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20、勢いで生きるのも悪くない



突然の親友の告白。


そういや、前もこんなことあったよね。

でも今回はあの時とは違う。


なんたって、今回のことは下手したら俺の青春を左右する可能性があるからだ。



よくあるじゃん、親友と女を取り合って友情破滅とか。



平和主義の俺だもん。

そんなの絶対嫌だからね!



それにしても……

こういう時ってどう返すのがベスト?

誰か恋愛の教科書出版してくれればいいと思う。

俺はコホンと咳払いをした。

ちらっと一真かずまを見ると相変わらずそわそわしている。




落ち着け、俺。



そうだ、こんな子犬みたいな少年が

そんなドロドロコメディーを作り始めるわけがないだろう。


一真だってきっと平和主義だ。

何か考えがあって俺に話したはずだ。



いけ!俺!



恋愛や友情に教科書なんていらないのさ!





「なぁ、一真。俺さ、お前のことは親友だと思ってるし

これからも熱い友情築きたいし…

でも何が言いたいかっていうとね?

俺の気持ちを知っててそういうこと言うなんて…

いい度胸してんじゃねえかおい!」




最後は我慢できませんでした。



ドンマイ俺。


案の定目に映ったのはポカーンと口を開けている

一真のあっけらかんとした表情。




やらかしたぁああああ!!





「勘違いしてない?佐々木じゃないよ?」




――……え?



だって美夜ちゃん以外に女の子なんて……




「田辺千夏」



「…………あ」




忘れてました。




「あーもう!名前言わせんなよー!」


一真はうあーっと恥ずかしそうに頭を掻きむしり始めた。


俺はものすごい脱力感。



「あー、田辺千夏ね!ごめん、本気で忘れてた」


へらっと笑って謝ってみる。

むすっとしながらも一真は許してくれた。


本当に良かった。


美歩ちゃんとか言われたら俺の脳内今頃噴火してたよ。



一人妄想だけで頭抱えてた自分が情けない。




「にしても、なんで急に?」


歩き出しながら俺が問いかけると、

一真は照れくさそうに俯いたまま口を開いた。


「練習でよく話す機会も前からあったんだけどさぁ」

「そういや、短距離と跳躍ブロックは良く一緒に練習してるもんな」

「それで、この間の大会の時やっとアドレス交換して……」

「マジか!?」


目を見開いて一真を見ると、にへっと歯を出して笑い返してきた。


「いつの間に抜け駆けしてんだよー」

「涼介が5000メートルのアップ行ってた時」



嗚呼、なんてことだ。



俺なんて田辺千夏とは挨拶と最低限の会話しか

した事が無いというのに……


てかずっとフルネーム呼びなんですけど。

千夏ちゃんとか呼び始めようか?



「で、ちち千夏ちゃんと……なんかあったわけ?」



たとえそれが本人の前じゃなかろうと

初めて名前を呼ぶことにさえちょっと緊張するのが童貞です。





「童貞と言うより、ただのビビりじゃの」



「あー……はいはい」



いつの間にか座敷童が俺の隣にいて、含み笑いを浮かべて一真を見ている。



「一真に一歩越されたのう」


「うるせぇ」


こいつ、本当に俺を馬鹿にするのが好きなんだな。

これからは愛情表現としてうけとるか。





「んでまたメールが可愛くってー」



相変わらずデレデレしながら話を続ける一真。



いや、越されてないよ。


俺だって美歩ちゃんのアドレス知ってるし!


メールだって、したことあるし!



……まぁ、事務的なものだけど。



「よし、勝負だ一真」

「へ?」



俺はビシッと一真に指を向けた。


あ、ちょっとこれ格好いいかも。





「勝負?」


一真は俺の提案に、キョトンと不思議そうに首を傾げた。


「あぁ。どっちが先に彼女できるか勝負しようぜ」



ニヤリと笑う俺に相変わらずポカンとした表情。

え、何そのつまらない反応。



「ん……別にいいけど。でも俺ー……」



俺から目を逸らしそわそわしている。



「でも、なんだよ」


「県大会終わったら、告白しちゃおうかなって」




……………え?




「えぇえええ!!!!」



「そ、そんなに驚かなくても……」


「黙れ涼介」




いやいや!驚かないわけないだろ!


県大会まで後2週間だぞ?


なに一真の奴、そんなに順調なの!?




心の中ではいろいろと言いたいことは浮かぶが……

驚きすぎて声にならないとはまさにこのことだと思う。




「だから勝負してもいいけど……」


「いや、気にするな。止めておこう」




俺の蓄積された美歩ちゃんへの恋心は、

まだ当たって砕きたくありません。





「まぁ、とにかくさ。涼介には話しておこうと思ってたんだ」



気づけば一真と分かれる道についていた。

立ち止まり、照れ笑いを浮かべる一真。


なんだこの幸せそうな顔は。まだ付き合ってないだろ。

俺と同じフリー人間のくせに!


でも実際一真は俺と違って中学の時からモテる。

同級生よりは年下や年上にモテるタイプだ。


もしかして俺って引き立て役?



ま、どうでもいいか。



「じゃーな、一真。

調子に乗って千夏ちゃんの前でぽろりと心霊現象の話しすんなよー」


「あっ、そう!それ!待って涼介っ」



俺はひらりと手を振り立ち去ろうとしたところを、一真に呼び止められた。




「なに?」



面倒くせぇ、ってちょっと思いながら振り向けば、

一真の表現は先程までと変わって真剣なものになっている。


俺の前を歩いていた座敷童も立ち止まり振り返った。

不思議そうな表情で一真を見ている。





「千夏ちゃん、変な霊に取り憑かれてるかもしれないんだ」




「――……え?」




真剣な一真。


きょとんとしてる俺。


しばしの沈黙。




突然のオカルト能力発揮に俺の思考回路追いつきません!!




