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10、これが僕らの陸上部




新学期が始まり早一週間。

学校の雰囲気にも慣れてきた。


そんな俺、最近女の子に話しかけられまくってます。

同じクラスの子だけでなく、違うクラスの子からも話しかけられたりする。

もちろん、俺は美歩みほちゃんにしか興味は無いわけで……。




「あの…………」


お、今日も早速声かけられちゃったよ。

この子ちょっと可愛いかも…………


俺は跳ね上がるテンションを顔に出さないようクールに振り向く。


「ん?なあに?」


目の前には二人の小柄な女の子。

そのうちの一人がもう一人の女の子に背中を押され、

顔を赤らめて一歩前に出た。


「……その、アドレス……教えてくれませんか?」


ちょっと上目づかいに恥ずかしそうに携帯を取り出す。


いったいこれで何度目だろう。

ついにこんなノーマルな俺にもモテ期到来?

もしやこれも座敷童パワー?

でも駄目だ、俺には大切な美歩ちゃんが…………!










「か、風間昶かざまあきら君の!!」










俺は一瞬にして現実に戻される。


ネタばらしをしよう。


俺が最近女の子に声をかけられる理由。

女の子たちの目的はいつも同じ。

全てあの変態眼鏡、昶のアドレスが狙いだ。


「あー……昶?」


「はい!あなたいつも昶君と一緒にいるお友達ですよね?」


「まぁ……」


可愛い子だし、いっか。


ってことで、俺はその女の子にアドレスを教えてあげた。

アドレスを手に入れるや否や、その子はお礼を言うと嬉しそうに去って行った。


座敷童が頭の上からニタニタしながら俺の髪を引っ張っている。



「毎度毎度、ありえない妄想ばかり膨らまして、変態じゃな」

「……うるせぇ」

心を読まれるのは厄介だ。


「わしらは人の心を操ることはできないから、

色恋沙汰に関してはわしの力を期待しないことじゃのう」


はいはい、と軽くあしらって俺は教室へ戻った。






席につくと、早速昶が俺に振り向いた。


「……おい、涼介りょうすけ

「おう、どうした?」


目つき怖いよ。



「最近、俺知らない女の子からやけにメール来るんだけどさ」


やっぱりそれか。


「モテ期じゃねぇの?」

「そんなの年中だけど」


さりげなく認めるナルシスト君。


「俺が言いたいのはそんなんじゃなくてさ。

犯人お前だろっていうこと」


「あー、ばれてたか」


俺が笑うと昶は「やっぱり」と、ため息をもらした。



「聞かれた覚えのない子からもメールくるから変だと思ったんだ」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

「増やすつもりもないんだよ」

「大丈夫、かわいい子にしか教えてないから」

「お前の基準だと低レベルだってこと」


なんだよ、女の子に聞かれるのは構わないのかよ。

俺は面倒なので素直に謝ることにした。


「悪かった、もう教えないよ」

「ああ、よろしく」



そう言うと昶は前に向き直ったが、

何かを思い出したかのようにすぐまた後ろを振り向いた。







「ロリと巨乳は教えて」


「素直だな変態」




眼鏡をきらっとさせて言い放つと、昶は再び前を向いた。

すると座敷童が隣から俺の制服の裾を引っ張ってきた。


「さっき言ってたことじゃがな」


ん、何か聞いたっけ?



「女子が一真かずまよりも涼介に昶のアドを聞くのはわしの力じゃ、感謝しろ」



満面のドヤ顔。


どいつもこいつも、自慢好きな奴らめ!






--------------------





放課後、いよいよ部活動集会の時間がやってきた。

俺と一真と昶は、三人で陸上部の集合する教室を目指す。



ガラッとドアを開けると、すでに上級生の大半が集まっているようだった。

視線が一斉に俺たちの方へ向く。



「きゃー!嬉しい!君たちやっぱり来てくれたんだー!」



さ、桜木さくらぎさん!!

いや相変わらず美しい容姿。




だが俺は先日のすさまじい変貌をちらっと思い出した。



「どうぞどうぞー!もう2年生と3年生は全員集まってるから」

桜木さんの誘導に連れられて席に座らされる俺達。



……え?全員?



