第37話 フィオナが水着を買うのに付き合う
俺は水着売り場に来ていた。そこは王都にあるショッピングモールの一角にある、水着専用のショップであった。
なぜ、こんな事になったのか、少々時間を遡って、振り返ってみる事にしよう。
【回想中】
「え? これからはそんなに特訓をしなくていい?」
フィオナは驚いた様子で聞いてくる。
「ああ、そうなのだ。喜べ」
「どうして特訓をしなくても良くなるんですか?」
「うむ……それがだな。魔導書というものがあるのだ」
「魔導書?」
「うむ。光魔法と闇魔法の魔導書がここより遥か彼方にある東の塔と西の塔にあるのだ。そこには古代に失われた光魔法と闇魔法を修得する事ができる魔導書があるのだ」
「そんなものがあるんですか?」
「うむ。その古代の魔導書を手に入れさえすれば強力な光魔法と闇魔法を修得する事ができるのだ。そうすれば、お互いの標的を難なく蹴散らす事ができるのだ」
「そ、そんな古代の魔導書なんてものがあるのですか」
「うむ。あるのだ。だから、夏休みのうちに、その二つの魔導書を手に入れるとしよう。その方が効率的に強くなれるのだ」
「な、なるほど。で、でもアーサーさんはどうしてそんな事を知っているんですか?」
「ん?」
「私はそんな魔導書の存在すら知りませんでした。しかもその魔導書の場所までわかるなんて、普通ではありえない事です」
「う、うむ。それはだな。学園長が俺の叔母に当たるからな。最近、そういった情報が入って来て、こっそり俺に教えてくれたのだ」
「へー……そうなんですか。理事長が」
原作知識だとか色々な事を言うと、何かと面倒なので、その情報の出所は有耶無耶にしておいた。
俺が適当な事言うとフィオナは特に何の疑いもなく、信じた様子だった。
「と、いうわけでそんなに毎日のように俺達は特訓をしなければならないというわけではなくなったのだ」
「そ、それは確かにありがたい事ですが、本当に良いのでしょうか?」
「良いのだ。学生なんてものは遊ぶのが仕事みたいなものだ。それに、夏休みなんて本来は休むものだろう。こんな訓練漬けで疲れる夏休みなど俺は送りたくはない。という事で――」
「という事で?」
「この夏休みどこかに遊びに行かないか?」
――どこか。とは言っているものの、既に行先は決まっているのではあるが。
「そ、それはつまり、デートのお誘いでしょうか?」
フィオナは顔を真っ赤にして聞いてくる。男が女を遊びに誘っているのだから、そう考えてしまうのも自然な事と言えた。
「ち、違う。デートではない。二人きりではない」
「二人きりではない?」
「前はすっぽかされたのだが、リオンの奴だ。あいつと三人で行くのだ」
「ええっ!? リオン王子も来るんですか!? なんで!?」
フィオナは驚いたように声を上げる。
「それはな、そう、前回の雪辱を果たすためだ」
「はぁ……リオン王子と三人で。どこに行くんです?」
「どこかと言っていたが実は行先は決まっているのだ。学生達にも人気のある大規模なプール施設である『マジック・シー・ワールド』だ。そこに三人で行こうと思っているのだ」
「『マジック・シー・ワールド』。へー、あのよく話題に上がる」
「そうだ。そうなのだ。そこに行こう。うんうん。こんな泥臭い訓練を積むなんて、そんな事しているより、そこでぱーっと遊んだほうが余程人生は充実する」
俺は幾度となく頷いた。
「それは確かにそうです。私だって、夏休みに友達とどこか遊びには行きたいです。今までだって、友達と遊びに行った事なんて特にないですし」
「うむ……お前は友達がいなさそうだからな」
「うっ……それはそうだけど、それは私が平民だからなかなか友達ができないだけで。けどそれはアーサーさんだって同じでは?」
「それは俺が自然に嫌われているだけだ! 色々と問題行動が多かったからなっ!」
俺は胸を張って言い放つ。
「そ、そこは胸を張って言うような事では……」
フィオナは苦笑いした。
「うむ。特に女子生徒からの風当たりは酷いぞ。それに男子生徒からはかつあげされるからと敬遠されているし。未遂だったのに。くそっ」
「それはそう、大変ですね」
「後は男子生徒達からは女子生徒の裸を見たという事で、うらやまけしからん! という事でやっかまれているのだ!」
「そ、そうですか。それもそれで大変そうですね」
「うむ。それで行くな? フィオナよ」
「は、はい。私でよろしければ、ご一緒させて頂けると嬉しいです」
「そうか。では一緒に行くとするか。きっと楽しい一日になるであろう。多分」
また良からぬトラブルが起こるやもしれぬが。
「でも、ひとつ問題があります」
「問題? どんな問題だ?」
「私は水着を持っていないのです。あの施設は水着で入るのが前提ですよね?」
「……うむ。その通りだ。そうか。お前は水着を持っていないのか。だったら買いに行けばいいだけではないか」
「よ、よろしければ一緒に行ってはくれないでしょうか? 私、どんな水着を買えばいいのか、皆目見当もつかなくて」
「なにぃ? 俺が付きそうのか?」
「お、お願いします。他に頼める人がいないんです。それに、男の人から見て変じゃないかとか、私にはわからなくて」
フィオナはそう頼んでくるのであった。
「うむ。仕方がない。この俺様が水着の買い物に同行してやろうではないか」
「ありがとうございます」
【回想終了】
こういう経緯があり俺とフィオナはデパートにいる水着売り場に来たのであった。水着売り場にはところ狭しと様々な水着が並んでいる。
男物も多少はあったが、やはり女性ものの方が種類が豊富だった。需要が多いのであろう。
「行くか」
「はい」
こうして俺達は水着ショップに入店していくのであった。




