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18/21

17、犬も見た目が9割


日曜日になった。



ポチの飼い主の家には母さんが送ってくれることになり、

朝から一真かずまも一緒に車に乗り込んだ。

もちろん、座敷童も一緒。



飼い主には事前に電話をしておいた。

電話の声は明るいお婆ちゃんだった。



車に乗っている間、始終座敷童はポチに抱きついていた。

相当離れたくないのだろう。

初めはポチの方が座敷童にベッタリだったのに、立場が逆転している。


ちなみに俺は助手席に座っていた。


一真は後ろで座敷童と一緒に別れを惜しんで涙目浮かべていた。


あと、さり気なく母さん。


「教えてもらった地図だともうすぐ着くわよ。

あーあ!これでもうハチとはお別れなのね」



ああ、母さんの犬のイメージはそっちか。




いつの間にか、周りに並ぶ家は古い造りの大きな家ばかりになっていた。

細い道をのろのろと進んでいく。

「あ、あの角じゃない?」

俺は地図を確認しながら、母さんに指で指示した。

車を止めて表札を確認すると、飼い主の名字と一致している。


「ここみたいね」


「でけぇー」



なかなか立派な石造りの門構えで、玄関までの道には石畳まで敷き詰められている。

大きな松も植えられており、昔ながらの雰囲気を感じた。

瓦の屋根に茶色の木の家。ちょっとした豪邸だな。


玄関のすぐ脇には赤い屋根の犬小屋が建てられてある。

多分これが、ポチの小屋だろう。




ポチは車から降りるや否や、手綱をつけていないにも関わらず、

真っ直ぐ玄関に向かって走り出した。

それを真っ先に座敷童が追いかけた。俺と一真も慌ててそれに続く。


「…………あっ」


突然、玄関の前で座敷童が立ち止まった。

「どうした?わらし」

「……嫌な予感がするんじゃ」

「は?嫌な予感?」

「わし……多分ここを知っている」

「えっ?」




ピンポーン




「はーい」


「すみませーん!お電話した加藤ですー」



いつの間にか、母さんがインターホンを鳴らしていた。

中からは女の人の声が返ってきた。


「あら!」


ガラガラっと玄関のドアが開くと、年老いた白髪パーマのお婆さんが顔を出した。


「ジョン!本当にジョンなんじゃねえ!」


「ワンっ」


お婆さんがポチを呼ぶと、ポチも嬉しそうに、

尻尾をぶんぶん振りながらお婆さんに飛びついた。

ちぎれるんじゃないかって心配になるくらいの勢いだ。

お婆さんの方も涙目を浮かべている。



つか、名前ジョンかよ!ちょっ、かっこよくね?



お婆さんはジョンから顔を上げると、慌てて立ち上がり深々とお辞儀をしてきた。



「あぁ、あんた方がジョンを見つけてくれたんかの!

本当に何とお礼をしたら良いものか―…ん?」




気のせいだろうか。


お婆さんの視線が俺の横にいる座敷童に向いているような気がする。



いやいや、まっさかあー




「加藤さんと言ったかね?」

「はい」

母さんがすぐに返事をした。


「加藤……もしかしてあんた、加藤トメさんの娘さんかい?」



えっ?



「あ、私はそのトメさんの孫の嫁です」

「あー!どーりでねえ。男の子もいたんじゃったかな。じゃあけ、ざー君が」

「はい?ざー?」



「あーっ ゴホゴホっ」



俺は慌てて咳をする真似をして、お婆さんの目を引きつけた。

一真まで隣でケホケホやっている。

俺と目があった瞬間、お婆さんは心得顔を見せると再び母さんに向かって微笑んだ。


「ほほっ なるほど。これも何かの縁かねぇ」


あっぶねー!母さんに座敷童がバレるとこだった!

このお婆さん、物分かりが良い人で良かった。




お婆さんはいそいそとジョンに首輪と手綱を付けた。

「今度は新しいやつじゃっけねえ」

お婆さんはぶつぶつジョンに話しかける。

どうやらジョンが迷子になった理由は、首から首輪が抜けたせいだったようだ。


その作業が終わると、お婆さんは再び笑顔で俺達を見た。

「遅れましたが、私タエ子と申します。

せっかくいらしてくれたんじゃ、どうぞ奥でお茶でも飲んでいって下さい。

ろくなお礼はできませんがね。それと―…」


再び視線がチラッと座敷童に向けられた。


「実は私ね、トメさんの古い友人でしてね。お話も是非したいとこじゃけ」

「まあ!トメお婆様の!」

母さんは口に手を当て大袈裟に驚いていた。

もちろん、俺も驚いている。

まさかこんなところで曾婆さんの友達に会うなんて普通考えないだろう。

すると、一真が俺にボソッと話しかけてきた。

「トメさんって、確か涼介りょうすけがざー君を引き継いだ……」

「ああ、あの曾婆さんだ」


「やっぱりタエ婆じゃったか……」


「なんだ?わらし知り合いか?」



「ほら、涼介も一真君も、せっかくだからお邪魔しましょう」

「うん、じゃあ」

「お邪魔しまーす」

母さんに呼ばれて、俺と一真は玄関を上がろうとした。


しかし足を一歩かけたところで、

俺は服の裾を何かに引っ張られる感覚がしたので振り向いた。


座敷童が俺の服を摘んでいる。


「のう、涼介。わしはここで待っておるな」


「え?なんでだよ、来いよ。お前が視界から消えると何してるか不安になるだろ」

まるで保護者の気分だ。


座敷童はむぅーっと顔をしかめ、なんだかソワソワしている。

何こいつ。トイレでも行きたいのか?