「……は?取り憑かれてる?」


「そう!」


「いや、意味分かんな……」


「そのままだよ。最近、俺達と同年代くらいの女の子が、

いつも千夏ちゃんの背後に着いて歩いてるんだ」


「み、見間違えじゃ……」


「その子の制服、俺達の高校と違うし、

眼帯つけて頭に包帯巻いてるし、

足は少し地面から浮いてるし……それに―……っ!」



「分かった!分かったから!

本物って言いたいの分かったからストップ!」




俺は慌てて一真の言葉を止めた。


座敷童と暮らしていても、未だにこういうホラーな話は苦手だ。


格好悪いことくらい重々承知。



恐いのを恐いと言って何が悪い!




「―……で、だからなんだっての?」



俺は頭を整理し、ゆっくりと一真に尋ねた。



「そいつが悪霊……って訳でもってないけど、

怨みとか妬みの強い邪気を感じるんだ」



「だから、心配だと?」


「あれは絶対祓った方が良い種類だよ。

でも普通言ったところで信じてなんかもらえないだろ?

涼介の場合は、別だったけど」



確かに座敷童は俺にも見えてるのだから、

一真の話を疑う必要は無かった。



でも普通の人に「あなたは霊に憑かれている」

なーんて言ったところで……






「ま、一種の宗教団体じゃな」



「座敷童のお前が言うなよ」




「とにかく、どう話を切り出せばいいか判らなくて……」



一真は溜め息と共に肩を落とした。

恋愛相談、にしては特殊な相談だなぁ。



「んなこと相談されても、俺も経験無いしなぁ……

ありのまま全部話しちゃうしか―……」


頭をポリポリ掻きながら提案してみる。



「俺の特殊体質を受け入れてくれると思う?」



「んー……だってそれ以外方法無いだろ」



「そ、そうだけど……」




一真の気持ちが判らないんじゃない。


俺だって美歩ちゃんに「座敷童と同居中です!」なんて

言えるわけ無い、言いたくない。




「何故じゃ?」



「え?」



突然、座敷童が俺の制服の袖をくいくいっと引っ張れば、顔見上げてきた。


今考えてたことを読まれたのだろう。




「何故って、変な奴って思われるだろ」


「涼介はわしがいなくとも、十分変な奴じゃろ」


「はぁ!?いや、そういうのじゃなくて―……」




「もし、わしを理由にお主を拒むのなら、

それはお主自身を好いていると言えるのか?


お主を本当に好いているのなら、わしの存在など関係ないではないか」





座敷童は真っ直ぐな瞳を俺に向けたまま、淡々と無表情で言葉を言い放った。


俺と一真は座敷童の言葉に思わず固まっていた。

座敷童はそんな俺たちの反応に不思議そうに首を傾げる。




座敷童の発言は、時々俺の思考を止める。



綺麗な言葉、ちょっと言うのが恥ずかしいような言葉を

こいつはさらっと言ってしまうことがあるからだ。



現に今も、俺は何も言い返せなかった。

心臓が、どくんっていつもより大きく脈打つ。



濁りを知らない澄んだ大きな瞳からは、目を離せなくなる不思議な力を感じる。




「―……そう、だよな」



口を開いたのは一真だ。



「そうだよな!関係ないよな!さすがざー君、良いこというじゃん!」



先程まで緊迫していた表情が、ぱっと明るい笑顔に変わった。



あ、いつもの一真だ。



一真の笑顔につられたのか、気づけば俺も笑っていた。

そんな俺たちを座敷童は相変わらず不思議そうな表情で見上げている。



「なんじゃ、わしは何も面白いことなど言っておらんぞ」




ぶすっと口を尖られば、腰に手を当て首を傾げる。


純白な発言をする時は子供の無邪気な面を感じるけど、

こういうちょっとした仕草が時々おっさんっぽいんだよな。



俺は笑いながら座敷童の髪をわしゃわしゃと撫でた。


何故か、可愛く見えたんだ。




「触るな無礼者」




そして直後に自分の行動を後悔する。

バシッと腕を退けられ、キッと睨み付けられた。


まぁ、いつものことだけどね……




「有難う、ざー君。俺、なんか勇気出た!」



一真がとびきりの笑顔を座敷童に向けた。



ちょ、結局相談した俺より座敷童ですか。

いいけどね。

どうせ大したこと言ってないし。



「じゃ、帰るか。つまり当たって砕けろってことだ」


「それは涼介でしょ」


「うっせー」



俺たちはケラケラ笑いながら別れた。

家に着くまでの道のりで、座敷童はぴょこぴょこと俺の前を歩いた。



こんな小さなガキが、幸せを運ぶんだもんな。



一真の恋愛も、案外あっさり上手くいくような気がする。



じゃあ、俺の恋は……?





「おい、着いたぞ涼介。さっさと扉を開けろ!

わしはお腹が空いたのじゃ」



「あー、はいはい」



やっぱりこいつは、

生意気なおかっぱの子供にしか見えないんだよね。






大変長らくお待たせいたしました!

見捨てずにいて下さった読者様本当に有難うございます。

私はあなたを愛していまs

更新にあたってのぼやきは活動報告の方に綴ろうと思っていますので、

お暇があれば覗いてやってくださいませ。

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