表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

13、12人だよ全員集合!



放課後、ジャージに着替えて部活動のためにグラウンドへ向かった。

最初に部員全員が集合をしてあいさつをすると、

各種目ごとにマネージャーの桜木さんと相談をしてその日のメニューが決まる。


初めての時は、顧問の本田ほんだの出る幕が全くないことに驚いた。




でもって、そのメニューの決め方が、さすが桜木さくらぎさんってなるわけで……





「投擲ー」

「おう」



投擲って言ってもこの部活には、

ハンマー投げの部長、森岡もりおかさんしかいない。




「何する予定?」

「今日はウェイトトレーニング」


二人は細かい練習内容を話し合い始めた。


「―……で、それを5セット」

「うん、7セットいこうか」

「は?いや、今日は回数多くしたから……」

「あ?文句あんの?」


桜木さんは森岡さんに優しく微笑んでいるが

……背後のどす黒いオーラに誰もが一歩後ずさる。




とまぁ、こんな感じに半ば強制的にメニューがそれぞれ決まっていくのが

この陸上部のスタイルらしい。



自分たちのメニューは、他の種目が決めている間にそれぞれ確認される。



「俺たちもうすぐ記録会だからさ、一年生はロングジョグでいい?」


れんさんが俺と昶に話しかけてきた。




ロングジョグは長い時間、程良いペースで走り続ける事だ。

ジョグはジョギングの略称。



一年生の間は体力をつける内容のメニューが多いから、

最近はほとんどどこれだ。





ちなみに記録会とは試合ではないまでも、

他の学校と一緒に走ることができる大会前の大事な機会だ。



星野ほしの兄弟はそれに向けた、スピード系の練習をするつもりらしい。



そういや、前に「俺たち専門は1500だから」って、

二人して笑いながら言ってたな。





「いいですよ」



俺より先に、あきらが笑顔で返事をした。

俺も慌てて返事をする。




「じゃ、時間は60分でサクラさんに交渉ね」


桜木さんの方へ星野兄弟が二人で歩いていくので、

俺と昶も慌てて追いかけた。




今は短距離の番だったようで、

一真かずまと男の先輩が桜木さんと話をしていた。


「りっくん達ミニハードルやるなら跳躍ブロックも一緒にやろうか」



桜木さんに“りっくん”と呼ばれたその先輩は、

背丈は俺とさほど変わらないが、短距離の選手らしい筋肉質な体つきだ。

この人が一真から聞いていた三年生の先輩だろう。

短距離には一人だけ、松田凛久まつだりくっていう

爽やかなお兄さんがいたと喜んでたっけ。


確かに体操のお兄さんでこんな感じの人いそうだな。




渡辺わたなべー!田辺たなべー!ちょっとメニューの相談!」


凛久さんが詩織しおりさんと田辺千夏たなべちなつを呼んだ。

あ、跳躍ブロックは2人とも“辺”がつく。

俺がそんなことを発見していると、2人はすぐにやってきた。

背の高い詩織さんに、田辺千夏はまるでコガモのように

後ろからちょこちょこくっついていた。



「凛久さん、なんでしょう」



あれ、詩織さん今敬語使った?

てっきり三年生だと思ってたけど、二年生だったんだ。




桜木さんの隣では美歩みほちゃんが一生懸命メニューをノートにメモしている。


頑張ってる美歩ちゃん、可愛いなぁ。



俺がそんな風に眺めている傍らで、

星野兄弟と桜木さんのメニュー相談が始まった。




先ほどの4人は練習の準備に取りかかろうとしている。

するとそこに、一人の小柄な男子がすすっと近寄ったのが見えた。

サラサラとした髪は前髪がやけに長く、顔の半分を覆っている。



「あの僕……も一緒に、やります」


「お、シノ!」



桜木さんが星野兄弟にとんでもない設定タイムを言って、

わあわあ言っているのが聞こえてくるが、

俺の興味は、この最後の部員の存在に注がれていた。



自己紹介をしているようなので、耳を立てる。




ボソボソ小声で何も聞き取れない。



すると、座敷童が急に頭の上から俺に声をかけてきた。


「聞きたいのか?」

「え?できるの?」

「容易いもんじゃわい」


ふふんと得意気に笑うと、座敷童はパチンと指を鳴らす。


「あ、僕・・・・・ハードルやってる三年生で、」


座敷童の指ぱっちんの直後、俺の耳には5人の会話が聞こえてきた。


篠宮しのみや雅紀まさき……です」




「す、すげぇ」



俺は普通に驚いた。

座敷童って、魔法使えたのか?


