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3、ニックネームも楽じゃない




ジリリリリリリリリリ……


目覚まし時計の音が鳴り響く。

起きなきゃ、止めなきゃって分かってはいるが

布団から出たくないのが朝の誰もが初めに抱く欲求だろう。


あと5分―……




その時だった。


急に体がずしっと重くなる。

なんだこれ?まさか、これがいわゆる金縛り……!






「起きろ涼介りょうすけ!朝じゃ!早くこのうるさいのを止めろ!」




うっすらと目を開けると目の前には鳴り響く目覚まし時計。

俺の体の上におかっぱ頭の男の子がまたがり、

顔にぐいぐい目覚まし時計を押し付けてくる。


そしてだんだん寝ぼけた頭に昨夜の出来事がよみがえってきた。





加藤涼介、今日から晴れて高校一年生。

そして同時に座敷童との共同生活がスタートしました。

ちなみにこの座敷童、見た目の可愛さとは裏腹に



「聞こえておるか!起きろボケナス!」



……かなり毒舌のようです。






「あーわかったから!」


俺は耳元に突き付けられた目覚まし時計のうるささに耐えきれず、

カチッと音を止めるとしぶしぶ布団から起き上がった。


「寝坊は不幸とみなした。だから起こしてやったんじゃ、喜べ」

「なんか幸せの提供のしかた、雑じゃない?」




俺は洗面台に向かい顔を洗い、着替えてしたくをすませると

朝食をとるため一階の台所に向かった。

座敷童もてくてくとついてくる。



台所では母さんが俺と父さんの弁当の準備をしていて、

父さんは中央のテーブルで新聞を開きながら朝食を食べていた。


母さんが驚いた顔で振り向く。

「あら、珍しい。私が呼ぶ前に自分で起きてくるなんて」

「今日から高校生だもんな、偉いじゃないか涼介」

父さんもコーヒーをすすりながらこちらを向く。


「あ、あぁ。まぁ……」

へらへらと笑いながら俺もテーブルについた。

「何を笑っておる、わしにたたき起こされただけじゃろうに」

隣で座敷童がぶつぶつと何か言っているが、

父さんも母さんも全く反応していない。

どうやら認識してないと声も聞こえないようだ。

 



朝食はトーストとサラダとソーセージに、昨晩の余りものだった。

俺がトーストをほおばると、

それを座敷童がじっと物欲しげな目で見つめた。


「美味しそうじゃのう」

「ん、お前って食べれるの?」

「なんか言ったか?」

向かい側に座っている父さんが新聞から顔をあげた。

「い、いや何も!」

俺は慌てて牛乳を口に流し込む。

座敷童は話し続けていた。

「わしらは食べなくても平気じゃが、唯一の娯楽ってところじゃな。

 お前がわしにそなえてくれれば味わうことができる。

 物を直接体に吸収はできないがな。

 トメ殿は毎日わしにも食事を与えてくれたもんじゃー」


上目づかいでちらちらと俺を見てくる。



「ふーん……どうすればいいんだ?」

「食べさせてくれるのか!」

「別に無くなるわけじゃないなら、

 お前が食べたそれを俺が食べればいいだけだし……」

「嬉しいぞ涼介!久しぶりの食事じゃ!」


するとまた父さんが心配そうな顔で俺を見る。

「おい、お前どうした?ひとりでぼそぼそ、やっぱり変だぞ」

母さんが目玉焼きを運んできた。

「この子昨日の夜からちょっとおかしいのよ。

 子供!とか言って…… 

 もう私に兄弟の期待はしないでって言ってるでしょー」


いや、誰も期待してないよと思いながら目玉焼きを受け取る。


「別になんでもないって、ちょっとその、考え事を……」

適当な言葉でごまかす。

隣では座敷童は早く食べたいのかそわそわしていた。

「涼介、こうじゃ!

 わしに向かって仏壇に参りをするように拝むだけでいいんじゃ」 

「え?こうか?」



俺は座敷童に向かって両手を合わせて頭を下げた。

顔を上げた時、目の前にいたのは母さんだった。

いや、正確に言うと座敷童を母さんの体が通り抜けている。

体も認識してないと触れないのか……

と、感心していると母さんがわなわな震えている。



「か、母さんどうした……」

「涼介、あんた……」

「い、いや、これは別に」

「やめて涼介!そんなに兄弟を頼まれても無理よ!」

「涼介、母さんを困らせるな!そして俺も困らせるな!