俺は再び教室内を見渡した。

ざっと10人いるかいないか……




「少ないな」



昶がぼそっと呟いた。


「あ、それ俺も思った」



一真が小声で返事する。


陸上競技部は唯一の男女共同の部活であり、種目も様々だ。

俺と一真の中学時代の陸上部は、20人以上からできていたため、とても少なく見える。



「俺の中学は30人以上いたぞ」

「あー、そういや昶の中学って強い先生がいたんだっけ」







ガラガラっ





「ま、間に合った!」




扉が開け、女子が入ってきた。


田辺千夏たなべちなつだ。

そういえば、自己紹介の時に陸上部に入るとか言ってたっけ。

すると、田辺千夏の後ろからもう一人入ってきたのが見えた。







「み、美歩ちゃん!?」



思わず名前を呼んでしまう俺。

だってそこにいるのはまさに俺の天使、美歩ちゃん。





なんで?なんで陸上部?え、これ現実?






「あ、一真君に涼介君」



神様仏様座敷童様!ありがとう!現実です!

好きな子と同じ部活になれるようです!


この際、一真の名前を先に呼んだことは気にしないでおく。




「佐々木が陸上するの!?わー!以外!」

一真がにやにや俺をつついてくる。

やめろ、分かったから。

今俺は自分の脳内を静めるのとキメ顔を保つのに精一杯なんだ。



「きゃー!可愛い!」

「うわ!可愛い子二人もきた!ようこそようこそ!」

4、5人の上級生が二人にわっとたかる。



すると、再びドアが開き、昼休みに教室で見たイケメン先輩と、担任の本田ほんだが入ってきた。

昨日一真が言っていたことが正しければ、たぶんイケメン先輩の名前は森岡弘毅もりおかこうきさんだ。


「おらおらてめぇーら、席に着け!」


(たぶん)森岡さんが声を張り上げる。



あ、この人部長なんだ。



全員がそれぞれ席に着くと、(きっと)森岡さんが仕切り始めた。

本田は隣でにこにこ眺めている。

そして本田の隣には桜木さんも立っていた。


「よーし、二年と三年は全員いるな!一年生は……これで全員か?」


「もう集会が始まる時間過ぎたから、これで全員ね」


「5人もきたか!あー……ゴホン。

一年生の諸君!初めまして。陸上部部長の森岡弘毅だ。

じゃあまず自己紹介してもらうか!」



あ、やっぱり森岡さんだ。すっげぇ……

こんな人が率いる部活で練習できるなんて夢みたいだ。




てか、え?まじ?一年生俺達だけ?

全員同じクラス?

ここの陸上部って人気あるんじゃなくて、

偶然希望者が同じ教室に集まってたってこと?



「……予想外」

ぼそっと呟いたのは一真だ。

うん、さすが幼馴染。考えてることは一緒ってか。



俺達五人は席を立ちあがった。

すると、座敷童が突然タタタっと教卓の前に行った。

どうやら正面から眺めたいらしい。



「じゃあ、前から順番に名前とやりたい種目言ってくれ」



森岡さんに指示され、1番端に座っていた田辺千夏から自己紹介が始まった。





田辺千夏たなべちなつ、幅跳び希望です。一応、中学でもやってました!

よろしくお願いしまーす!」




クラスの自己紹介の時もそうだったが、元気がいい。


上級生たちが、よろしくー!可愛いー!などとはやし立てる。



幅跳びかぁ。

かなり小柄な体型なのに、跳躍種目をやるなんて、

珍しいと思った。



後で身長聞いてみよう。






「佐々木美歩ささきみほ、マネージャー希望です。

陸上初心者ですが精一杯頑張ります」




ぺこっと頭を下げる美歩ちゃんを見て、俺は固まった。



桜木さんを含め、部員たちは相変わらず

ヒューヒューはやし立てているようだったが、

俺の頭の中ではファンファーレが鳴り響いて、そんな音をかき消す。





マ ネ ー ジ ャ ー ?






マネージャーってほら、

タオルはいってしたり、ドリンクはいってしたり

頑張れって応援してくれたりするあのマネージャー?




美歩ちゃんがマネージャー!





俺の心は有頂天。



先日の怒鳴り声を上げている桜木さんのマネージャー姿が頭を過ぎったがすぐに消えた。




ジャージで健気に働く美歩ちゃんのマネージャー姿を妄想し、


なんかもう、



いろいろヤバかった。




「―……す!短距離希望よろしくお願いします!」



俺が妄想をめぐらせている間に、気づいたら一真の自己紹介がすでに終わっていた。





あ、俺の番だ。




俺はごほん、と喉を整えて一歩前にでる。



加藤涼介かとうりょうすけ、長距離です。よろしくお願いします」


俺がぺこっと頭を下げると、種目が同じで嬉しいのか、

昨日見た双子が声を張り上げた。




「ライバル出現ー!」

「ほくろ君よろしく!」






……ほくろ君。





俺は愛想笑いを返しておいた。

ほくろって、この左目の下の泣きぼくろ?