「魔法とは違うぞ」



俺の心の疑問に座敷童が答える。


「涼介に利益のあることなら、可能にすることができるのじゃ」



あー、なるほど。



以前、座敷童は命をかけて主人を死から救うこともできるとか言っていたのも、

このたぐいなんだろう。




魔法なら面白いのにな。





しかし、おかげで顔が髪で隠れて見えない先輩は、

篠宮雅紀ということが分かった。


これでこの陸上部、全ての部員を把握できたんだ。



まとめると、投擲ブロックは部長の森岡さん。

ハードルブロックは篠宮さん。

跳躍ブロックは詩織さんと田辺千夏で、

短距離ブロックは凛久さんと一真。


そんで長距離ブロックは双子の星野兄弟に昶と俺。

マネージャーの桜木さんと美歩ちゃんを含めると、

この陸上部は12人で構成されている。




あ、本田のこと忘れてた。




「さっきから顔が緩みっぱなしだぞ」



俺が満足感に浸っていると、突然昶が脇を肘で小突いて来た。


「あてっ」


ヤバい。また変な顔してたかも。



「おまえも、さっさと準備体操しろ。90分だとよ」



「おー……って、え!?いきなり90分ジョグ!!?」


少しは桜木さんの声にも耳を傾けておけばよかったと後悔をした。






昶とジョグに行く前の準備体操やストレッチを始める。


部活のときの昶は眼鏡からコンタクトレンズに付け替える。

走るとき邪魔になるからだ。

眼鏡の無い横顔は、付けているときよりも少し幼く見える。



だが目が大きくて、眉毛もキリッと整えられているため、

印象的なところは変わらない。

ジャージ姿で一層スタイルの良さが際立っている。

手足がすらりと長くて、全体的に細い。

理想の長距離ランナーの体系だ。




「90分かぁ」



昶がぽつりと呟いた。


「どこ行く?」

「え?あぁ」


確かにグラウンドで90分も走るわけにはいかない。

何より飽きる。


「公園から土手に行って、回って帰ってくるコースは?

一周8キロくらいあるやつ」


「じゃあ、そこ2、3周いくか」




よし、と意気込んだ時だった。

一つの心配が頭をよぎる。

そしてチラッと横を見ると座敷童が立っている。




こいつ、ついてこれるのか?




俺の視線を感じたらしく、座敷童もこちらに振り向いた。

にんまりと笑う。



「ビー玉、置いて行っても良いのじゃよ」


「逃げる気だろ」



ちっ、と舌打ちをして俺を睨んできた。

お前の考えくらいお見通しだっての。



すると座敷童は、ぐっぐっと腕を伸ばす仕草を始めた。


「ふん、安心せい」


こいつ、準備体操のつもりか?


「その気になれば飛べると言ったじゃろ」



え?


…………まさか。






--------------------






今俺は、昶と並んで走っている。

互いの呼吸音とリズミカルな足音が、耳に淡々と響いてくる。



「ほれ、頑張れ涼介!昶に離されてしまうぞー」



…………雑音が入りました。




そう、座敷童が俺の斜め後ろに憑いてきている。


いや、着いてきている。





体はふわふわと浮遊し、時々呑気に欠伸なんかしてやがる。



うん。


どう見てもこれ幽霊。



とにかく気になる。

常に斜め後ろに気が散ってしょうがない。

邪魔だな。




「練習の妨害になるのか?」



ふよふよと座敷童が俺の肩に掴まってきた。

重さは感じないが、肩に手の触れている感覚がある。



そっか。

こいつ、俺に不利益なことは避けてくれるんだ。



そうそう!よく分かってんじゃねぇか!



声を出すと昶に不審な目を向けられそうだったので、

俺は心の中で一生懸命頷く。




「じゃからビー玉を置いていけと言ったんじゃ」




やだね。



けれどとりあえず、できるだけ離れて欲しいと思った。

俺は座敷童に気持ちが伝わるよう、強く心で訴える。


伝わっているのかいないのか微妙だが、座敷童は考える仕草を始めた。



「わしもどこまで媒介と離れることができるか分からんのじゃ」



そこをなんとかー!



