カインと宿命 2
次の日、学校では皆が一様に暗い顔をしていた。
昨日、それぞれの親から話を聞いたのであろう。
皆、口数も少なくうつむいていた。
「カイン様・・・」
ジャンが不安そうな顔でカインの傍に寄った。
「昨日、王宮が騒がしかったのはこの事だったのですね。
カイン様も守役の選考には行かれるのですか?」
「うん。君と一緒に行くよ、ジャン」
「カイン様・・・」
ジャンは今にも泣きそうな顔をしていた。
「カイン・・・」
カインが声のする方に振り向くと、そこにはアリスが立っていた。
悲しそうな顔をしていた。
「アリス、君までそんな悲しい顔・・・しないで」
カインはアリスの肩に手を乗せると、
安心させるように優しく微笑んだ。
「カイン、お願い。どこへも行かないって約束して。
あなたがいなくなったら私・・・」
「・・・? アリス? どうしたの、突然」
いつも仲良しの友達だと思っていたアリスの態度に
カインは戸惑った。
「私、みんなの前で言うわね。みんなにも聞いて欲しいの」
アリスは大きく息を吸い込むと、
真っ赤な顔をしてカインに向かって言った。
「カイン、あなたのことが好き。
私をあなたのお嫁さんにして!」
アリスは、言い終わると同時にカインの首筋にしがみついていた。
え・・・
これって・・・プロポーズ・・・!?
あまりに突然のことで、カインは耳まで真っ赤になった。
頭の中は真っ白で、どうしていいのかわからなかった。
「カイン。私がこんなこと言うの、迷惑?」
アリスの瞳が自分の瞳のすぐ近くで不安そうに揺らいでいる。
その瞳を安心させたくて・・・
カインは思わずアリスの唇に自分の唇を重ねていた。
初めてのキスだった。
教室にいた全員がどよめいた。
ジャンは呆然と・・・その様子を見つめていた。
※ ※ ※
カインが父から話を聞いた日から5日後―――
王宮の庭に少年たちが集められた。
誰もが緊張した顔をしている。
その中にはカインとジャンの姿もあった。
「これから主神の守役となるべき者を選出する。
一同、整列しなさい」
バラバラだった少年たちが、きれいに整列させられていく。
並べることにより、選考しやすくするためだった。
壇上に1人の老人が立った。
この老人は“能力者”と呼ばれ、
人の気や生命力といったものが見えるのだという。
守役には、気や生命力が一番高いものが選ばれる。
気で主神をこの身に縛り、
少なくともこれから20年以上は生きなければならないのである。
能力者は壇上から降りると、ゆっくり少年たちに近づき
手をかざしながら1人1人丁寧に見ていった。
全員を見終わるまでには長い時間がかかる。
それでも少年たちは緊張のために列を乱さないばかりか
疲れた顔を見せる者もいなかった。
やがて全員を見終わった後、しばらく考えていた能力者は
自分の選んだ少年の肩を軽く叩いた。
そこにいた誰もが「おおっ!」と声を上げた。
選ばれた少年は・・・カインだった。
カインはしばらく目を閉じ、何かを考えているようだったが
やがて吹っ切るように顔を上げると、にこやかに笑った。
「わかりました。僕が行きます」
皆はカインの潔さに感嘆の声を上げた。
しかし、ジャンは立っていられないほどの衝撃を受けていた。
カインの母は・・・気を失っていた―――