まぁ特徴それくらいしか無いもんね。

自分が1番分かってるよ。


うわ、座敷童のやつ、爆笑してやがる。




俺がそんな事を考えながら下がると、

最後の昶が一歩前にでた。



なぜかため息をつきながら。




でも、ため息の原因はすぐに分かった。





風間昶かざまあきら。……長距離、よろしくお願いします」






昶と種目が一緒だ!



再び双子が声を張る。




「イケメン君も一緒ー!」

「やべ、長距離ファン増えるー!」



よろしくーっと言う双子に爽やかな笑顔で昶は応えた。






そうか、ライバルか……

って言ってもすでに俺は敗北感を感じるのは気のせいだろうか。





顔なんて、陸上に関係ないっての!




内心ではいろいろ叫びつつ、席に座るとともに、

俺は小声で昶に話しかけた。



「へぇ、長距離か。よろしく」


「涼介は短距離かと思ってたんだけどな。

ま、よろしく」




昶は軽く答えると視線を前に戻した。



昶の素っ気ない態度が少し気になったが、

俺も視線を前に戻した。

座敷童がトトトっと俺の元に戻ってくる。

そして何も言わずに俺の机の上に座った。


周りからは見えてないが、邪魔だ。





一年生の自己紹介が終わると、

再び部長の森岡さんがしきり始めた。



本田は相変わらずニコニコと

横で笑っているだけだ。




「顧問は隣にいる、本田祥司ほんんだしょうじ先生だ。

上級生の紹介はしないから、適当に声かけあって覚えとけ。

あー、マネージャーだけ言っとくか!

こいつ、桜木春奈さくらぎはるな


マネージャー兼指導にも関わってもらってるから、

1番お前らが世話になる人な」


桜木さんが一歩前にでる。


「桜木春奈でーす。

みんなサクラって呼んでね?」


うふっとウインクをかまして

元の立ち位置に戻った。



ほんと、胸元が相変わらずセクシーだ。


ブラウスのボタンを2つ外されていて、

谷間が強調されている。




ルパン何世だかにでてくる

フジコちゃんを連想してしまう。



その後一通り一年間の活動について説明されると、

解散になり、各自がフリー練習を指示された。




ここの陸上部を簡潔にまとめると、

厳しい縛り無し、上下関係も緩く、

基本的に日曜日以外は活動するが、

体調に合わせて休みをとっていいらしい。





仲良く楽しくやろーって双子の星野さんたちは言っていた。

目標も気合いも人それぞれらしい。



まぁ、一言で言うとゆるい。

顧問の本田があれだしなぁ。





ただ俺は前日の練習を見て、

ひとつ確信していることがある。






この部活は強い。






レベルとかよりも、純粋に一人一人が陸上競技を

大好きだというのが伝わってくる。



悪くない環境だと思った。


俺も走るのは好きだけど、

ガツガツ縛られてやりたくはない。


だからちょうど良い。




先輩たちが、ガヤガヤと席を立ち始めた。


俺は教室を出て行く一人一人を目で追った。



……男ばっかだな。

森岡さんを除いて5人程度の人数だ。


そしてみんな顔が整っている。

一人だけ、前髪で顔が半分隠れている小柄な人がいたが、

彼以外は男の俺が見てもかっこいいと思ってしまった。


偶然か、学校自体がレベル高いのか、

いや、桜木さんの趣味で集められた可能性も無くはないだろう。




そう言えば、桜木さん以外に女子の先輩を見ていない気がする。



そんな事を考えながら見ていると、

ふと、男子の制服の中に一人だけ、女子の制服が見えた。


背が高くて、髪が短いためか、それまで全く気づかなかった。



その人が教室をでる瞬間、目を凝らして顔を見た。




ほっそりと小顔で白い肌。


冷めた瞳だがどこか品があって、薄い唇で無表情を作っていた。




どっかで見たような……?



…………あ!



「あっ!!」「おっ」




俺の声と同時に、座敷童も声をだした。



「わらし、あの人っ」


「おぬしがぶつかった少女じゃの」




やっぱり!



廊下でぶつかってしまったあの人だ。

陸上部だったなんて……!




