5、普通は意外と珍しい
キーンコーン カーンコーン
1日の学校を締めくくるチャイムが鳴り響く。
俺は帰る準備を終えて、玄関で靴をはきかえていた。
「高校とはなかなか愉快なところじゃのう。
ただ授業が長くて眠くなるわい」
隣で座敷童がぐーっと伸びをしている。
確かに子供には疲れるところだろう。
「おい涼介、今わしのことを子供とか思ったじゃろ」
ぎろっと俺をにらむ視線が痛い。
そうか、こいつ心読めるんだっけ。
今日学んだ唯一の座敷童情報だ。
「じゃあ声出さなくても会話できるじゃん」
俺は思わずぼそっと呟く。
「それは少し違うぞ涼介!」
歩き出した俺に、座敷童は慌てて付いてきた。
「心を読むとき、わしらの頭にお前の心はイメージで流れ込むのじゃ。
じゃから正確に言葉を交わすのとは違う」
腰に手を当てて偉そうに説明している。
「お前達が仏壇に向かって無言で
拝んでいるのを先祖は受け取るじゃろ?
わしらのもそれに近いといって良いかのう」
「ふーん……」
またまわりに変な目を
向けられたくなかったので、
俺は極力言葉を返さないように努めた。
「おーい!りょーすけぇー!!」
その時後ろから聞き慣れた声と
バタバタ足音が聞こえてきた。一真だ。
朝のように俺に追いつくと足を止め荒い息を整える。
「大丈夫か、一真…」
「い、一緒に帰ろ!」
汗だくの満面の笑顔をむけられる。
くせ毛がふわっとはね上がった。
「あぁ……つーか言ってくれれば待ってたのに」
「いや、いいのいいの」
俺と一真は並んで歩き出す。
途中までは方向が同じだ。
座敷童もてくてく俺の隣を歩いている。
「いやそれにしてもさ、昶って意外というかさー。
人は見かけによらないよなー」
「いやむしろ見た目そのものなんじゃ……」
なんだか一真の話し方がいつもより不自然に感じる。
視線が相変わらず座敷童にちらちら向いているからだろうか。
何度も何か言いたそうな顔を俺に向けている。
とうの座敷童はというと、
一真と何度も目を合わせてはいるが一言も口を開かない。
いい加減じれったいな…………
「おい、一真」
「ん!?」
びくっとわかりやすい反応。
「お前、さっきからなんか俺に
言いたいことあるんじゃないの?」
「え?えーっと……」
「なんかお前変なんだよ。
何年一緒にいると思ってんだ?
俺がお前の違和感に気づかないわけないだろ」
「涼介……」
すると突然、一真は足を止めた。
俺も立ち止まり一真に向き合う。
大丈夫、俺の心の準備はできていた。
たとえ一真が霊感抜群な不思議少年だろうと
受け入れるに決まっている。
「……驚く、だろうけど」
「あぁ」
「ど、どん引きするかもしれないんだけど……!」
「あぁ」
「実は俺…………」
さぁこい!
「子犬って言われたの、
ちょっと嬉しかったんだよね」
……………は?
「え……っと……」
「あ!ほら昶にさ、言われたじゃん?
ちょっと喜んでる自分が……」
「それじゃないだろ!!!」
トラックが俺たちの隣をブーンと走りさった。
俺はまさに開いた口が塞がらない状態。
なにさっきのくだり。
あんだけためてじらしてこの落ちはないだろう。
改めて大きなため息をつく。
一真に言う気がないなら仕方がない。
もう一度、戸惑う一真に目を向けた。
「いや、いい……帰ろう」
俺は背を向け歩き出す。
「なんじゃ、つまらんのう」
座敷童も期待はずれの出来事だったのか
ふいっと一真を置いて俺について来た。
「ちょ、涼介っ!」
ぐいっ
「………ッ!!」
いきなり一真に腕を捕まれた。
俺は思わず立ち止まり、驚いた目で一真を見る。
「かず……っ」
「違うんだ、俺が言いたいのはそれじゃなくて…」
言葉を探すかのように、口をぱくぱくさせている。
「………その…」
俺は黙って言葉をまつ。
一真の目は座敷童に向けられた後、再び俺にむけられる。
その瞳からは迷いの色が消えていた。
「……俺、幽霊見えるんだ」
短いのは気分です、すみません。
以前に評価して下さった方
ありがとうございます!
読んでくれた方がいることに感動です!
なかなか書く時間がなくて不定期更新ですが
よろしくお願いします。