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第34話  フィオナからのお願い

 その日の昼休みの出来事であった。


「……ふーむ」


 俺はソファに腰を掛け物思いに耽っていた。


「どうしたんですか?」


 俺に話しかけてきたのはフィオナだった。というか、女風呂に不法侵入した事で変態貴族となった俺に対して、ひそひそ話をする事はあっても、話しかけてくる者はいない。


 必然的に俺に話しかけてくるのはフィオナという事になる。


「うむ。フィオナか。実はリオンの奴にわざと負けるように頼んだのだが、やはり断られたのだ」


「そ、そうでしょうね。リオン王子の性格からして、そうなるのは不思議ではないかと」


「それで、リオンの身内を誘拐して脅そうかと思ったのだが、それも上手く行かなくてな」


「リオン王子の身内ってつまり。お、王族を誘拐するなんて即時極刑ものですよ」


「うむ。本人からもそう言われたぞ。大体、誘拐されるような身内はいないと。王族の血筋はそれだけでチートのような能力を持っているからな。なかなか、生け捕りにするのは難しそうだな」


「その発言だけで不敬罪に値しそうな気がしますが。それどころか、誘拐計画を立てた時点で重罪ですよ」


「うむ。なので仕方ない。誘拐の方向性も諦める事にした」


「リオン王子と普通に闘うって事ですか?」


「いや。魔法武術大会の当日、あいつの飲み物に毒でも入れてやろうかな、と先ほど俺様は考えていた。死にはしない程度の毒。何、一日中トイレに籠り切りになって、不戦敗になってくれればそれでいいのだ」


「王族の飲み物に毒を入れるのも重罪ですよ! 極刑になるかもしれません!」


「それもそうだ。だが、俺とバレなければ問題ないだろう? バレなければどんな罪も罪ではなくなるのだ」


「動機があまりにありすぎて、すぐ犯人だと疑われてしまいますよ」


「……だろうな。八方塞がりだ。やはりまともな手段で闘うしかないか」


「……はぁ。やっとそこに行きつくんですか」


 フィオナは深く溜息を吐いた。


「だからあの化け物をどうやって倒すのか、こうやって頭を抱えているのではないか。あの冗談の利かない、人の皮を被った化け物を一体、どうやれば正攻法で攻略できるのか、と」


「それでさっきから浮かない顔をしていたんですか」


「うむ。そうだ」


「そんな事だろうとは思いました」


「そんな事より、俺と一緒にいていいのか?」


「何がですか?」


「自慢ではないが、俺の学内での評価は良くない。一緒にいればお前の評判も悪くなるだろう。それに何より、俺とお前の間に何が起きたのか、忘れたわけではあるまいな?」


 俺は問う。記憶を消去するのはなかなかに難しかった。あの日の大浴場で俺はフィオナの裸体を間近で見てしまったのだ。


 お互いに裸を見せ合った仲とも言える。普通、不慮の出来事でお互いの裸を見てしまったとなると気まずくもなりそうなものだ。


 顔を合わせたくないと考えても不思議ではない。


「……そ、それはそうですけど」


 フィオナは過去の出来事を思い出したからか、顔を朱に染め上げるのであった。


「ほ、他の人だったら見られたら嫌だったと思いますけど、アーサーさんなら嫌じゃかったかもしれません」


 指をもじもじとしつつ、そんな事を言ってきたのだ。


 なに? ……つまりは俺になら裸を見られても構わないという事か? くっ、そんな事なら目を反らさずにガン見しておくんだった。俺は軽く後悔をした。


「こほん」


 俺はわざとらしく咳払いをする。だが、それでは問題だった。


 運命(シナリオ)の修正ができておらず、さらにその歪が広がってしまったかもしれない。


 フィオナの好感度は相変わらず高いままだ。むしろ前より上がってしまったかもしれない。


 いかん。だが、俺はそんな事にかまけてばかりいる場合ではないのだ。他にも何とかしなければならない問題がそれはもう無数にあるのだ。


「ふっ。フィオナよ。淑女たる貴様があまり自分の裸の価値を安く見積もるではないぞ。そんな事では女が廃るというものだ」


「は、はぁ……そうですか。女が廃りますか」


「恥じらいがあってこそ、そこに尊さが生まれるものなのだ。よく覚えておけよ」


「は、はい。覚えておきます」


「……うむ。それはそうとあのいけすかない、イケメンチート主人公の奴をどうにかする方法を考えんとならん……、どうやってあいつをハメ殺すか。入念に準備し、姑息に立ち回り、それでも今の俺を以てしてもあいつには五分が良いところであろうな」


「……はは、大変ですね」


 フィオナは苦笑を浮かべる。


「うむ。大変なのだ」


「ところで」


「ん? なんだ?」


「アーサーさんに、折り入ってお願いがあるのです」


「折り入ってお願い?」


「ええ。お願いです」


「だめだ。貴様の想いには応えられん」


「な、なんで何も言っていないのに断るんですか? ちなみに私が何をお願いしようとしたと思ってるんです?」


「この俺に処女を捧げようとしたのだろう? ダメだぞ、フィオナよ。自分の身体は大切にしないと」


「そ、そんな事お願いしようとしたんじゃありません!」


 フィオナは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「う、うむ。そうか、だったらなんだ。その願いというのは?」


「放課後、時間がある時で構わないので私に魔法を教えて欲しいんです」


「魔法を?」


「は、はい。ダメでしょうか? 私ももっと強くならなきゃならないと思うんです。その為にはできる事はしないと」


「ふーん」


 俺は考える。こいつの力はやがてやってくる魔族襲来編(俺の死亡フラグ2)で必要になってくる。鍛えておく分には良いだろう。

光属性の魔法は魔族に対する特攻効果もあるし、希少な回復魔法とバフ(強化)系統の魔法を覚えるのだ。


 だからこいつを鍛えるのはその場の利益だけではなく、後々の利益になると考えたのだ。


「良いだろう。フィオナ。お前を鍛えてやろう。普通の授業だけでは強くなるには物足りないだろうからな」


「本当ですか!?」


 フィオナは表情を明るくさせる。


「ああ、本当だ。それにお前と闘うであろうアリシアは強敵だ。性格は悪いが、四属性の魔法を高いレベルで使いこなせる稀有な才能の持ち主だ。奴に勝つ為にも貴様を鍛えてやろうではないか」


「はい。よろしくお願いします。どうか、私を鍛えてください」


 こうして俺とフィオナは放課後に魔法の特訓をつける事になったのである。


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