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16、そして君はそこにいる




先ほど分かれた場所で、一真かずまと合流した。

一真の方も見つからなかったらしい。

俺はその場にへたりと座り込んだ。


「どこ行ったんだよ…………」

涼介りょうすけ……」


一真も心配そうな顔をしている。


「でも、ざー君って媒介のビー玉から離れられないんじゃなかった?」

「あぁ。でも、多分だけど半径500メートルくらいなら大丈夫だ」

「じゃあ、そんなに遠くは行かないって!」



「うん…………」




一真が慰めようと気を使ってくれてる。

なんで俺、こんな落ち込んでんだろ。




「なんでかなぁー」



重いため息しか出てこない。




「俺そんな酷いこと言ってた?」

「ポチは飼えないってやつ?」

「だってよ、ちっこい犬ならまだしもでかかったじゃんポチ。

それに汚い野良犬連れて帰って親になんて言われるか……」



「それよりもさぁ」



一真が急に真面目な顔つきになった。

口元に手を当てて考える素振りをする。




「ざー君、寂しかったんじゃないかな」




「え?」



俺は思わずキョトンとした顔で一真を見上げた。




寂しかった?




「ざー君って、媒介を誰かに触られない限りは、

基本的に契約主にしか見えないんでしょ?

だから、ポチが自分からざー君のところに来てくれたのが、

嬉しかったんじゃないかなぁ」




なんか、妙に納得してしまう。一真のくせに、鋭いな。




「確かに……あいつ、親と死に別れてからずっと独りだったんだよな」



「そうだよ!初めの契約主に会うまでざー君は独りだったんだよ!」



もし俺達の推理が正しければ、

座敷童があれだけ『独りの寂しさ』にこだわって怒ったことが納得できる。




寂しかった



子どもじみた理由だけど、実際あいつは子どもだ。



「でも……それが分かったところでどうすりゃ良いわけ?」

「うーん…………」

一真も腕を組んで考え始めた。

気づけば日も落ち、辺りは薄暗くなっている。



「ポチを飼ってあげる」


「うわ、お前サラリと言ったな」


「だってそれが一番、ざー君が喜ぶでしょー」




俺は目を閉じ再びポチをイメージした。

ポチの人懐っこい表情と、記憶の中のパピィちゃんの恐怖が重なる。



俺はゆっくり目を開いた。



「まずは、親に相談だ」






--------------------





俺は一真と別れ、一人で家を目指した。

一人で歩くのは久しぶりだ。

最近じゃ登下校はもちろん、トイレに向かうのも

座敷童がちょこちょこ着いてきていた。


さすがに中には入れてないけど。




『独りは、寂しいのじゃぞ』





座敷童の言葉が再び頭に浮かんだ。



「…………なるほどね」




少し俯きながらとぼとぼ歩いていると、

いつの間にか家の玄関の前に立っていた。





「ただいまぁー」



ドアを開けると夕飯の良い匂いが漂ってきた。

台所からカチャカチャと食器を並べる音が聞こえてくる。

「おかえりなさい」

自分の部屋に向かおうとしたら、母さんがひょこっと台所から顔を出した。

「あんた今日遅かったわね。部活頑張ってるじゃない」

「まぁ、うん……」


合ってるけどちょっと違う。


「もうすぐお父さんも帰ってくるから、早めに下りてきてね。ご飯食べましょう」



俺は軽く返事をして自分の部屋に入った。

扉を閉めたとたん、大きな溜め息がもれた。




自分の部屋をぐるりと見渡す。

家具が並べてあるだけのがらりとした部屋だ。

今までなら見慣れていた景色も、何だか物寂しく感じる。


座敷童が、そこに座ってないからかな。



洋服タンスを見ると、またそこから座敷童が

覗いているんじゃないかって思えてくる。




そう



またそこからひょっこりと…………




「ハッ ハッ」





「そうそう、ハッハッて元気よく―……」



――――……ん?




一応確認しておこう。

今聞こえた呼吸音は決して俺じゃない。



「…………は?」



目をこすり、再び洋服タンスに目を向けるが何もない。




どこだ?

この荒い息づかいはどこから―…!





「―…あ」



見えた。




ベッドの下から、白くてもさもさしたものがはみ出している。


しかも動いてる。


俺はゆっくりそのもさもさに近づいた。




「こ、こらっ!ポチ、もっとこっちへ……」


近づくほどに、コソコソと話し声まで聞こる。



「おい、こら」



俺はドスを利かせた声でそう言いながらベッドの下を覗き込んだ。




「ぎゃあ!!」


「クゥン」



覗き込んだそこには、座敷童とポチがぎゅうぎゅうに詰まっていた。



「お前ら……っ」

「べ、別に行く所が無かったわけじゃ……」

「心配したんだぞ!!」



俺は気づいたら怒鳴っていた。

他にも山ほど言いたい文句はあったのに、一番始めに出た言葉はそれだった。

座敷童はびっくりした顔で固まっている。


俺は一度大きな声をだしたら、先が止まらなくなった。



「俺と一真がどんだけ探したと思ってんだ!

寂しいなら、独りにならなきゃいいだろ!

