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ヒーロー会議 〜乙女ゲームの裏側で起きていること〜

作者: bob

 王城の王太子執務室に、四人の男が集まり未来の話をしていた。


 「お前らは婚約者とどうなの?」


 王太子アランの一声にその場にいた他の三人は動きを止める。


 「どう…、とは?」


 小公爵であり、アランの最側近のマイラスが怪訝な顔を向ける。


 「いやね、まだ俺の婚約が決まってないだろう?だから上手くいってるのか気になってね」


 アランは肩をすくめ、机の書類に目を通す。

 そんなアランに騎士団長の息子で、既に騎士団内で頭角を表しているケビンが口を開く。


「俺の婚約者は物静かな感じがちょっと物足りないと言うか…」


 ケビンは両手を頭の後ろに組み、背を逸らして天井を見つめる。


「女の子って感じが、どう接すれば良いかわかんねぇわ」


 ケビンはアランに向き直り苦笑いを浮かべた。

 そんなケビンを一瞥しアランはため息を漏らす。


「ケビン…お前の婚約者はたぶん、怒らせたらお前の母親より怖いぞ…」


 不憫な子を見るようななんとも言えない表情でケビンを見つめるアラン。

 ケビンはアランの言葉に顔色を変え姿勢を正した。


「嘘だろ…俺結構怒らせてるかも…」


 ケビンの母親は所謂、溜めて怒るタイプ。

 そう言うタイプの人間はすぐに怒ることなく、限界に達するまで耐えるのだ。そして、耐えた後の怒り方は凄まじい。

 ケビンは母親の怒気を思い出したのか、顔色を変え小さくなった。


「俺、婚約者を大切にするよ…」


「当たり前のことを言わないでください」


 ケビンの至極真っ当な宣言にマイラスは、ピシャリと言い放つ。

 そんなマイラスを見てアランは話を振った。


「マイラスはどうなんだよ?」


「私のところは政略結婚ですよ?可もなく不可もない。ごく普通の関係です」


 つまらなさそうに言うマイラスは、話は終わったとばかりに書類に目を通し始めた。


「あー…なるほど。相手がお淑やかで物足りないんだろう?」


 アランの発言にマイラスはアランを見る。

 ニヤニヤと笑い、面白そうだと笑うアランの顔に片眉を上げた。


「どう言う意味でしょうか?」


「どうって、お前ドMじゃん」


「どえむ?」


 アランの言っている意味がわからず、首を傾げるマイラス。

 

「要は虐められたら喜ぶタイプでしょってこと」


「そんなわけないでしょう!」


「いつも仕事に忙殺されてるから、てっきりそうなのかと…」


「殿下がいつも仕事を後回しにするからでしょう…」


 マイラスは頭を抱え、ため息をついた。

 アランは頬杖をつき笑っている。


「マイラスはさ、面倒見が良すぎるんだよ。あの子はそんなお前に迷惑をかけたくなくて一歩引いてるんだ」


 アランの言葉にマイラスは動きを止める。

 マイラスの脳裏には、いつも控えめに笑う婚約者の姿が浮かんでいるのだろう。


「近々休みをいただきます…」


 マイラスはボソリと呟くと書類仕事に戻った。

 その顔は真っ赤に染まっている。

 アランはそんなマイラスを見てクスリと笑った。


 ーー本当に素直じゃないよな。


「婚約者といえば…」


 今まで寝ていたと思っていた、大商人の嫡男であるラシェルが話に入ってきた。

 

