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第29話 女湯での出来事

 闇魔法『シャドウワープ』と言っても万能な魔法ではない。

 移動できる対象は人間の影に限られているし、その効果範囲は成長した今を以てしてもせいぜい50メートル程の範囲に過ぎない。

 

勿論、それでも便利な魔法である事には間違いはない。奇襲であったり、相手から逃げる時にも有用だ。ただテレポーテーション程万能ではないというだけだ。


 俺が闇魔法『シャドウワープ』を使ってどこに逃げたのかは、もう言うまもでない事であった。


 俺とフィオナが突如として、その空間に現れた瞬間、時の流れが止まったように感じた。


 そこは女湯であった。色とりどりの二つの膨らみが咲き乱れている。小さいもの、大きいもの、中くらいもの。様々なものが所狭しと並んでいた。


 男なら誰もが透明人間になり、侵入したいという願いを抱いた事であろう。だが、残念な事に今の俺は透明人間ではなかったのだ。

 

 フィオナはいいのである。いくら平民とはいえ、今この状況下では然したる問題にもならない。


 なぜなら肉体的に言えば、同じ女性でしかなく、判別のしようもない事だ。


 問題なのは全裸でエクスカリバーを股間にぶら下げた俺の存在である。


「あー。こほん。待て待て、これから俺がどうなるか知っているぞ。どうせ皆悲鳴をあげるんだろ。『きゃあああああああああ!」とか。それで俺は桶でも投げられる。うんうん。そうだろう? そうだろう。あるいは魔法学園だし、魔法が飛んでくるかもしれないなぁ」


 あまりにショッキングな出来事でぽかーんとなっている女性達を目の前にして、俺は饒舌に語る。


「だが、待て待て。これには深い事情があるんだ。深い事情が。もっとも話せばわかるとも思えない。君達は感情的に叫び散らかして俺に攻撃を咥えてくる事だろう」


「愚弟」


 すぐ近くには我が姉であるアリシアがいた。というより、俺達はアリシアの影を介してこの女湯に移動したのだろう。


 最後にアリシアの裸を見てから実に5年の時が過ぎようとしていた。あの時12歳だったアリシアも今では17歳である。


 その為、アリシアの二つの胸の膨らみはエスティアにも負けない程に厭らしく、たわわに実っていた。


「どういうつもりかしら? 私の顔に泥を塗るような真似はしないように厳命したはずよね?」


 アリシアは怒りで拳を震わせていた。羞恥よりも怒りの感情の方が強いのだろう。


「顔に泥を塗るどころか、馬糞を顔に投げつけてくるかのような、この奇天烈な痴漢行為。勘当とかいう次元を超えて死刑に値するわ」


「アリシアよ」


「なにか?」


「そう乳が無駄に育つと、随分と動きにくそうだな。ん? 歩く時に俺が支えてやろうか?」


「ち、痴漢行為を詫びるは愚か、あまつさえ何とも愚かな挑発行為をしてくるなんて」


 アリシアは片手に魔力を集中させる。風と火の精霊の力が働くのを感じた。『二重魔法(ダブルマジック)』だ。火属性の魔法に風属性の魔法を加える事で火力を底上げしようという魂胆なのだろう。


「死になさい! エクスプロージョン!」


 突如、女湯に大爆発が起こったのである。


                ◇

 女湯での騒動の後、俺は叔母であるカレンに理事長室に俺は呼び出された。


 理事長であるカレンは頭を悩ませていた。


「昨日、女湯を覗いた……というレベルではないが。覗いたもとい、侵入したのは本当なのだな?」


「うむ。本当だ! 俺は女湯に入った事に対して何の言い訳の余地があるわけもないっ! 入ってやったぞ! それはもう見事なまでに堂々とだ!」


 俺は胸を張って堂々と宣言する。


 俺はアリシアの爆裂魔法『エクスプロージョン』を闇魔法『シャドウウォール』で咄嗟にガードした為、幸いな事に大きなダメージは負わずに済んだ。


 だが、その結果外壁が大破損してしまい、しばらくの間は大浴場のうちのひとつが使えなくなった。


 その結果、男子達は沐浴で済ませなければならずに女子が大浴場のうち無事だった方を使う事になった。


 修理にはしばらく時間がかかるそうだ。壊すのは一瞬だったが、直すのにはかなりの時間がかかる。全く、剣と魔法の世界なのだから魔法で一瞬で直せないかと思ってしまうのだが、どうやらそうもいかないようだ。実に不便ではあるが。