勝手に俺のとこ、離れてんじゃねぇよ!」



「涼介……」



「それに!!」



俺は一度息を整え気持ちを落ち着けると、再び座敷童に目を向けた。




「お前は独りじゃない。俺や一真がいるだろ」





言った直後、少し照れくさく感じたが、

座敷童の泣き出しそうな顔を見たら言って良かったと思った。



「り、涼介―…!」



潤んだ瞳がベッドの下から俺を見上げている。

今回くらい、俺も優しくなろう。




「わらし」



俺はそう言って腕を広げた。



「来いよ」



「涼介―……っ!




    





調子に乗るなよ干物野郎」



嗚呼、俺が馬鹿でした。




「嫌じゃ!どうせ涼介はポチが嫌いなんじゃろ」

そう言ってポチをギュッと抱き締める。

「ポチを追い出す気なら、ここからは出ぬ!」


こいつ、まだポチの心配か。



「ポチはこれから親に相談だ」

「なに?」

直後、座敷童の瞳が輝いた。

「飼ってくれるのか?」

「親次第な」

「嬉しいぞ涼介!」


すると座敷童はポチと一緒にいそいそとベッドの下から這い出てきた。


うわ、やっぱポチでかいなぁ。


母さんに、どんな風に説明しようか・・・・




しかし俺は密かにポチを拒絶する両親の姿を望んでいた。

さすがの座敷童も、二人が駄目と言えば諦めるだろう。



ガチャン



「ただいまぁ」


「お帰りなさーい」




階段を下り始めた丁度その時、タイミング良く父さんが帰ってきた。




よし、今だ!




「来い、ポチ」



俺は軽くポチを手招きし、ゆっくりと階段を下っていく。

ポチの後ろから座敷童もウキウキした様子でついて来た。



「お帰り、父さん」





その後の両親の反応は、見事に俺の期待を裏切った。


俺の後ろから顔を出したポチに、初めは驚いた様子を見せたが、

あっさりと飼うことを許可してくれた。

母さんの喜び方がまたすごくて―…


「ほら、私普段お家で一人でしょ?

だからずっとこんな子欲しかったんだけどね。

あんたが犬嫌いって言うからね」


ただ、汚いからすぐに洗ってあげなさいと俺は早速仕事をする羽目になった。

確かに俺が飼いたいとは“言った”けど……


あー!面倒くせぇ!!!





俺は咬まれないかビクビクしながら言われた通りにポチをお湯で洗ってやった。

思った以上にポチが良い子な事に驚いた。



始終横から座敷童が手を出して手伝ってくれたから、

案外すんなり洗ってやることができた。



「ところでさぁ」

「なんじゃ?」


ポチをタオルで拭きながら、俺は座敷童に話しかけた。


「お前どうやって部屋に入ったんだ?」

「そんなの、わしは壁などすり抜けられるんじゃから容易いわい」

「お前がすり抜けても、ポチはどうやったんだよ」

「わしが中からドアを開けてやったのじゃ」

「良く母さんにバレなかったな」

「そりゃあ…………」


座敷童は手を止め顔を上げる。




「わしがポチを担いで階段を上っただけじゃ」



「…………は?え?」



「そしたら足音も聞こえないじゃろ」




ドヤと言わんばかりの得意気顔。




いやいやいや!

サラッと言ったけどポチお前よりでかいよ?

登場シーン乗ってたでしょ!


頭の中で一気につっこんだものの、

何食わぬ顔でポチの体を拭く座敷童を見ていたら、

口に出すタイミングを失い口をパクパクすることしかできなかった。




どうやらまだまだ座敷童には謎がいっぱいのようです。




--------------------




ポチの件について家族で一段落した後、

携帯をチェックしたら一真から写真付きのメールが送られてきていた。

添付されていた写真には、一匹の犬が写っている。

よく見るとポチにそっくりだ。

チラシか何かの写真を携帯で撮った感じ。

俺は慌ててメールの本文を開く。



どうやら一真はあの後の帰り道、交番の前を通った時

この迷子犬を探しているというチラシを目にしたらしい。

その写真の犬があまりにもポチに似ていたもんだから、

俺に連絡をくれたようだった。


犬の特徴は真っ暗な鼻と瞳、右足の裏にあるハート型のホクロと書いてある。



足の裏とか、分かりにくっ!



しかし案の定確認してみると、そこには小さなハート模様があった。

この写真は間違いなくポチだろう。



「おぬし、主人がおったのか……」



座敷童は少し残念そうな顔をしたが、すぐに和やかな表情に変わった。



「よかったのう。独りじゃなかったんじゃのう」




寂しいような、嬉しいような、そんな複雑な気持ちなんだろう。


俺はそんな座敷童の横で一真に電話をかけ、

写真の犬がポチで間違いないと伝えた。

それと、座敷童がベッドの下から出てきたことも。


記載されていた飼い主の住所が俺たちの住んでいる地域から

それほど遠くないことも分かったので、

俺と一真は日曜日にポチを返しに向かうことに決めた。


一真との電話を終えた後、父さんと母さんにも事の成り行きを説明した。

母さんは少し残念そうな様子だったが、

「飼い主が見つかってよかったわね」と言ってくれた。



結局ポチが我が家にいるのは日曜日までの数日間となったが、

それでも座敷童は家にいる間は始終ポチとたわむれて楽しそうな様子だった。





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