第35話 フィオナに魔法を教える
「……さて」
放課後の事であった。俺達は演習場にいた。そこは魔法の実戦訓練で使ったダダ広い平野である。
そこに俺達はマジックスーツを着て立っていた。ボディラインがくっきりと見えてしまうが、お互いに裸を見せ合った仲なので、そこはもう、今更恥ずかしがる事もなかった。
「よろしくお願いします」
フィオナは深々と頭を下げる。相変わらず礼儀正しい奴であった。
そういえば俺はフィオナが魔法を使っているところを初めて見るわけだった。彼女が使う光魔法がどんな魔法なのか、多少は興味が湧いた。
「……ふむ。そうだな。だったらまずはフィオナの光魔法を見せて貰おうか」
俺は周囲を見渡す。ちょうど、適当なところに岩があった。演習で使う為の標的のような岩だ。
この岩に魔法を放つ事で魔法の威力を試すのだろう。
「フィオナ、試しにあの岩に攻撃してみてくれ」
「は、はい。わかりました。使う魔法は何でもいいんですよね?」
「なんでもいい……とはいえ、光魔法を扱える者は現代ではいない為、俺もよくわかっていないが」
フィオナは岩に向かって意識を集中する。フィオナの周囲が光に満ちているように見えた。光の精霊が力を貸しているのであろう。それはなんだか神々しく、神秘的な光景にも見えた。
「おお……」
見慣れない光景に俺は思わず声を漏らす。
目を閉じていたフィオナはその目を大きく見開き、指を指すのであった。
「ホーリーレイ!」
放たれた聖なる光は岩を貫いた。
「ほぉ……」
パチパチパチ。俺は軽く拍手をする。
「どうでした? アーサーさん。私の魔法は?」
「そうだな。殺傷力はそれなりにありそうだな」
「殺傷力って言い方……なんか他にもっと可愛い言い方ありません?」
可愛いって。どうやったって破壊系の攻撃は可愛く言いようがないだろう。
「うむ……それは難しいがな。ちなみに他に何の魔法が使えるのだ?」
「支援系の魔法と、もう少し強力な光魔法が使えます」
「……そうか。光魔法はもっと上達すると回復魔法や蘇生系の魔法も使えるようになるからな。頑張って修練に励む事だな」
「詳しいんですね。私以外に光魔法を使える人は現代では殆どいないのに」
「う、うむ。まあ、それは理事長あたりから聞いたのだ。叔母が理事長をやっているので、お前の事にも多少は詳しいのだろう」
本当は原作知識から来ているものではあるが、まあ、その事を言っても仕方がない事だろう。知らない方が良い事であった。
「は、はぁ……そうですか」
「それでは、少し実戦形式で闘ってみるか」
「アーサーさんとですか?」
「俺、相手といえばそうであるし、俺相手でないと言えばそうともいえる」
「は、はい? なんですか。それは謎かけみたいですね」
「闇魔法『シャドウナイト』」
俺は自身の影から無数の騎士達を作り出す。現れたのは俺の命令に忠実に動く、影で作られた漆黒の騎士達だ。
耐久性もなく、当たれば一発で消し飛ぶが俺の魔力消費のみで作られている為、別に本体である俺自身にダメージが及ぶ事はない。
それに『シャドウナイト』の持っている影で出来た剣はハリボテでもなく、そこら辺の鋼鉄の剣と同じ程度の殺傷能力がある。
群体を相手にする時には割と便利な闇魔法である。あまり強くない分身を召喚できるみたいな魔法なのだから。
「魔法武術大会は一体一の闘いではあるが、敵が多角的な攻撃をしてこないというわけではない。死角である背後から襲い掛かってくる事もある。これはその訓練だと思え」
パチン。
俺は指を鳴らし、待機状態だった。『シャドウナイト』のスイッチをオンにする。『シャドウナイト』はターゲットであるフィオナ目掛けて明確に行動を始めた。
「行くぞ! フィオナ!」
「は、はい! アーサーさん」
「ここではコーチと呼べ」
「は、はい! コーチ!」
コーチと呼ばれるとなんだか女性向けのスポ根漫画のようだった。鬼コーチとその指導を受ける女子生徒のようである。
こうしてフィオナと俺——の放った『シャドウナイト』数体との闘いが始まったのである。
とはいえ、あくまでも訓練ではあるが。




