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「先輩、寿司屋って手で食べるんですか?箸で食うんですか?」

 そもそもが高級で無い市井のジャンクフードだった頃は手で食べていたと聞く。高級店ではそう言った流儀に立ち返るものなのか、または専用のカトラリーや食べ方が……。

「まぁ、色々あるみたいだ」

 ぐるぐると回るおれを見たのか、先輩はしかし自身も曖昧な形で濁した。

「色々?」

「あぁ。聞くところによると、ガリを使って小皿の醤油を寿司ネタに塗ると言う店もあるらしい」


 お、おされ!!

 そんな事が許されて良いのだろうか?江戸前寿司過激派みたいなインターネット寿司警察野郎たちに燃やされないものなのか?

 おれは先ほど想像した薄暗い展開で、客の男たちが醤油に浸したガリで寿司ネタに薄く醤油を塗るところから再生した。

 男たちは慎重に醤油を塗る。

 恐らく机に垂らしたりすれば大将の手下にぶっ飛ばされる。だから男たちは緊張感を持って、丁寧に、そして慎重に醤油を塗る。


 ……何に?どの寿司が出てくる?

 おれは知らない。光り物を最初に食べると言うこと以外、寿司の事をおれは何も知らない。

「先輩、おれ……」

「注文する順番か?そうだな。おれが行けるくらいの店なら、飲みながら好きなネタを注文していく。まぁ、オーソドックスに光り物から段々とトロみたいなものに照準を合わせて組み立てていくんだ」

「そうなんすね。後でその準備をざっくりメモに……」

「あぁ。そしてもっと高い店は、座ってるだけで何かを頼むなんて事はしないらしい。コースみたいなもんで、その日の仕入れや大将の組み立てがあるんだそうだ」


 おれは打ちのめされた。

 そんな世界があるんだろうか?日本の寿司と言う文化に、あまりにも知らない世界が広がっている。

 想像の中の寿司屋で客の男たちが一斉におれを見る。哀れみにも似た目が冷たい。大将は何も言わないが、その気配はおれを既に見捨てている。大将の手下たちが今にもおれを千切って握ってまかないの寿司ネタにしそうな目でおれを見ていた。


 冗談じゃあない。

 そんな恐ろしい店にはまだ行けない。おれは修行が必要だ。ゲームで経験値を稼ぐように、大将が恐ろしくて注文ができないような人間のためにあるタッチパネルを使う。

 おれは先輩から聞いた裏メニューの「おまかせ」をオーダーした。

 そして一定の間隔で専用の皿で寿司が流されてくる寿司を食べ始めた。


 これを全て平らげると無事クリア、となる。

 いや、これが寿司道の始まりなのだ。

 おれは寿司白帯の小僧に過ぎない。これからこの寿司道を極め、やがて黒帯になる。

 その時はじめて、あの寿司屋にいる客の男たちや大将、その手下たちもおれをひとりの客として迎えてくれる。


 専用の皿に乗った炙りコーンマヨ軍艦が、蛍光灯の眩い光を受けて微笑むようにこちらに来るのをおれは待っていた。

 これが邪道な寿司なのは知っている。

 だがそれでも、あの光はおれにとって明日への希望なのだ。

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