 全く、大浴場の外壁を壊したのはアリシアのせいだというのに。俺は男子達からもヘイトを買う事になってしまう。


 もしかしたらヘイトを買っているのは男子達が大浴場を使えなくなった事ではなく、俺が女湯に侵入した事にあるのかもしれないが。


 うらやまけしからんという奴だ。嫉妬しているのだろう。本当は自分達がやりたいのだが我慢している事を他人が平然と行えば、そういう感情になるのも自然な事であるとも言えた。


「女子生徒達からクレームが殺到している。お前を退学にしろと」


「……まあ、無理もないな」


 これでは『悪役貴族』ならぬ『変態貴族』である。


「女湯を覗く事は十分に退学条件に当てはまる。だからお前が退学になっても仕方ない。叔母である私が理事長だとしても庇い切れるものではない。まあ、お前の場合は粗末なモノをぶら下げてしばらく居座ったらしいがな。ふふっ」


 失笑される。粗末なモノとは失礼な。今の俺のモノ見た事あるのか? 昔の小さい頃の想像のまま言っているんじゃないだろうなっ!? ああっ!?


「一体、何があったのだ? まさか、私の甥っ子がそんなに変態だったとは思いたくはない。何か理由があったのか?」


「——それなんだがな」


「待って下さいっ!」


 理事長室の扉が開かれる。慌てた様子でフィオナが入って来た。


「……はぁ……はぁ……はぁ」


 彼女は走って来たのであろう。随分と息を切らしていた。


「呼吸を整えろ。落ち着いて話せ。別に一刻を争う事態ではない」


 カレンはそう言うのであった。


 すぅ、はぁー。


 深呼吸を数回してフィオナの呼吸は落ち着きを取り戻すのであった。


「アーサーさんは私を助けてくれたんです」


「どういう事だ? 助けた?」


 俺達はかくかくしかじか、大浴場で起きた出来事のいきさつを説明するのであった。


                ◇

「なるほど……そういう事があったのか。良かったよ。私の甥っ子がただの変態ではない事がわかって」


 カレンは安堵の溜息を吐いた。


 俺達は説明した内容はこうだった。


 事の発端は裏で糸を引いているアリシアである。アリシアが取り巻きに命じてフィオナが女湯に入る瞬間、男湯と女湯の暖簾を取り換えたのだ。


 そして、その後何事もなかったのかのように戻す。


 その行為の目的は男子にフィオナの裸を見せるように仕向ける事で恥をかかせ、退学に追い込むというものである。


 脱衣所に誰もいなかったフィオナはここが男湯だと疑うわけもなく、裸になり、大浴場へと向かったのである。


 そして風呂に入っていた俺と遭遇したのだ。他の男子達も入浴してきた為、俺は仕方なく闇魔法『シャドウワープ』を使って、女湯に退避したというわけであった。


「……そうか。そんな事があったのか。アリシアが裏で糸を引いていた。とはいっても確証はないだろう。その取り巻きを問い詰めれば何かしゃべるかもしれないが、シラを切るだろう」


 冷静にカレンは分析を始める。


「当然、アリシアの奴を問い詰めてもシラを切るだろうし。確たる証拠は得られないだろうな。そうなると責任追及できるにしても取り巻きの一人が関の山という事になる」


 うんうん。そうだろうな。そうだろうな。


「だが、そんな裏の事情など肌を見られた女子達は知りもしないし。彼女達は単なる被害者だ。突如女湯に現れたお前を糾弾するのは自然な事とも言えるし。私もお前をどう処罰するべきか実に頭を悩ませる問題だ。何のお咎めなしというわけにもいかないし」


「そ、そんな、アーサーさんは私を助けてくれただけなのに! 制裁を受けるなんてひどいですっ!」


 フィオナがそう叫ぶ。


「そ、それもそうだが。女子生徒達のアーサーを退学させろというクレームも多くてな。こちらも頭を悩ませているのだよ。何も事情を知らない女子生徒達が感情的になるのもわかるしな。かといって甥っ子を退学させたくもないから私もこうして頭を悩ませているのだ」


 カレンも頭を抱えていた。学園の理事長というのも実に大変そうな役職(ポジション)である。


「とりあえず、後日、そのアリシアの取り巻きをしている女子生徒に話を聞いてみよう。口を割るとは思わないが、何かしらの証言は得られるかもしれない」


 後日、その取り巻きをしている女子生徒から話を聞いてみる事になった。


 そして今日のところの話は終わり、俺の処遇が決定される事も先送りになったのである。

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