「僕も婚約者がまだいないんだけど…、良い子いない?」


 自身も商会を手掛け、その手腕は既に王家御用達を受けるほど、そして王太子の側近として日夜努力をしている人物でもある。

 しかしラシェルは平民だ。

 没落手前の問題貴族ではない限り、ラシェルと縁続きになろうとしている貴族は少ない。


「そういえば、最近学園に編入生が来ただろ!」


 ケビンは名案を閃いたとばかりに声を上げる。


「ああ、えっと確か男爵家の方ですよね?ピンクの髪の」


 マイラスも知っているようだ。


「その子なら話したことあるかも…?なんか綿菓子みたいな子だった」


 三人の会話にアランは首を傾げる。


「その女がどうしたんだ?」


「可愛いし良い子そうだから婚約者にどうかなって」


 キラキラとした笑顔でケビンが言った。

 その言葉にアランは立ち上がる。

 いきなり立ち上がったアランに皆驚愕し視線が集まった。


「ピンクの髪はヤバいやつしかいないんだって!!」


 アランの発言を受け皆言葉を無くした。

 最初に我に返ったのはマイラスだった。


「やばい…?いや、なんとなく意味はわかりますが、どう言うことでしょうか?」


「いいか、お前ら…」


 アランは机に両手を添え、体を前に倒した。


「その女は絶対に地雷だ。賭けてもいい」


 言っている言葉はわからないのに何故か意味がわかる三人。


「つまり、彼女とは関わるなと?」


 マイラスはアランがどうしてここまで彼女を否定するのか理解ができなかった。

 それもそのはず、男性の目線から見た彼女は“無害”そして“弱く”“守ってあげるべき存在”だからだ。

 ケビンも同様に不思議そうな顔を浮かべる。


「ちょっと馴れ馴れしいところはあるけど、そこまで言うほど危険人物でもないだろ?」


 一同の顔を見てため息を漏らすアラン。


「いいか…。ピンク髪は10分単位で好きな奴の行動を記録したり、好きな奴を軟禁したり、敵軍に捕虜として捕まった先で恋人を見つけるようなヤバい奴しかいないんだ!」


 一息に捲し立てるアラン。

 その迫力に、皆口を開けないでいる。


「現実世界のピンク髪は確かに可愛い…。だが二次元はダメだ!」


 アランの渾身の演説を聞いた一同は心の中で同じことを考えたであろう。


 ーーいや、ここ現実なんだが…と。


「じゃあさー、僕の婚約者探しはどうなるの…?」


 ラシェルが空気を読まず、本題に戻した。

 ケビンとマイラスが驚きの表情でラシェルを見つめる。


「そうだな…。そのピンク髪の友人にメガネの子がいるだろ?」


 興奮していたアランはスッと冷静になり話を続ける。

 気にしたら負けだとマイラスは気を取り直した。


「ええ。確か準男爵位のご令嬢だったかと思います」


「その子がいいと思うぞ」


 ケビンはアランを驚きの表情で見つめる。

 それもそのはず、準男爵令嬢は控えめに言えば、物静かで目立たないご令嬢。

 事実だけ言えば、花がなく背も低い。

 女性としての魅力は外見だけでは測れないが、それでも声をかけるのを躊躇う雰囲気なのだ。

 対するラシェルは女生徒の人気が高い。

 “貴族だったなら”と女生徒が話すのを聞いたことがあるぐらいだ。


「どうして、その子を推すの?」


 ラシェルは外見に拘りがない。

 しかし、アランが敢えて彼女を推す理由が知りたかった。


「あの子の情報収集力は侮れん…。ラシェルの力になってくれるだろう」


 意外な推薦理由にマイラスが興味を持つ。


「情報収集力?そんな特筆する能力があるんですか?」


「ああ、俺たちの誕生日や好物から学業の成績、交友関係…。更には家族の情報まで握られている。恐らく国内の主要人物は網羅してるぞ」


「は!?」


 ケビンが驚きの声を上げた。

 ラシェルを除き皆高位貴族。

 情報秘匿性がある人物ばかりだ。

 それなのに、家族の情報まで握るのは情報ギルドでも難しい上に、そんな入手難易度が高い情報を一人分だけではなく大勢分握っていると言っているのだ。

 控えめに言って怖い。


「嘘…ではないのですか?」


 真っ青になったマイラスはアランに祈るよう聞いた。


「嘘ではない…。ちなみに情報筋もわからなければ罪に問う行動もしていない。…彼女はマイラスと婚約者の仲がどれほどかも、もちろん知っているぞ」


