4_起動
プラントの入口を見上げ、クーリはごくりと息を飲んだ。
一方隣のアルミナに気負った様子はない。勝手知ったる、という顔をしている。
閉じた金属の扉の中央。そこに取り付けられた小さなパネルにアルミナが指で触れると、ほっそりした指先からスルリとコードが伸びて、パネルに潜り込む。
クーリが固唾を飲んで見守る中、パネルはポンと点灯し、緑色で「Access Granted」と表示された。
シューッと空気の抜けるような音と共に、扉が開く。
──その向こうは真っ暗闇だった。少し埃っぽい、ひんやりした空気が頬を撫でる。
「……暗いな」
「電源は全部落としてるからねえ」
アルミナが相変わらずの呑気な口調で説明する。
「〈ヴァイリール〉は稼働してる機械が特に好物なの。それで電源を落としてたんだ。だからまずは、総電源を起動しないとねえ」
少女は「こっちだよ」とクーリに手招きした。いくつもの扉をくぐり、階段を上へ上へとのぼっていく。
「クーリ、ここだよ」
アルミナが指差したのは、無機質な金属製の扉だった。他の扉より一回り大きく、アルミナの光源を反射して艶やかに光っている。
表面の光沢や加工の美しさで、そこが特別な部屋だとクーリにもわかった。
アルミナはプラント入口と同じ要領でその扉を開けると、手元の光源を強くして部屋を照らした。
室内には、埃を被ったモニターや機器がズラリと並んでいた。おそらく全体を統括するオペレーションルームだったのだろう。
前面はガラス張りだが、明かりがないため、向こう側に何があるかは見えなかった。
「さて、いっちょやりますかー」
アルミナが肩をコキコキ鳴らし、指を前に組んで腕を伸ばす。そして、つかつかと機械に近づくと、中央の小さなパネルに手をかざした。
パネルがうっすらと光り……ヴーーーンという低い音が、どこからともなく響いた。
ガラスの向こうで、ポン、ポンと順番に電力供給が為され、闇を祓うように常用灯が点いていく。
やがて隅々まで光に照らされ、宇宙船プラントの全容が明らかになった。
「うわ、すっげえ……」
「ふふ、そーでしょー?」
思わず口にした称賛に、アルミナが得意げな顔をする。
オペレーションルームから見渡したプラント内部は、地下とは思えないほどの広大な空間だった。
宇宙船の港湾を幾つも持ってきたかのような光景に、クーリは呆然と見入った。
二人が見守る中、百年の眠りから覚めた機械たちは、ゴンゴン……と音を立てて動き始めていた。
◇◇◇
アルミナは設計図を呼び出し、音声とコード入力で細かい指示を出すと、クーリを振り返った。
「ねえクーリ、残ってる備蓄も確認してこよっか!」
「あ、宇宙船に積む燃料とか?」
「そー。保管庫は最下層。来た時と違って、エレベーターが使えるから楽だねえ」
保管庫は、これまた巨大な冷蔵庫のような施設らしい。ニコニコしているアルミナに先導され、二十階下のエリアに向かう。
そして、ウィー……と開いた扉の先を見て、クーリは息を飲んだ。
……アルミナと同じ型のアンドロイドが数体、保管庫の入口に凭れかかるように並べられ、コードに繋がれていた。
「……なんだよこれ」
彼女たちはみんな眠ったように目を閉じている。
クーリの呟きに、アルミナは珍しく静かに答えた。
「稼働しなくなったあたしの仲間たち。総電源をオフにしてた間は、彼女たちの動力を利用して、保管庫とかを維持してたの」
「…………」
「でも、総電源はさっき入れたから、ここに予備電源はもう必要ない。彼女たちの動力はクーリの乗る船のコアリアクターにするつもりだよ」
彼女たちを見下ろすアルミナの表情は、哀しみとも、愛しさともつかないものだった。
普段は能天気な彼女も、動かなくなった仲間を前にすると哀惜が強く出るようだった。
彼女は仲間の一人の前に屈み込むと、人差し指の先を胸の辺りに当てた。
ジジ、と音がしたのは、レーザーか何かで、アンドロイドの胸を切り裂いているからだろう。
やがてアルミナは、コロンと丸い、青く光るリアクターを取り出した。そして次に取りかかる。
その作業を、クーリは複雑な気分で見守っていた。
全員分を取り出して、アルミナが「次、保管庫の中、見てみよっか」と立ち上がった。その表情は、もう普段の彼女で、クーリは何となくほっとした。
その時だった。
──それは、唐突に訪れた。
ドシン、とプラント全体が揺れた。
「なんだよ今の!?」
「あちゃ、さっそく来ちゃったねえ。……〈ヴァイリール〉だよ」
「んな呑気なこと言ってて大丈夫なのかよ!?」
また、ドン、とプラントが軋んだ。
廃墟の街で遭遇した巨大な怪物が頭をよぎる。
焦るクーリに、しかし、いつも通りののんびりした口調が返ってきた。
「心配しなくても大丈夫だってば。ここは頑丈に設計しといたから、あたしの計算だと二週間は持つよー。それまでに、宇宙船を完成させるね!」
「……二週間」
「そーだよ」
ニッコリ笑うアルミナを見て、クーリはほっとした。同時に、「うん?」と何かが引っ掛かった。
アルミナの台詞に、どこか……聞き捨てならない情報が混じっていた気がする。
「……アルミナがこのプラントを設計したのか?」
「そーだよ、すごいでしょー!」
少女が嬉しそうにドヤる。
どんだけ万能なんだよ、とクーリは呆れた。だが何となく悔しくて、口にはしなかった。
その間も、ドシン、ドシン、という不穏な振動は断続的に続いていた。二人は保管庫を確認すると、初日の作業を終了し、プラントを後にしたのだった。