突然の俺の大きな声に、

ほぼ全員の視線が俺に集中する


その時、ショートヘアの女子生徒と目があった。





俺は反射的に頭を下げた。


「あ、どうもっ」



「……ほくろ君」





…………まぁ、いいや。

あだ名ほくろでも。




「あの時はすみませんでした」


「いいから」


「陸上部だったんですね!」


「…………じゃ」




俺の言葉をさらりとかわし、

その先輩は無表情でスタスタと教室を出て行ってしまった。


ひたすら冷たい。



名前すら聞けなかった……




一真が興味津々に俺の肩を叩く。


「誰今の美人!涼介知り合い?!」

「まぁ……知り合いというか何というか」




「よー、新入り」



突然後ろから声をかけられ、びくっと振り向いた。


そこにいたのは、二年生の双子だった。




……なんだろう。

口はにこにこしているのに、目が全く笑っていない。



むしろ、怖い。





「俺、二年の星野蓮ほしのれん。長距離だよ、よろしく」



明るい茶髪の方が言った。


「俺、二年の星野珪ほしのけい。同じく長距離だよ、よろしく」


少し焦げ茶髪の方が言った。



「あ、ちなみに見ての通り双子!蓮が兄貴で俺が弟ね」


二人とも、髪色が違うだけで、

髪型や顔、背丈は見れば見るほど瓜二つだ。




「あ、加藤で「あのさぁー」




声をかぶせられました。

相変わらず口元はにこにこしたまま、ギロリと睨まれる。




何、何なのこの状況!





「さっき、詩織しおりさんと」

「何話してたの?」


二人してずいっと顔を近づける。


「……え?しおり……?」



「呼び捨てすんなコラ」

渡辺詩織わたなべしおりさん!

いや、お前らは“様”付けだな」



「あ、さっきの……」


「名前も知らないで話してたの!?」



目でけぇとか、鼻高ぇとか、

今は感心してる場合じゃなさそうだ。



それにしても、渡辺詩織って言うのか。

こんな形で知ることができるなんてな。


詩織さんって呼ぶのが無難だろう。

“様”はオーバーだって…………。




俺は二人がどうしてこんなに怒っているのか分からなかったので、

取りあえず前日の廊下での出来事を簡潔に説明した。


一真も昶も隣で聞いていて、

時々ふーん、と相づちを打ってくれた。




俺の話を聞いたとたん、

双子の表情が柔らかくなった。



うわ、こんなくしゃって笑えるんだ。


男の俺でも一瞬ドキッとしてしまう。




「なんだ、そんだけか」

「まぁあれだ、詩織さんに期待すんなよ」




「「あの人は俺のもんだから」」





…………え?




「おい、珪。誰のだって?」

「え?俺のでしょ、蓮?」

「だからお前じゃ無理だって」

「蓮こそ馬鹿なこと言わないでよ」




俺のもの発言にはびっくりしたが、

どうもこの双子の言い争いを聞いていると、

二人とも詩織さんが好きらしいことが分かった。



次第に声が大きくなっている。



「俺の方がこーんくらい好きだ!」

「俺なんてこーーんくらい好きだもんね!」



「うっせーぞ双子ぉお!!」




双子の争いが小学生レベルになったところに、森岡さんが割って入った。


さすが部長……!




「どっちも渡辺の視界に入ってないのを自覚しろ!

おら、さっさとグラウンド行け!!」



「「も、モリ先輩のばかぁあああ!!!!」」





びゅーんと涙を流して走り去った。




どれだけ精神年齢低いんだろ。

年下の俺でも呆れてしまう。





当然それを座敷童が馬鹿にしないわけもなく……






「哀れじゃのう」





ふふっと可愛らしく笑っていた。

いや、可愛さも発言の毒舌さで半減って感じだ。






「ま、一年どもよ」



森岡さんが俺たちににかっと笑いかけた。



「変な奴多いけど楽しい奴らばっかだ。

仲間、大切にしろよ」




「……はい!」






こうして俺たちもグラウンドに移動した。


今日から陸上部の仲間入りだ。

本当に風変わりな人達が多いと思ったけど……






隣にいる座敷童を見たら、自分も十分人のことを言える立場じゃないな、と思った。






評価してくださった方々ありがとうございます!

いきなりポイント増加に嬉しさでいっぱいです!!

初めてコメントまでいただけで、もはや有頂天でございます。

マイペースな更新ですが、これからも読んで頂けたら幸いです。

やっと登場人物がそろってきましたので、

私的にはこれからやっと本題に入っていきます(笑)

座敷童と愉快な仲間たち(?)をよろしくお願いします。

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