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12、なんちゃってボーイ




その後の授業でも座敷童の名前についていろいろ考えていたら、

あっという間に時間はすぎ、昼休みになった。




いつものように一真かずまあきらと三人で弁当を開く。

しかしこの日は昶がいつもより早く食べ終え

「用事あるんだ」と席を立った事で、一真と二人になった。





いや、二人と子供一人でやっぱ三人だ。





珍しく三人になれたので、

俺は今まで考えていた座敷童の名前について

話を出してみる事にした。





「そう言えば、何もしてなかったね」



一真が申し訳なさそうに座敷童を見たが、

座敷童はふいっと顔をそらした。



「別に最初から期待などしておらぬ」



「まぁまぁ」


俺はツンとしている座敷童をなだめる。




「とりあえず、このクラスで同じ名前はいないのか?」



んーっと言いながら、座敷童は両手で頬杖をつき、

考える仕草をする。


ほっぺがぶにっとしてちょっと可愛い。




「クラスの自己紹介の時は、特にピンとくる名は聞かなかったのう」



…………だよな。


そんな簡単に見つかるならとっくにこいつは成仏してるよ。




「少なくとも今流行るような名前じゃないよね。

天使と書いてエンジェルって読ませる名前もあるらしいよ」


「すごいなそれ」



例えの名前はさておき、

一真も俺と同じような事を考えているみたいだ。




「で、わらし。

お前の生きてた時代っていつ頃?」





俺の問いかけに、座敷童は少し小首を傾げるだけだった。


「……なんだよ」


「知らぬ」


「は!?」「えっ!?」



俺と一真の驚きの声が重なる。


「だから、知らぬと言ったんじゃ。

わしら座敷童に前世の記憶はない。

記憶があるのは一人目の契約者からじゃ」



「そ、そんなぁ…………」



「じゃから、媒介のビー玉に関しても、

何か強い思い入れがあると分かるだけで、

どうしてソレがわしにとって大切なものかも分からないのじゃ」




俺は無意識に首から下がっている小さな巾着入りのビー玉を触って確認した。

いつも胸元でころころしている。



「じゃあそれって……」


「何も手がかりなしって事?」


うあーっと同時に声を上げ、俺と一真は机に突っ伏した。



一気に脱力。



簡単に当ててやるとか言ったけど、

それってかなり難しいんじゃないか?





たかが名前くらい…………

俺はそんな風に、軽く考えすぎていたのかもしれない。





手がかりがないという現実を突きつけられ、

俺と一真はしばらくうんうんと唸っていた。



「たろう」「違う」


「ごえもん」「違う」


「はちべい」「違う」





「信長、秀吉、家康!」


「違う違う違う!」




「アウグスティヌス!プトレマイオス!ソクラテス!」


「違う違う違う!!!」




「……ふざけてるじゃろ?」


「いや大真面目だ」





うん、なんか楽しいぞこれ。






「だから、無理だと言ったんじゃ……」



ほれ見ろと言わんばかりに、座敷童が溜め息をついた。



でも、俺にはこいつの「無理」って言葉は、

諦めの言葉には聞こえなかった。


心の奥では、お母さんに会いたくて、

寂しくてたまらないと言っているように聞こえる。



何とかして俺たちに当てて欲しいような、

期待が込められた言葉に聞こえるんだ。






「………………わらし……」







「同情するならビー玉よこせ」


「断る」




……やっぱ俺の考え過ぎです。






「じゃあさ、一人目の契約者とはいつ契約したんだ?」



俺は逆算作戦を思いついた。

最初の人から少し前が、きっと座敷童の生きていた時代だろう。




「ふむ……今から200年以上も前かのぅ」



「にっ、200?!」

「いつだそれ……」

「俺歴史弱いんだよねー」


一真はそんなことを呟きながら携帯で調べ始めた。


「……明治時代くらい?」

「まじか」


「初めての契約者は、涼介よりもう少し年上の青年だったかのう。

懐かしいものじゃ」




座敷童は目を閉じ思い出に浸っているようだ。



「ざー君が200年前の人だなんてすごいね」


「もっと長く座敷童をやってる者もたくさんおるがな」




じゃあこいつは、

200年もいろんな人に幸せを与えてきたのか。


……なんか、すげぇなって思った。




「……その割に幸せの基準雑だな」


「文句があるのなら福はやらぬぞ」



「とりあえず、明治くらいの名前を探せばいいんだなっ」



睨み合う俺と座敷童をなだめるように、

一真が話をまとめた。



「どんな名前だよ、明治って」

「西郷隆盛?」

「違う」

「あ、板垣……退助!」

「違う」



分かんねえーっと体を仰け反ると同時に、

昼休み終了のチャイムが鳴った。




ま、時代のヒントを得たんだ、少しは収穫だろう。





俺はいろんな思いついた名前をノートの隅に落書きしながら、

午後の授業を過ごした。






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