「違うわい、馬鹿者め」



心を読まれました。




「タエ子さんとも知り合いなら問題無いだろ。

母さんにバレない程度に挨拶くらいはしておけ」



そう言うと座敷童は大きな溜め息をついた。

諦めたようで、俺の後ろに付いてきた。それはもう、ピッタリと。

そしていつになく周りを警戒しているかのように、

案内された部屋につくまでの間ずっとキョロキョロと目を動かしていた。



「ざー君大丈夫?」

部屋につくと一真が小声で話しかけてきた。

「まあ、緊張してんじゃないかな。よその家でさ」




案内された部屋は広いお座敷だった。

襖の絵も豪華で、高そうな鳥の剥製なんかが飾られている。

畳はこの家の歴史を感じさせる古びたものだった。


なんか、トメ婆ちゃんの家を思い出すな。



お座敷の中央に置かれている低い木のテーブルの周りに座ると

タエ子さんはお茶と和菓子を出してくれた。

一真と並んで大人しく緑茶をすすっていると、

タエ子さんはトメ婆ちゃんとの思い出話を始めた。


どうやら葬式にも参列してくれていたらしい。




次第に母さんとタエ子さんの会話は弾み、俺と一真は退屈になってきた。

座敷童は相変わらず俺の横でソワソワしている。


すると、そんな俺達の様子にタエ子さんが気づいた。


「あらごめんなさいねぇ。

そうじゃ、あんたらここを出て2つ奥の部屋に行ってみんさい。

あんたらが好きそうなものあるから。

もう少しお母さんとお話したいとこじゃし」


タエ子さんは俺に向かって意味有り気に微笑んだ。

その笑顔の意味が分からず、首を傾げて一真と顔を見合わせていると

母さんまで「行っておいで」と言ってきた。



「じゃあ……まぁ、行ってみるか、一真」

「う、うん」


俺と一真は部屋を出て、長い廊下へ出た。

すると、座敷童がまた俺の服を引っ張った。

「わしは、ここで待っておるからの」

「何言ってんだよ、お前も来るの」

「ぎゃ!や、やめろ!」

俺は騒ぐ座敷童を担ぎ上げて廊下を歩き出した。

一真も後ろから座敷童を一緒に支えてくれた。



おかげで座敷童も一緒にタエ子さんに言われた部屋についた。

中に入ると、そこも和室だった。ざっと十畳くらいだろうか。

さっきのお座敷よりは小さい和室だ。


木造のタンスが並んでいて、透明なプラスチックケースの中に古い置物が飾ってある。

壁はかなり痛んでいて、所々ひび割れいた。



「すげぇ部屋だな」

「なんか薄気味悪いね。空気、違う」

「そうか?」



部屋の隅にはたくさんのぬいぐるみやお手玉といったおもちゃが置かれていた。

一真がそれに近づき、小さなお手玉をひとつ拾い上げた。


「タエ子さんが言ってた俺たちが好きそうなのって、これかなぁ」

「まっさかぁ」

俺もそれに近づき、茶色いリボンのついたテディベアを拾い上げた。




その時だった。




「ふふっ うふふ うふふふっ」




「―…っ!誰!?」



突然、幼い子供の笑い声が部屋に響いた。


驚いた俺と一真は、きょろきょろと部屋中に目を走らせた。

座敷童は、入り口の襖を背にして立っている。



「……一真か?」

「違うよ!」

「じゃあ、わらしか?」

「違うわい!この笑い声は―……」




「やっぱり、あなたでしたのね。ビー玉小僧」





ストンっ





何かが畳の上に着地した音に、俺はばっと振り向いた。


すると、そこには先ほどまでいなかった子どもが立っており、

俺に向かってにこやかに微笑んでいる。

一見おかっぱに見えたが、毛先にパーマがかかっていてちょっと洒落た髪型。

梅の花の模様が刺繍された真っ赤な着物を着た女の子。




驚きすぎて、すぐに声が出せなかった。





「えっ、わらし?」

「ざー君?」

「わしはこっちじゃ!」


プンプンしながらずかずかと座敷童は後ろから俺の横へやってきた。

うん、この淡い青色の着物は確かに座敷童だ。



じゃあ、このおかっぱの女の子は――…?





「会いたくないから、来とうなかったんじゃ」

「あら、寂しいことを言うようになりましたのね、小僧」

「小僧と言うな、ババアめ」


睨み合う座敷童と女の子。


「ちょ、待て待て」

「ストップ!」


俺と一真は慌てて二人の間に割って入った。


座敷童はババアと言ったが、女の子は座敷童と同い年くらいに見える。

「なに、全然ついていけないんだけど。お前ら知り合い?」

「知り合いも何も―…」



座敷童が言い終える前に、女の子はにこりと俺に向き直り、

礼儀正しくお辞儀をした。




「初めまして。わたくし、タエ子殿と契約している座敷童でございます」




「えっ!?」



「チャームポイントはくるくるパーマ。ざー子ちゃんってお呼びなさい!」



ぱちっとウインク。

うふっとハートが飛んだのは気のせいだろうか。


何、このデジャヴ。




「-…っえええぇええ!?」「ええええぇええ!?」




俺と一真の叫び声が重なった。


なんかまた、すごい子が出てきました。





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