島の秘密
夕食の後、カインとキースはテーブルに向かい合ったまま
この島についての話をした。
「キース。この島について知っていることを教えて欲しいんだけど」
キースはカインの言葉に微笑みながらうなずいた。
「お前が今日行った場所が俺たちが昨日上陸したところでもあり、
この島の南にあたる場所だ。
そこは魚の楽園だ。手掴みでもおもしろいように魚が獲れる。
西は果物が、東は野菜が豊富なんだ。
お前が一人で食料を取りに行く時、これさえ覚えておけば間違いない」
カインはうなずくと、昨日から思っていた質問をしてみた。
「ねえ、キース。
この島はどうして地図にも載っていなかったんだろ?」
キースは軽く微笑むとその質問に答えた。
「この島には名前も付けられていない。
だから俺たちは勝手に“主神の島”と呼んでいる。
ある説では、この島が主神の発祥の地とも言われているらしいが、
定かではない。
主神と対決をして、初めて奴を自分の身体に封じることができたトーマが
身体の中の主神と対話した時に、この島の存在を聞いたということだ。
主神は、自分をトーマと共にそこに置いてくれと言った。
当時18歳だったトーマは、自分のあとを継ぐ主神の守役を
自分が45歳になるまでに決めて、
今の“守の丘”と呼ばれる丘まで連れてきて欲しいと言い残して
この島に渡った。
そしてその後、次に選ばれた守役以外の人物とは
ついに誰とも接触せずに一生を終えたそうだ。
その長い年月の間、トーマはここで何を考え、何をしていたのかは
今となってはわからない。
その時、俺の身体の中の主神とどんな対話をしたのかさえもわからないんだ。
トーマがいなくなった時、
主神の謎も永遠に解き明かされることは無くなったって訳さ。
そして俺とお前のような守役も、永遠に必要とされていくんだろうな」
キースの表情がフッと曇った。
「先程のお前の質問の答えだが、
人々は主神がいるこの島の存在を恐れたんだ。
だから誰にも知られないようにこの島の存在に口を閉ざし、
地図にも載せなかった。
守の丘に守役以外の侵入を禁じたのもその為なんだろう。
俺も、この話はここに来たからこそわかっただけで、
守役でもなければ一生知らなくてすむ話だったんだろうがな」
「そういうことだったんですか」
カインは俯いて話を聞いていたが、やがて顔を上げ
キースを見つめた。
「キース。明日は僕一人で食料の調達に行きたいんですけど、いいですか?」
「お前、大丈夫なのか?」
キースは驚いたようにカインを見た。
「はい。僕も早くこの島に慣れておきたいんです」
「そうか。前向きなところはいいことだがな。
ただ、無理はするなよ。お前は大事な身体なんだからな」
「キース。そのセリフ、何だか奥さんに言っているみたいですね」
カインは可笑しそうにフフっと笑った。
キースもつられて笑った。
※ ※ ※
カインが眠るために部屋へ行こうとした時、キースが呼び止めた。
「カイン。実は俺もこの島の裏側は足を踏み入れてもいない。
なぜなら俺の前の守役に、
そこは危ないから近づいてはいけないと言われていたからだ。
俺たちは次の守役候補が来るまでは、
どんなことがあっても生きていなくてはならない。
だから、代々の守役たちは自分が危険にさらされることを極端に嫌ったんだ。
島の反対側は崖が多く、道も細い。
だから、お前も危険なことは頼むからしないで欲しい。
わかったな」
「はい。わかりました」
カインはしっかりと返事をした。




