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おつかれさんです!あのなぁ~おりんさんが短いの書いたし、「あの夏のあの恋」っての。読んでみてくれんか・・・地味なもんやけどな。すぐ読み終える。

作者: おりん
掲載日:2026/08/05

おつかれさんです!あのなぁ~おりんさんが短いの書いたし、「あの夏のあの恋」っての。読んでみてくれんか・・・地味なもんやけどな。すぐ読み終える。ほんとや。


あの夏のあの恋



気になるひとがいる。


会計で順番を待っているときに、前だったり後ろにいることもある。


玄関ですれ違うこともある。


今日は何を買ったのか気になる。


「どうぞ」


会計の前で順番を譲り合ったりしたこともある。


「あ、ありがとうございます」


彼女は小さな声でそう言って、会計に進んでお金を支払っていた。


水饅頭、ブランデーケーキを1つずつ。夏の定番と、この店の定番を1つ。


「いつもありがとうございます」


若い女性店員が彼女に親しみを込めて言った。


「どれもおいしいです」


彼女は小さな声で笑顔で返した。


僕の順番になった。


「水羊羹、若鮎、カステラね」


そして、


「いつもありがとうございます」


と、いつもの女性店員が応対してくれた。




彼女に声をかけてみたかった。


歳はおなじか少しだけ上だろうか。




僕は機会を伺った。


「こんにちは」


思い切って、声をかけてみた。


子供たちのための、老人が休憩するためにも置かれている、涼しい日陰の青いベンチに座って何かを食べている。


「はい?」驚いた様子だった。


「あの・・・隣、いいですか?」


僕はどきどきしていた。


「はい、どうぞ」


彼女は水饅頭を食べていた。




2週間。


僕と彼女の距離はゆるやかに近づいていった。




彼女はあのベンチには現れなくなった。


半月、1ヶ月。


来なくなった。


たぶん、僕がなにか嫌われるようなことをしたり、言ったりしたのだろうと思った。


でも、どうしても会いたかった。


「ここに来て、一緒に和菓子を食べてください」


と、もう一度伝えたかった。


こういう気持ちは初めてだった。


不思議な感覚だった。


このあたりは和菓子屋の多いところで、他の店の様子を外から伺ったけれども似たひとも現れなかった。


駄目か・・・・・。



結局元の店に戻った。


僕は食べかけの水饅頭を見つめていた。


まだまだ暑いが、もうそろそろこれのシーズンは終わる。


もう少し・・・水饅頭の季節が終わるまでは・・・・・。


「こんにちは」


聞こえてきたのは、遠慮がちな彼女の声だった。


「こんにちは。ひさしぶりです」


とくに口周りが固まった。


「入院していました」


「そうですか」


僕は気の利いたことの一言も言えなかった。


「わかると思いますが、和菓子が好きです」


彼女が断言したように言った。


「わかります。おなじです」


僕も断言した。




「あなたとこのベンチで和菓子を食べていると、ほっとします。そのことを考えながら入院してました。ああやってほっこりした、時間をまた過ごせたらと思っていました」


彼女は僕の目から目を離さずに、そう言った。


「もしかしたら、あなたはもうこのベンチには来ないとも思いました。でも、今日はきっとここに来ると信じてました」


僕は、はにかんで言った。





「わたし、もうすぐ死ぬの」


「なに言ってるんですか?」





「明日から、またしばらく病院に行きます」



それきりだった。


彼女はあれ以来現れなかった。






僕はこの店で和菓子を買い続けている。


このベンチに座りながら、食べ続けている。




あのときのまだ名前も知らなかった彼女のことを思い出す。


今日は、あのとき彼女が口にしていた「水饅頭」です。




60年前の恋。


いまもよく思い出される。


水饅頭を食べていた、あの横顔を。







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