 マイラスは考えた。

 そんな令嬢を放ってはおけない。

 ラシェルが良いのなら結婚してアラン陣営に加え、国外に出られないよう対応するべき内容だ。


「…ラシェル…。貴方、その方と結婚なさい」


 呆然と呟くマイラス。


「うーん…。面白そうな子だし、今日にでも打診してみるよ」


 状況をわかっているのか、ラシェルは楽しそうだ。

 ケビンは自身が感じている恐怖を払拭すべく、違う話題を振った。


「それで…、殿下は誰と婚約を考えてるんだ?」


 ケビンに話題を振られたアランはピタリと止まる。

 そして口を開いた。


「実は魔王の娘と結婚したいんだ…」


「「はぁ!?」」


 ケビンとマイラスは一斉に声を上げた。

 ラシェルは再び寝に入ったのか、反応がない。


「な、何を言っているんですか…?!」


「魔王って北の地にいる…あの?」


 青い顔をしながら二人はアランを問い詰める。

 魔王とは王国の北側に位置している魔族の国のトップ。

 昔から小競り合いが絶えず、大きな戦争が起きるのではと囁かれている。

 その相手に婚約の打診をしたのだ。


「そうだ。実は先週に婚約の打診をしてな…ここに返事の手紙がある」


 そう言うと一枚の封筒を掲げる。

 魔王が手紙のやり取りをするのかと、先ほどまで感じていた恐怖を忘れ我に返ったマイラスとケビン。


「返答はどうだったのですか…?」


 恐る恐るマイラスはアランに問いかけた。

 アランはマイラスの言葉を聞き、封筒を差し出す。

 封筒を受け取ったマイラスは気付いた、まだ封が切られていないことに。


「私が見ても良いのですか?」


 顔を伏せコクリと頷くアラン。

 マイラスは黙って封を切り内容を確認する。


 ーー平和条約を呑む、そして我が娘を嫁に。


 つまりは…。

 アランの代でも頭痛の種だった魔族との争い、それがいとも簡単に片付いたのである。


「お話を受けるそうです…」


 マイラスは信じられないと言わんばかりに、手紙の内容をアランに伝えた。


「いよっしゃぁぁぁぁあああッ!!!」


 椅子に登り喜びの声を上げるアラン。

 ケビンとマイラスは一生この男に着いて行こうと心に決めた。

 寝ていたラシェルは笑顔を浮かべ、口を動かす。


「よかったね」


◆◇◆


 私はオリビア。

 愛くるしい顔にピンクのふわふわな髪の毛。


 この世界、乙女ゲームに転生したヒロインだ。


 目指すは魔王様ルート!


 王太子アランと仲良くなり、魔族の国に外交へ行った先で出会うのが魔王ルートの始まりなの!


「今日は何処にアランがいるのかしら?」


 学園内を散策するが、アランは見当たらない。


「お助けキャラに聞いてみようかしら…」


 教室に戻りお助けキャラ、メガネの子を探す。

 ちなみに名前は知らない。


「あ!いたいた……え?」


 お助けキャラのメガネと攻略対象のラシェルが話している。

 ここからでも二人の親密さが伺えた。


「ど、どうして二人は一緒に?」


 嫌な予感がして声をかける。


「え?婚約してるからだよ?」


 ラシェルは平然と言ってのける。

 お助けキャラは顔を赤くし俯いた。


「は?え?」


 ゲームにはない展開に頭が追いつかない。

 そんな私の脳裏に魔王様のスチルが過ぎる。


「あ!そうだ、アラン様が今何処にいるか知ってる?」


 お助けキャラに話しかけたが、返答はラシェルから返ってきた。


「婚約の話をしに魔族の国に行ってるよ?」


「…婚約?」


 ーーゲーム上のアランは婚約者を決めていなかったはずだ。

 

 混乱するオリビアに止めの一言が放たれた。


「知らないの?魔王の娘と婚約するんだよ」


 外交の目的は停戦の話し合い。

 それに魔王が応じたのは戦争により娘を亡くしたことが理由だったはず。

 と言うことは魔王ルートが完全に閉ざされたことを意味する。


「なんで?どうして?ここは私が主人公の世界じゃないの!?」


 髪を振り乱し、錯乱するオリビア。

 ラシェルは婚約者を守るように庇い、距離を取った。


「ゲームの世界じゃなくて残念だったね」


 ラシェルから放たれた冷たい一言はオリビアに届くことはなかった。

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