「つか、独りとか寂しい。嫌じゃ」



“つか”って言ったよこの子。

そしてさり気なく寂しがり屋。

駄々コネ上手。




この際どこまで離れることが可能か

試してみるのもおもしろそうだと思った。

気づいたら土手が見えている。

川沿いに走る間はひたすら直線だから、

良い具合にお互いの距離が分かるだろう。



「試してみないか?」



俺はボソッと座敷童に提案する。

運良く、ランニング中のおばさん3人とすれ違ったので、

昶は全く気づいていない。


ラッキー。


座敷童は最初嫌そうな表情を浮かべたが、

肩を落として了承した。


「しょうがないのう。じゃあ下がるぞ」


そう言って溜め息を漏らした直後、

座敷童はピュッと小さな風のような音と共に、

あっという間に俺の遥か後ろへ飛んでいった。




チラッと振り向くと、遠くでなんだかゆらゆらした黒い物体が見える。

あ、俺視力だけは良いんだよね。



多分あそこが限界なんだな。

ざっと直線距離で500メートルくらい。


まぁこんなもんか。







座敷童が後ろに下がってくれたおかげで、

俺はやっと走ることに集中できた。


だが、少ししてから今度は隣で走っている昶が気になりだした。



そういやこいつ、スタートしてから一度も俺に話しかけないな。


チラッと腕時計を見ると、まだ20分くらいしか経っていない。



90分ジョグだから、まだまだ時間はある。



せっかく昶と二人になれたのだから、

俺は最近引っかかっていた事を聞いてみようと思った。




「……ふっ……ふっ……なあ」


「ん?」



走りながらで息は若干上がっているが、

程よいペースなので話すのは辛くない。

むしろ昶なんて、かなり涼しげな顔をしている。

こいつ本当に今走ってんのかよってくらい。


だが風になびくサラサラした黒髪やおでこに軽く浮かんでいる汗を見ると、

やっぱり走っていることを思い出す。



俺は走るリズムを保ちながら、昶に話しかけた。



「昶さぁ、そんなに俺と走るの嫌なわけ?」


「・・・・はぁ?」




チラッと眉間にしわを寄せて俺を見る。



「なんでだよ」


「だってさぁ」




気づけば土手から学校の方へ曲がらなくてはいけない道が見えた。

方向を変えて、狭い道に入る。

車道を空けるために、一列でなければ進めないような道だ。


自然と俺が昶の前に出てしまって、昶の顔が確認できなくなる。



それでも俺は言葉を続けた。



「部活動集会の時、俺と種目が一緒って分かった瞬間

一気にテンション落ちてたじゃん」


車などの雑音に負けじと、昶に声が届くように少し大きな声を出す。



「・・・・そうだっけ」



うわ、しらばっくれる気か。


「それにさあー」



さっきよりちょっと大きな声。


「今も、走ってる時も何か俺を避けてんじゃん。

初日に一真と俺ら三人で走ったとき、お前めちゃくちゃ楽しそうだったぞ」




昶の足音を意識しながら一気に話した。

どんな顔してるか超気になるな、これ。




「…………」



後ろからは呼吸音と足音しか聞こえない。

早くこの狭い道終われ!



俺は重い空気に耐えきれず言葉を発する。


「なあ・・・・

そんなに俺と長距離やりたくないの?」





「ちょっと違う」



突然昶の声がした。


やった、あの角曲がれば広い道だ!



道を曲がると、昶が再び俺の横に並んだ。

チラッと表情を確認する。



うわ、すごいしかめっ面。


口をムスッと尖らせて、眉間にはしわが寄っている。

何か困ってるような悩んでるような



・・・・いや、怒らせたかな?


俺がドキドキしていると、昶も目だけを向けてきた。

はぁっと重いため息をつく。

やべ、地雷踏んじゃったかも・・・・!




「何そのびびったツラ」



飛び出した言葉はグサッと俺の背中から突き刺さる。


ええええ!?そんなに顔に出てた?

わー、自分から聞いといて恥ずかしい・・・・



でも、今の一言で緊張感が解けた気がする。

昶も眉間のシワが消え、いつもの様子に戻っていた。


腕時計を見ながら走っている。



あ、学校だ。




いつの間にか一周が終わっていた。

昶が時計を見ながら呟く。


「30分ちょっとか」


俺もつられて時計を見る。

「後1時間くらいあるな」


気づけば学校の横を通り抜け、2周目に突入しようとしていた。

昶が顔を上げる。



「さっきの答え」


「えっ?うん」



突然の返しに俺は思わず声が裏返った。

昶は真面目な顔をしてる。



「涼介が、そのうち俺を嫌いになるんじゃないかと思ってる」



「はあ!?」



俺は予想外の答えに驚いたあまり、危うく車道に飛び出しそうになる。


昶はそんな俺を見てくすっと笑った。


「お前って、不思議だな」


「え?」


「何か、楽。話しやすい」


昶は正面を向いたまま言葉を続けた。




「ちょっと、昔話聞かせてやるよ」




俺はその時、心なしか昶のペースが上がったような気がした。





お気に入り登録してくださった皆様、

このような初心者小説にお付き合いくださり

本当にありがとうございます!

感謝感激で胸がいっぱいです!!

亀更新ですが、今後もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