8、美女と野獣と時々わらし
今日は学校が始まって、2回目の登校日だ。
とても長い2日間だったような気がする。
座敷童が来て、1日の密度が以前より濃く感じるからだろうか?
今朝も座敷童にたたき起こされ学校に来た。
まだ馴染まない教室で授業を受ける。
そしてあっという間に昼休みになった。
新学期の学校は本当に時間が早く感じられる。
一真が弁当を持って俺の席にやって来た。
昶も後ろを向き、3人で昼食を食べ始める。
「わー!昶の弁当うまそう!」
一真が昶の弁当を覗き込みながら叫んだ。
俺も一緒に覗き込む。
きれいに焼けている卵焼きにソーセージ。
野菜も入っていて彩りも鮮やかだ。
「ほんと、うっまそーう」
「あー、これ自作」
「え!?料理できんの?」
「それなりに」
「すげー!」
こういう奴をできすぎ君と言うのだろうか。
一方座敷童は無関心のようで、
俺の母作弁当のハンバーグを幸せそうに頬張っていた。
たわいもない会話をしながら食べていると、次第に廊下が賑やかになってきた。
上級生の顔がチラチラ見える。
「何の騒ぎだろ?」
「今日から部活動勧誘が始まったみたい」
一真が箸で廊下を指す。
「ほら」
なるほど。確かに制服の生徒の中に、
道着やジャージを着ている生徒が紛れているのがわかる。
「柔道部よろしくお願いしまーす!!!」
「俺、あーゆうの嫌い」
威勢の良い声を尻目に、昶がそう言って卵焼きを口に入れた。
「熱くなってる体育会系って無理」
「そーゆう昶も体育会系希望じゃん」
一真がご飯をかき込みながらつっこんだ。
「熱血はヤなの。俺クールに走りたいから」
「そういや、専門種目聞いてなかったな。
昶は何やるんだ?」
口元に笑みを浮かべながら、昶の視線が俺に向けられる。
「初めの部活動集会までお楽しみ」
その瞬間、眼鏡の奥の瞳が輝いたような気がした。
食事を終えた頃、教室はいっそう賑やかになっていた。
多くの生徒が出入り口を行き交う中、一際目を引く美女が入ってきた。
明るい栗色で巻き毛のロングヘアー。
ブラウスからは谷間が覗いており、目を向けずにはいられない。
制服の上からでもEカップは推測できる、ボン、キュッとしたナイスバディだ。
「ね、君ぃ。もう部活決まってたりするー?」
甘い声で近くにいた男子生徒に声をかけている。
「なんか、すげぇ姉さん入ってきたぞ」
一真と昶もすでに見とれていたらしく、すぐに頷いた。
「制服姿が犯罪だな」
「ダンス部?あ、キャバクラ部?」
「一真、キャバクラ部なんてあるわけないだろ」
「……虐めてみてー」
「昶、早まるな」
すると美女の後ろから、体格の良い男がぬっと教室に入ってきた。
顔立ちはまさに肉食系イケメン。
キリッとした眉にギンギンとした目つき。
髪は後ろに流されツンツンたっている。
180センチメートル以上あるだろう長身に逆三角形の体つき。
そのため教室の入り口が小さく見えた。
教室の女子の声が、心なしか大きくなった気がする。
「うわ!でかい人入ってきた!しかもイケメン」
一真が真っ先に声を出した。
「ラグビー部?」
「見るからに俺の苦手なタイプ」
「わしはあんなたくましい男になりたいがのう」
突然座敷童が会話に入ってきた。
だがもちろん聞こえているのは俺と一真だけで、昶には聞こえていない。
「ざー君のお墨付きなら……」
「おい一真!」
一真は俺のあわてた声にはっとなる。
良かった、昶は何も気づいていないようだ。
「サクラ!収穫あったか?」
でかい美男子が大きな声で先に来ていた美女に話しかけた。
声も迫力がある。
って、それより俺が驚いたのは2人が同じ部活だということだ。
「まじでか」
俺がぼそっと呟くと一真も昶も頷いた。
一真がごくりとつばを飲み込む。
「この学校、ホストとキャバクラあんのか」
「待て待て」
俺はすかさず一真を止める。
その時、美女とはっと目があった。
くすっといたずらな笑みを浮かべてこちらへ歩いてきた。
「やっほー。ねぇ君たちぃ~」
ヤバい。逃げられない。
俺は一真と昶に視線を送る。
2人とも諦めの表情を返してきた。
先ほど「サクラ」と呼ばれた美女が、
少し腰をかがめて俺たちに微笑んだ。
ちょ、谷間っ…………!
「ねぇねぇ!もう部活とか決まってる~?」
「あ……まぁ……」
俺はどぎまぎしながら答えた。
「やーん!君、子犬みたいに可愛いわね!
こっちの彼は眼鏡のイケメン!
私超タイプかもー!」
おい、俺を無視するな。
のどまででかかった言葉を、
上級生であったことを思い出しのみ込んだ。
隣で座敷童が俺を馬鹿にしたように笑っているが、
気づかないフリをしよう。
「俺たちもう決まってるんで勧誘ならお断りします」
昶が真面目に言い切った。
こいつしっかりしてんなぁ……
「えー!残念ね。まぁ基本的にグランドで活動してるからさ。
興味あったら見に来てよ。陸上部よろしくーう」
美女は俺たちにウィンクをすると、軽く手を振り去っていった。
……ん?陸上部?
「あの人、陸上部って言った?」
恐る恐る一真と昶に訪ねる。
わ、2人共青ざめた顔……
「ま、まっさかー!」
「でも、間違いなく言ったぞ。陸上部って」
一真の大げさな笑いを昶が冷静に否定した。
もう一度振り返ったが、
もう先ほどの美女とイケメンの姿は見あたらなかった。
どんな陸上部なのかな。
とりあえず、来週の部活動集会が楽しみだ。
短いながらも久々の更新です。
私情の忙しい時期が過ぎたので、
また更新頑張りたいと思います。
今後も不定期な時もあると思いますが、
よろしくお願いします!