聖女は、どうやら語るらしい
ふぅ。
目をつぶって、お淑やかに足を下ろして。
目を開いたらもう王子はそこに居なかった。
またループしたなぁ。
知ってたけど。
だんだんループの条件がわかってきた。
でも、どんなループになるのかはまだよくわからない。
ギシ、と硬いベッドに足を組んで座る。
豪華なドレスじゃなくて、質素なワンピースみたいな囚人服なのが楽でいいな。
なんて。
この状況と全く関係ない事を考えていると
また、カツ………カツ……と遠くから足音が近づいてきた。
お。王子リベンジ??
と思いながら来訪者をただ待つ。
月明かりが差し込む石造りの牢獄は、どこかファンタジーの香りがしてなかなか良い。
近づいてきた足音が静かに止まる。
高い場所にある格子窓を見上げて考え事をしてたから、それに気づくのが少し遅れた。
鈴を振るような声で、女性が話しかけてきた。
そちらを見ると、それこそ絵に描いたような美女がそこに居た。
ああ、聖女。
月明かりをそのまま写したような銀糸の髪。
憂いと緊張に沈む顔。
長いまつ毛が震えてる。
ふぅん。
何をするでもなく、足首だけ太ももにかけて
少し前傾になった雑な姿勢で
頬杖ついたまま目だけで聖女をみた。
「………ローザ様」
祈るように組まれた手。
震える、薔薇のように色づく唇。
世界に愛される存在。
口の端で笑って、私はそのまま次の言葉を待つ。
「………この度のこと。私が、何か言える立場でも無いのですが………どうか。少しだけ、お時間を頂けないでしょうか………」
ちょっと退屈になってきて、くぁ、とあくびをしながら手を振って続きを促す。
聖女がほんの少し困惑したように眉を寄せた。
少し息をついて、聖女は視線をこちらに向けて続ける。
「大変、申し訳ありませんでした。
このような事態になって、しまって………」
止めようと、したのですが。
と聖女は聖女らしからぬ自嘲めいた笑みを浮かべた。
「………ローザ様のなさった事は、法の目で見ても許されない事。………ですが、そもそも。
そうさせてしまった原因は………私にあります………」
言葉を、つむごうとして。
喉に詰まったかのようになかなか言葉にならない様子の聖女を、しばらく眺めた。
…………は、と軽く笑って。
「ねえ?あなた来る場所間違ってるんじゃ無い?
ここは懺悔室でもなんでも無いんだけど。」
そういうと、すみません…………とまた聖女は項垂れた。
はぁ。
小さく息をついて、スタスタと聖女の元まで足を進めた。
つ、と指先で聖女の顎を掬って顔を上げさせる。
「そうね?罪は罪。
私が救われる必要は無いの。
だから、今あなたがやっていることはただの偽善。」
分かってるのに貴方、どうして来たのよ?
とニヤニヤしながら聖女の目を覗き込む。
抵抗もできず。
かと言って、誤魔化しもせず。
瞳を揺らしながらも私を見つめ続ける聖女の瞳を静かに眺めて、私はす、と目を細めた。
「…………一つだけ聞きたいのだけど。」
どうぞ、と聖女は穏やかな声で答えた。
「………貴方、選ばれたの?」
何に、とは聞かなかった。
顎を支えていた指にかかる力が消えたから、そっと手を離す。
おそらくは、何もかもに、だ。
ただ時間が過ぎて。
でも私は促さない。
静かに空気だけが揺れる。
静かに聖女が頷くのをみて、私は満足気に
そう、と笑う。
聖女はただ、穏やかに、微笑むでもなく私を見ている。
「…………そして、選んだのね?」
クスクス、我慢できずに笑いながら聞くと
聖女は困ったように。
でも、静かに笑った。
「………結局、言葉に出来きれないままで?」
ふ、と笑うと聖女は苦笑した。
ヒラヒラ、手を振ってベッドに戻って寝転がる。
目の前には壁。
それで良い。
もう何も語らない私に、聖女は静かに尋ねた。
「…………貴方は、明日どうなさるのです?」
私は答えない。
それこそが答えだと分かった様子で、聖女はひとしきり、クスクスと笑った。
「…………聞く必要、ありませんでしたね。」
私は寝てるのに。
そう思いながら、フッと吹き出したのに満足したように
また、足音が静かに遠ざかっていった。




