気持ちしだい
最近あんがい予報あたってるなあと思ったら小雨が降っていた。どうするかなあ、戻るかなあ、歩きながら考える。考えてる間にアパートからは遠ざかる。雨の日には履かないようにしてた運動靴、でもこのくらいなら、すぐだし、戻る理由はなくなってすっきりスーパーを目指す。名前の知らない黄色い花が通りの家から顔を出している。小さくて、真ん中にちょっとだけ花火がぽんぽんて。サケフレーク、ぶた、とり、牛乳、ペーパー。マズい忘れちゃう。どう声をかければよかったかな、黄色い花。去年、咲いてた?これでいいかな。サケフレーク、ぶた、とり、牛乳、ペーパー。
昼間、約束していた時間には遅れてしまった。間に合うと思って出たつもりが、一緒に部屋を出たアイツが忘れものしたと引き返し、上がっていく階段の途中で、ごめんあった、とマヌケをしたせいだった。そんなこと、みっちゃんには言えない。言わなくていい。言ってもよかったけど。サケフレーク、ぶた、とり、牛乳、ペーパー。みっちゃんは、でもたぶん、わかってるみたいだった。私にとってのみっちゃんも、みっちゃんにとっての私も、お互いの人生におけるいっときの通行人のような役回りなんだ。脇役にもなれないことを、甘んじて受け入れるしかない、それが与えられたことなんだ、と。サケフレーク、ぶた、とり、ねぎ、ペーパー。なんか違うな。サケフレーク、ぶた、とり、ねぎ… ねぎは買わないんだ、サケフレーク、ぶた、とり、牛乳か、ほいでペーパー。忘れそうだな。いつもと逆ルートだし、でも最初にトイレットペーパーじゃずっと持ったままだしな。
あ、入り口の自動ドア、なんか貼ってあったの見るの忘れた。帰り見てこ、たぶん忘れると思う。んー、やっぱりこのお店は野菜が高い、買うつもりはないけど値段は確認しておく。ちょっと形の悪めの、でも食べたら普通の味の、そういう野菜ばっかり売ってる近所の八百屋さんに行けばいい。サケフレーク… どこだ… いいや先に、ぶた、とり… でも値引きシール貼っつけてるおじさんいるから先に牛乳で、ああてことはペーパーもか。結局いつもの流れか、いやぜんぜんだ、無茶苦茶だ。ぶた、とり。サケフレーク… 高いねえ、ふたつでこの値段くらいだと思ってた。買わないでいいか。ぶた、とり… パスタかあ、まだあるからなあ、たいして安くもないか。パスタねえ… 最近、本読んでないなあ、今日読めるかなあ、時間あってもなあ、気持ちがなあ、気持ちしだいかあ。買ったけどねえ… 人は本を買うと本を読まなくなってしまう、それっぽいな。サケフレーク… は買わないんだ、ぶた、とり、牛乳、ペーパー。いいんだよね。ぶた、とり、途中からだと言いにくくなるな。サケフレークなし、ぶた、とり、牛乳、ペーパー… オッケーかな。レジで6ポイント使って。聞こえなかったかな「6円、ポイントで」今日初めて人に向かってしゃべったな。そんなことないか、アイツといたし、みっちゃんとも会ったんだ。ああやっぱりそういうことなんだなあ、ふたりに対して。そういう位置づけなんだねえ。
「ン10円のお返しで…」
いま「10」ヘンだった。そこだけやけに大きかったし。なんで?ちょっと我慢しちゃった笑うの。ああ、ん、ちょっと高い?ああトイレットペーパーか。高くなったなあ。前はなあ… もうあの値段にはならないんだよ。結局、予想通り、入り口の貼り紙は見てこなかった。
行きはあえて見ないようにしてたアパートの近くの工事現場。買いものリストの呪文から解き放たれた帰り、よく観察してみる。と言っても暗い夜に工事現場の前で立ちどまってたんじゃあヘンに見られてしまう。ちょっとばかりゆっくりになって、へえこんなとこで工事してんだあ、みたいに眺めていく。防犯対策かなんかで明かりが音もなくついて、子どものころだったら驚いてたけど、そういうの、もう慣れてしまった。
部屋まで無事たどり着く。自転車にけたたましくリャンリャンリャンとやられることなかった、タバコの煙が風にのって流れてくることもなかった。レースでもしてるみたいになんらかと戦ってるふうな車もバイクもいなかった。頭の上を通る高速道路を、ときおりスウワアアンと車が走り抜けていく。あれ、なんかいいんだよねえ。
ひと息つく前にパソコンを立ち上げ、準備が整うまでの間にうがい手洗い。買ってきたものも冷蔵庫に手早く入れて。いいころ合いでレシートを手にパソコンの前に座って家計簿をつけていく。ふうん、今月まだ余裕ある、来週少し贅沢してもいいか。でもたぶん、来月に持ち越すんだ… ふう、ミルクティー飲も。やっぱり夜だからノンカフェかな、ルイボスしかないか、イヤじゃないけど。あのとり肉どうするかなあ… 冷凍庫行きになる予感。




