表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の惑星  作者: 花押
2/27

回顧 ― キースの宿命 1

 「おい、キース。どうしたんだよ? 元気ないじゃん」


 キースが振り向くと、そこには幼馴染のケーレンが心配そうに彼を見つめていた。


 ケーレンはキースの近所に住み、幼い時からずっとキースと一緒に過ごしてきた。

 親友・・・というより家族みたいな存在である。

 ブラウンの大きな瞳が人懐っこさを感じさせた。


 「な、なんでもない」


 キースはケーレンを避けるように早足で歩き出した。


 「おい、待てよ。お前、この頃変だぞ?」


 ケーレンは苛立った様子でキースの肩を掴むと、そのまま力を込めてこちらへ向かせた。

 大きなブラウンの瞳が不安そうにキースを見つめている。


 「キース、一体何があった。俺にも話せない事なのか?」


 キースは俯き、押し黙ったままだった。



 ケーレンは最近のキースの変化の原因に思い当たる節があった。


 「お前・・・まさか、俺とリリアのこと誤解してるんじゃないだろうな」


 キースは驚いたように顔を上げた。

 クリスタルブルーの瞳がケーレンを射るように見つめる。


 (やっぱり・・・) 

 キースの分かりやすい表情にケーレンは苦笑した。


 「あれはお前の誤解なんだ、キース。

 俺たちは何もしていないし、お互いのことだって友人としか思っちゃいない。

 あいつは・・・リリアは本当にお前のことが好きなんだ。

 お前だって本当は感じてたんだろ? あいつの気持ち」


 (どういう事だ?だってあの時・・・)


 言いかけてキースは口をつぐみ、険しい顔をしてケーレンを見た。


 リリアは艶のある栗毛の巻き髪と長い睫毛が特徴で、

キースとケーレンとはクラスメイトとして仲の良い友人だった。

 だが最近、キースはリリアの視線から熱っぽいものを感じるような気がして

かなり意識し始めていた。


 ケーレンは話を続けた。


 「あの日、俺は放課後の教室でリリアの話を聞いてやってたんだ。

 あいつは悩んでた。

 こんなに好きでアプローチしてるのに、キースは他の女子と同じにしか見てくれないってな。

 お前の気持ちがわからないって泣いてたんだ。

 俺はリリアに、キースは君を意識してるからもう一押し、がんばれ!と話してなぐさめてた。

 その時だ、あのスコールが降ってきたのは」



 前触れもなく突然降り出した雨。

 遠くで轟いていた雷鳴は徐々に近くなり、雷の嫌いなリリアは恐怖で震えだした。


 「大丈夫か?リリア」


 ケーレンの問いかけに黙ってうなずいたその時、

大きな雷鳴が轟き渡り、リリアが大きな悲鳴を上げた。


 「俺は雷を怖がって怯えているあいつを落ち着かせるために抱きしめた。それだけだ」


 ケーレンはまっすぐにキースを見つめた。


 「その時、お前もそこにいたんだろう?

 後で同じクラスの奴に聞いたんだ、お前が部活で遅くなってから教室にカバンを取りに行ってたってこと。

 その次の日からだよな。お前の俺たちに対する態度がおかしくなったのは」


 ケーレンは軽くため息をついた。


 キースは何も答えられなかった。

 あの日確かに偶然教室で二人が抱き合っている姿を見ていた。

 リリアの自分への気持ちは感じていたし、自分もリリアのことを気になりだしている頃だっただけに

二人の姿を見た時のショックは大きかった。

 キースはそれ以来、ケーレンともリリアとも目さえ合わせようとしなかった。


 今、ケーレンにその誤解を解かれた時、

自分がケーレンとリリアとの仲を妬いていたのを彼にバレたことは

ひどく格好の悪いように感じられた。

 それと同時にリリアへの想いの強さも確信できた気がしていた。


 ケーレンはキースの表情の変化に苦笑しながら言葉を続けた。


 「お前もリリアと同じ気持ちなんだろ?

 だったらこんな風に意地を張らずに早く告白しちまえよ」


 キースがハッと顔を上げる。


 「今は格好つけている場合じゃないんだ、キース。

 思い切って告白して、今すぐリリアをお前のものにするんだ」


 「リリアを・・・俺のものに」


 キースはつぶやいて決心したように踵を返すと、そのまま駆け出していった。


 今、自分がいた校庭を突っ切り、校舎の階段を駆け上がって教室へ入ると

リリアの姿を探した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