 いや俺だってまだまだ現役ではあるが……」

「何言ってんのよあんた!」


「母さんも父さんも誤解だああああああ!」




加藤家三人、わあわあ騒いでいる傍らで、

座敷童は幸せそうに目玉焼きを口いっぱいにほおばっていた。





――――――――――







「ざしき、ざっしー、ざしわら…………」


俺は登校道を腕を組みながら歩いていた。


「何をぶつぶつ言っておるんじゃ?」


座敷童は後ろから俺の肩に腕を回してしがみついていた。

左の耳元で声がする。

「お前の呼び方だよ」

「だからざー君と呼べと言っただろう」

「誰が呼ぶか」



呼べ!とぽかぽか頭を叩いてくる。


それにしても不思議だった。

昨夜抱き上げた時は確かに子供の重さを感じたのに

今は背中に乗っかっているが少しも重さを感じない。

頭の痛みは感じるが…………


「お前、体重変えられるのか?」

「もちろんじゃ、わしを誰だと思っておる。

 お前の負担も考えてやっているんじゃ、感謝しろ」

「いや座敷童だと思うことにしたけど……」

「その気になれば空も飛べるはず」

「じゃあ飛べよ」

「いややっぱ飛ぶのは白装束しろしょうぞくというルックスの問題が」

「知るか!!!」



思わず声がでかくなる。


「そもそも座敷童って部屋にいるもんじゃないのか?」

「引きこもりも多いがな、基本的には契約物と共にいるもんじゃ。

 お前がそのビー玉を首から下げとるから、

 わしもお前の近くなら移動可能じゃ」

「ふーん、まあ知らないところで変なことされるよりは

 近くにいてもらった方が安心だな」


「それより涼介」

「ん?」

「お前もうちょっと学んだ方がいいぞ」


何のことだ?と思い周りを見ると

近くを通る人たちがやけに冷ややかな視線を俺に向けている。



いや違う、これはいわゆる痛い視線だ。



俺は急に恥ずかしくなり声を抑える。

「お前そういうことは早く言え!」

「ふん、教えてもらっただけでも感謝するんじゃな」





その時ばたばたと後ろから足音が聞こえてきた。



「おはよう涼介―!」



一真かずまが手をぶんぶん振りながら俺に向かって走ってくる。

「あ、一真おはよ」

俺に追いつくと背中をばしっと叩いてきた。


「はっはっは!なんだ涼介―!

 子供は学校に連れて行っちゃいけないんだぞ」

相変わらずのテンションでけらけら笑っている。



ん?ちょっと待て、今こいつ…………



「あれ?」

急に一真の顔からすっと笑顔が消える。



「あ……やべ、間違えた…………」

「え、どうしたかず……」

「ごめん!今の気にしないで!

 俺実は霊感あるとかそんなんじゃないからね!」


慌てた様子で両手を振り、また笑顔に戻ると走り出した。


「教室で会おう!」

「待て待てごまかすなー!!」

俊足で走り去っていく。





今あいつ…………

「完全にわしを見ていたな」

「やっぱり?」

なんだか額を嫌な汗が流れ落ちた。



「お前、霊感あるやつには見えちゃうの?」

「まぁあんな低能なやつらと一緒にされたくないが、

 部類は幽霊みたいなもんかのう」

「それって意外と見える人多いんじゃ……」

「わしは目が合ったやつは初めてじゃ。

 さっきの男はなかなか強い霊感の持ち主なんじゃろう」

「一真がそんな・・・今まで聞いたことねえよ」


「お前、人のコンプレックスを探るなんて最低じゃな」

「え、いやそんなつもりは」


……そうか、知られたくなかったのか。

とりあえず俺は、座敷童の存在に気付いてないふりを通そうと思った。

さっそく新学期、ひとつの不安が生まれた。




「まぁ、思い詰めるな涼介」

座敷童が後ろから耳たぶをぐいぐい引っ張る。

「……決めた」

「ん?」


俺はぐるっと首だけ座敷童に向け言い放った。




「わらし!呼び方、わらし!決定!」


「ふざけるなカス野郎!!」




そしてとうとう俺は、学校についてしまった。









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