in my room
「痛って……」
頬の絆創膏を剥がしながら楓が呟く。
いまだ腫れの治まらぬこの傷は、三日前、付き合っていた彼女に別れの言葉と共に残されたものだ。
浮気をしたのは彼女のほう。なのに何故自分が振られなければならないのだろうか。
楓は大学生。彼女は年上のOL。楓より先に社会人になった彼女に対して、彼なりに将来のことまで考えていなかったわけではない。
それなのに。
不貞腐れて床に寝転がりながらカレンダーを見上げる。明日は誕生日だ。タイミングの悪さに当分立ち直れない予感がする。
忌々しい気分で舌打ちする、と、それに反応したかのように突然携帯電話が鳴り響いた。この着信音はサークル仲間だ。
「俺俺」
ディスプレイで確認してはいるものの、名乗らない友人に腹を立てる。いくら文明が発達して必要がなくなったとはいえ、礼儀というものがあるだろうに。
「何」
「明日暇だろ」
だからわざと不機嫌に対応したのに、にもかかわらず平然と問い返される。いや、問い掛けではない。フリーになったばかりと知っていれば自ずと導き出される結果だ。
ただ当たり前のように念押しされると少し、いや大分へこむ。
「だから何」
こういうきつい口調でもこの友人はへこたれたことがない。なんだかいつも飄々としていて、それが楓のキツさと丁度合わさるようだった。
「合コンするべ」
「はっ?」
「だから合コン」
……何を考えているのだろうか。
「そんな気分じゃねえし今……」
大体、楓が合コンを嫌いなことも友人は知っている筈だ。
しかし、やはり彼はめげなかった。
「まあまあそう言わずに。明日誕生日なんしょ」
「俺の為、とか言うなよ。全然嬉しくねえし」
「だーかーらー。聞いたら驚くって、絶対」
やけに力がこもっている。その自信のありように楓は興味を持った。
「……何?」
「聞いて驚け」
笑いを含んだ声で同じ言葉を繰り返す。
「なんと。相手はあの。白蘭学園です」