で
北側へと繋がりそうな道を先日発見していた。
だが、それぞれの道の入り口には大きなクレバスのような割れ目が口を開けており、
進むことができない。
唯一まだ調べていない東側の道から行ける可能性が大かも知れなかった。
カインは、キースの忠告をふと思い出したが、
この場所だけはどうしても行っておかなくてはならないと思っていた。
キースに黙って行くのは心苦しかったが、
もし収穫があったら帰ってきてからでも話せばいいだろう。
島の東側は西側と比べてもかなり森が深かったが、
カインはかまわずにさらに森の奥深くへと分け入った。
濃い緑である。
奥に入れば入るほど、苔がびっしりと生えていた。
ブナの木の幹や、
突き出ている小さな岩にも隙間無く生えているその苔は、
木々の枝葉の間を抜けて入ってきた日の光に照らされると、
金緑へとその色を変えていく。
また、木の枝に幾重にも垂れ下がるようにして広がっている苔の様子は、
まるで妖精でも出てきそうな神秘的な雰囲気に包まれていた。
カインはうっそうとしている緑がさらに濃く
黒々とした色になっている場所を見つけた。
近づいて色が変わっているところをよく見ると、
それはどうやら小さなトンネルのようだった。
どう見ても自然にできたものではなく、
人工的に作られたもののようだ。
いつ、誰がこのトンネルを必要としていたのか・・・
カインは高鳴る胸の鼓動を抑えながらトンネルへと入っていった。
トンネルの中は暗かったが距離は短いので
入るとすぐに出口の外の光が見えた。
そしてトンネルを抜けた時・・・
カインは外の風景に息を呑んだ。
目の前には切り立った崖がいくつもそびえ立っていた。
それぞれの崖にに沿って細い道が作られており、
そのそれぞれが島の東、西、中央のルートへと延びていた。
しかし、崖の道には縦に無数の亀裂が入っている。
特に中央と西の亀裂は大きく、
そのために道が所々崩れて無くなっていた。
カインは目の前に続いている道を見た。
たぶんこの道が北側へと続く道―――
だが、その道の下には大きな谷が口を開けていた。
これに飲み込まれたらそれっきり・・・
さすがのカインもブルっと震えた。
行くか・・・
戻るか・・・
一瞬躊躇したが、崖の向こうを睨むように見つめると、
迷いの無い足取りで歩き出した。
思ったよりも風が強い。
下から吹き上げるような生暖かい風が、
カインの身体に当たっては通り過ぎていった。




