6、おかっぱの本音
親友の突然の告白。
いや、誘導告白と言うのだろうか。
10年近くの付き合いになる親友が、
初めて勇気を出して打ち明けてくれたこと。
それは、幽霊が見えること。
「…………驚かないの?」
「いや、驚いてるさ」
半分嘘だ。
だって朝から気づいて心の準備をしてたから。
「俺、ちょっと珍しいらしくて……
見えるだけじゃなくて、触れちゃう、話せちゃう
その気になれば知ってる霊は呼べちゃうみたいな……」
「まじか!」
今は本当に驚いています。予想をはるかに上回る展開。
そんなアニメの主人公体質な奴がこんな近くにいたなんて。
「それでっ!本当に言いにくいんだけど……
実は朝から涼介に男の子の霊が取り付いているんだ!!」
一真はビシッと座敷童を指差し語尾を強める。
「なっなんじゃと!
わしをあんな低能な幽霊なんかと一緒にするな!」
座敷童は小さな拳を突き上げわめいているが、
一真は無視して話し続ける。
「でも安心して!ずっと見てたけど悪霊ではなさそうだし、
なにより可愛い!!」
ぴたっと座敷童の抵抗がとまる。
「ほーう、わしの可愛いさが分かるなんて
どっかのもやしとは大違いじゃ」
にたにたと横目で俺のことをみている。
一真め、無意識だろうがさっそくこいつから
好感度を勝ち取りやがった。
俺は座敷童を睨み返してから一真に視線を戻した。
興奮して顔が少し赤くなっている。
「お、俺、いい霊媒師知ってるから……!」
「一真」
俺は優しく微笑みかけた。
「ありがとう。実はこのおかっぱ、俺にも見えるんだ」
「えっ?!」
気持ちいいくらいの驚いた表情。
うん、いい反応だ。
「まさか、涼介も……」
「いや、違う、ちょっと待て」
俺は慌てて手のひらを前に出し一真の言葉を止める。
「話すと長くなる」
まぁ、こいつが来てまだ1日しかたってないけどさ。
一真は驚いた表情のまま固まっている。
当然の反応だろう。
「なんじゃ、言ってしまうのか涼介」
こちらにも驚いているやつがもう1人。
会話している俺たちを見て更に驚く一真。
「とりあえず、家にこいよ」
俺は満面の笑顔で言い放った。
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俺は一真を自分の部屋にあげると、麦茶を2杯用意して部屋に戻った。
一真は早くも座敷童と打ち解けたらしく、
俺がドアを開けた時には、すでに質問タイムが始まっていた。
「へぇー!じゃあざー君は涼介のおばあちゃんのところから来たんだ!」
「そうじゃ。トメさんは優しくて暖かいお方じゃったわい」
座敷童はベッドの上で胡座をかき、偉そうに腕組みをしていた。
一真はフローリングの上に敷かれたカーペットの上で、
瞳をきらきらさせて座敷童を見上げている。
「おい、一真。こいつざー君なんてキャラじゃないぞ」
俺はにやにやしながら一真に麦茶を差し出した。
「あ、ありがとう。……でもざー君て呼べって」
「こんなの、わらしで十分だ」
「何を言うか涼介!
お前少しは素直な一真を見習ったらどうじゃ!」
座敷童がギャーギャー吠えている。
「わらしなんて可愛そうだよ。せめて……」
んーっと一真は考え込む。
俺と座敷童が黙って言葉を待つと、突然ひらめいたようにポンッと手を打った。
「ざきわら!」
「ザキヤマみたいに言うな」
思わず俺はつっこむ。
「ざしわら?」
「いやじゃ!」
本人からの拒否反応。
再び一真はうーんと唸りながら考え込んだ。
その時、俺はいい考えを思いついた。
「そういや、わらし。お前ビー玉の話したとき、
前世で強い思い入れのあったものって言ってたよな」
「あぁ、言ったぞ」
「つまり、お前には前世があったんだ」
「当たり前じゃ。お前、バカじゃろ」
俺は少しいらっとしたが話を続けた。
「じゃあさ、前世の名前でいいじゃん。
それなら文句ないだろ?」
「おー!涼介ナイスアイディア!」
一真と俺は座敷童に顔をむけた。
ぽかーんとした表情をしている。
…………あれ?
「おい、どうなんだよ」
「あぁ、それは無理じゃ」
あっさりとした返答。
「えっ!?なんで?」
一真も食らいつく。
座敷童は腕を組み、うーんと悩んだそぶりを見せると、
不安そうな顔で俺と一真を交互に見た。
「お前らに話したところで、
どうせ無駄だと思ったから言わなかったのじゃが……」
「何もったいぶってんだよ」
「なにか問題でもあるの?」
座敷童は少しうつむいて話し始めた。
「……座敷童にとって、前世の名を得ることは、
この世から解放される鍵となるんじゃ。
その名で呼ばれたとたん、契約は解除される。
つまり、成仏できるんじゃ」
「えっ?」
思わず驚きの声がもれた。
「じゃあ……その後はもう、ざー君に会えないの?」
一真が寂しそうに問いかけた。
「そういうことじゃ」
三人の間に沈黙が流れる。
部屋は緊張感につつまれていた。
「……さっき、俺たちに話しても無駄だと言ったな」
俺は思い切って話を切り出した。
真面目な顔で座敷童を見つめる。
「お前、成仏したいんだな?」
俺ははっきりと言い放った。