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第二話 魔物召喚

 ダンジョン『魔王の胎内』最深部にある居住スペース。扉を念入りに隠され関係者以外はたどり着けないであろうそこに、ディーズとリリアはやって来ていた。陰鬱なダンジョンの底にあるとは思えぬほど広々とした豪奢な部屋が広がっており、天井から吊り下げられた光の玉が暖かな光を投げかけている。


「凄い部屋だな」


「ダンジョンマスターは儲かりますからね。前のマスターさんもかなり羽振り良かったみたいですよ」


「へえ……」


 ところどころ金で装飾の為された部屋は、高級ホテルを思わせるほど贅を凝らした作りになっていた。ディーズはそんな部屋に置かれた、これまた玉座のような椅子におっかなびっくり腰掛ける。腰を優しく受け止められる感触は未知のもので、驚くほどしっくりくる。どれだけ稼いだらこんな椅子を買えるのだろうか――ディーズの頭の中を、少し俗な考えが廻った。

 

「経営方針は決まりましたから、まずは魔物の召喚ですね。労働力が居ないことには話になりません」


「そうだな。それで、どうすれば魔物って召喚できるんだ?」


 リリアはどこからか分厚い紙の束を取り出した。彼女はそれを、ディーズの前にある机の上に置く。紙には魔物の名前らしき単語が無数に見て取れた。


「基本的に、魔物の召喚には使い捨ての召喚陣を使いますです。そして召喚陣にはいくつかの系統とランクがありまして、それによって召喚できる魔物が違ってくるのですよ。召喚陣を使わずに魔物を生み出したり召喚する方法もあるのですが、今回は省略させてもらいますです」


「へえ、それでその一覧表がこの紙の束ってわけか」


「はいです」


 ディーズは紙の束にパラパラと目を通した。するとある部分を目にして彼の顔がたちまち曇る。


「なあ、これ結構お金掛かるんじゃないか?」


 ディーズの指は"0"が大量に並んだ数字を指差していた。彼は魔界の貨幣価値など知らないが、それでもかなりの大金であることはわかる。すると、リリアは心配ないとばかりに胸を叩いた。山が大揺れしたが、ディーズはまあ気にしない。


「それなりに高いことは高いですが、ダンジョンマスターはお金をたくさん借りられるので大丈夫なのですよ。……まあ、お金が返せなくて破産する人もたまにいますが」


「…………破産したらどうなるんだ?」


「……公開処刑です。破産しないように気を付けてくださいね」


 ――絶対に破産しないようにしよう!


 ディーズはそう堅く誓うと、真っ青な顔で何度も何度も頷いたのであった。彼は改めて紙の束を手にすると、値段と魔物の一覧をしっかりと見極めていく。この選択がひいては自分の命にかかわるのかもしれないのだから、必死だ。目が少し血走っているようにも見える。

 そうしてしばらくすると、ディーズはようやくどの召喚陣を使うのか決め終えた。彼は紙の束をすっとリリアの方へと返してやる。


「亜人種の赤銅級を三つと白銀を一つ、スライム種の赤銅級を一つ使おうか」


「了解です、すぐに取り寄せますですよ」


 リリアは水晶玉を取り出すと、手で何回かさすった。すると水晶玉に、リリアと同じメイド服を着た女性の姿が映し出される。リリアはその女性に素早く用件を告げると、水晶玉を懐にしまった。その直後、二人がいる部屋に紅い魔法陣が現れて何枚かの布が出現する。布にはそれぞれ複雑な魔法陣が織り込まれていて、これが先ほどディーズの頼んだ召喚陣のようだった。


「通販みたいだな。便利なもんだ」


「通販? なんだかわからないですけど、便利なのは確かですよ」


「あ、そっか。通販知らないのか」


「ええ……。って、今はそれよりも、早く魔物を召喚するのです」


 リリアに急かされたので、ディーズは早速召喚の儀式に取り掛かった。最初に使う魔法陣は亜人の赤銅級だ。これは主にゴブリンやオークなどを召喚できる魔法陣である。布を二人掛かりでで広げると、二人は早速儀式をする。

 ディーズはナイフで軽く手を斬り、契約に必要な血を魔法陣にささげた。そしてリリアが詠み上げる契約の言葉を復唱する。その間、リリアは魔力の使い方を知らないディーズから契約に必要な魔力を引き出していた。


「全能たる魔族の主よ、我に忠実なる僕を授けよ。我、古の契約に基づき召喚をせん」


「全能たる魔族の主よ、我に忠実なる僕を授けよ。我、古の契約に基づき召喚をせん」


 二つの声が連なり共鳴した。音に惹かれるように魔法陣が輝きを帯び、その中心に光が集中してゆく。やがて光は渦となり、冥界の底へと続くような穴を生んだ。その暗い穴の向こうから光が五つ、ほろほろと浮かび上がってくる。その光は歪み、曲がり、変幻自在に姿を変えてついに人型を為した。

 五体の亜人が現れ、ディーズに頭を垂れた。うち二体は緑色で子供ほどの背丈、鷲鼻と落ちくぼんだ茶色の眼が特徴の亜人。もう二体は茶褐色でディーズより僅かに低い程度の背丈、低い鼻と大きく裂けた口が特徴の亜人。そして最後の一体は天井に届くような巨躯を誇り、刃のような牙を口から生やした亜人であった。


「ゴブリンが二体、オークが二体、最後にオーガが一体ですか。オーガが出るとは運が良かったですね!」


「そうなのか?」


「ええ、赤銅級の召喚陣だと十回に一回も出ないのですよ。さあ、どんどん行きましょう!」


 二人は先ほどと同じように儀式を繰り返した。結果は最初の1つも合わせてゴブリン8体、オーク6体、オーガ1体、ブルースライムが3体、レッドスライムが1体、ホワイトプリンが1体の計20体。プリンはスライムの上位種であまり出ないので、まずまずの結果と言えるだろう。調子を良くした二人は、最後にとっておいた亜人の白銀級に取り掛かる。

 白銀級は一体しか魔物を召喚できない。その分召喚される魔物は強力なのだが、外れてしまえばそれまでだ。自然と儀式をする二人にもこれまで以上に力がこもる。


「全能たる魔族の主よ、我に忠実なる僕を授けよ。我、古の契約に基づき召喚をせん――」


 呪文を詠唱し終えた瞬間、空間を突き抜ける衝撃があった。魔法陣を稲妻が走り、光が爆発する。たちまちディーズの視界は白く染まって何も見えなくなった。そしてしばらくすると、彼の耳に――


「ご、ごごごご……ゴブリンですゥ!!!!」


 リリアの悲鳴が飛び込んできたのであった。

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