第23話 魔法の適性検査、続き
「「「おおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」」
生徒達の声が教室に響き渡る。
リオンが手を翳すと魔水晶が虹色に輝きだした。これまでにはない反応であった。他の生徒達は勿論の事、俺やフィオナとも違う反応。火・水・風・地。四大属性のどれにも当てはまらないのは勿論の事、光と闇とも異なる反応を魔水晶は示した。
「な、なんだ! この光はっ!」
「今までに見た事のない光だっ!」
「エスティア先生。い、一体。何なんですか? この虹色の光は?」
生徒の内の一人がそう聞いてきた。
「わ、わかりません。このような現象は未だかつて見た事がありません。ですが、噂には聞いた事があります。王族の血にはかつて魔王を封じ、世界に平和を齎した勇者の血を引いているそうです」
1000年前、魔王を封じた勇者。そしてその勇者の血を引くのが今の王族であると言われている。
「風の噂では勇者の血を引く王族は私達の魔法体系とは全く異なる魔法を使うそうです。ですから、もしかしたら精霊を介して魔法を行使する、私達の精霊魔法とは違う類の魔法かもしれません」
エスティアはそう説明した。そう、このイケメンチート主人公は俺達が使えないようなチートな魔法を使ってくるのだ。その結果、原作ゲームにおける俺は魔法武闘大会でこいつにボコボコにされて命を落とす事になるのである。
「へ、へぇ……流石は王族だな。使える魔法も特別ってわけかよ」
他の生徒達も軽く引いていた。
「それでは今日の適性検査の授業はこれまでとします。午前中にもう一コマ、基本的な魔法の授業をした後に、午後からは魔法を用いた模擬戦闘を行いましょう」
エスティアはそう言って、授業を締めくくった。こうして魔法学園での最初の授業である一限目の授業は終わりを迎えたのである。
◇
午後の二コマ目の授業は座学であった。魔法に対する基本的な授業を教えるそうである。
「はぁ~~」
俺は欠伸をする。
「退屈そうですね」
横にいるフィオナが言ってくる。
「授業などつまらないものだ。生き死の戦闘など、授業で教えられるものではない。いかに修羅場をくぐってきた経験があるか。それが生き死にを分けるカギとなるのだ。故に知識のみを授ける座学など修羅場を潜り抜ける上で何の意味もない」
俺は雄弁に語るのであった。
「言いますね。けど知識が身を助ける時もあります」
「うむ……それもそうではあるが」
そんな会話をしている内に、エスティアが授業を始めた。
魔法による戦闘の基本から教えられる事になった。
まず第一に火は水に弱い。火は水をかけられると消えるからという理屈だ。ともかく、ここはじゃんけんのような関係性が成立するのだ。
まあ、ここでは四すくみの関係であるな。
次に水は地に弱い。なぜなら地は水を吸収してしまうからとかいう理屈だ。
そして次に風は火に弱い。なぜなら風は火の勢いを強くしてしまうから、とかいう理屈だ。
そして、地は風に弱い。なぜなら……理屈してはなんだかよくわからないが、とにかく弱いらしいのだ。
大体、この四すくみが四大属性に対する基本的な関係性である。要するにじゃんけんみたいな関係だから、自分が苦手な属性の相手と対戦する時は気を付けろよ、程度の授業である。
そんな事を適当に聞き流しているうちに、その日の午前中の授業は終わりを迎えた。
鐘の音が鳴り響いた。それが授業の終わりの合図であった。
「はい。それでは今日の授業はこれまでです。皆様、大変お疲れ様でした」
はぁ~。何とか授業が終わった。俺は寝ずに授業を受け終えた。幾度となく睡魔が襲い掛かってきたが、俺はその睡魔に悉く打ち勝ったのだ。どうだ、大したものであろう。
二限目の授業を終えたので、これから昼食の時間になる。楽しみにしていた昼飯の時間だ。
この学園には食堂があった。何せ、貴族と王族の集う学園であるのだから、それくらいの施設は当然のように存在していた。
金さえ出せば料理人が腕によりをかけた料理を振舞ってくれるのだ。その料理の品揃えや旨さは決して街の一流料理店にも引けを取らない。
その分、金額はそれなりにかかるが。大抵の場合、貴族や王族がそんな事を気にするはずもない。なぜなら平民から税として金を搾り取っている彼等の親はそれなりに裕福だからだ。
だから、学生の身分ではありながらも、多額の仕送りを貰っている者も多く、金に困っていない者は多い。
部屋には簡単なキッチンと冷蔵庫などがある為、自炊して弁当を作ってくる事くらいできそうなものではあるが、実際に作ってくる者は多くはないであろう。
……しかし。俺はここで自身が財布を持ってきていない事に気づいた。
「やばい。財布を忘れた」
走れば10分というところだろう。ここから寮まではかなり遠い。何せ、学園内は広大な作りになっているのだから。寮までは数キロ程あるだろう。
だが、鍛え上げられた俺の肉体からすれば、この広さを持ってしても然したる問題ではない。
俺だからこそ走れば10分で済む。だが、午後からは魔法の実践訓練を行うという旨の報せを講師であるエスティアから聞いていた。
だから、余計な体力は使いたくない。そうなると、取るべき手段は決まっている。
そう、『カツアゲ』だ。『悪役貴族』である俺様にとって、実に似合っている行為だ。何とも『悪役貴族』っぽい。そう、『カツアゲ』を平気で実行するあたり。財布を忘れたくらいで。
ドン。俺は廊下で一人の男子生徒を壁ドンする。全くロマンチックではない、壁ドンだ。こういうのは女子にするからロマンチックになるのだ。
「ひぃっ!」
男子生徒は顔をひきつらせた。魔力測定で火属性の反応しか出てこなかった一人のモブ男子生徒である。
「貴様ぁ!」
「な、なんでしょうかぁ!」
「さっきは舐めた口を聞いてくれたな。この俺様の事を『こいつ』呼ばわりするなど、無礼にも程があるだろうが」
「ひ、ひいっ! すみません」
「モブ男子生徒よ。特別に名を名乗る事を許そう。名乗って見るが良い」
「ぼ、僕の名前はポール。ポール・アン・トリクセンと申します」
トリクセン。あまり聞いた事もない。貴族ではあるが下級貴族と言ったところか。
「そうか。ポールよ。喜べ。この俺様の役に立てる事を」
「や、役に?」
「ああ。この俺様がうっかりした事に、寮の部屋に財布を忘れてしまってな。昼食代を持っていないんだ。悪いがいくらか貸してくれないか?」
「い、いいですけど。返してくれるんですよね?」
「それは期待しない事だ。何、財布の中身全部でいいんだぞ」
「そ、そんなに昼飯代でいらないでしょう! ぼ、僕の昼飯代がなくなっちゃいますよっ!」
「ええいっ! つべこべ言わずに財布の中身を全部出せ! このモブキャラ野郎っ!」
「『カツアゲ』は良くないと思いますっ!」
俺のカツアゲ現場を見たフィオナが叫ぶ。
「……ちっ。なぜ止める。こいつ等は平民であるお前に対して、差別意識を持っているような連中だぞ。そんな連中を庇って何になる?」
「そ、それとこれとは関係ありません。目の前で良くない事をしようとしているアーサーさんを放っておく事など私にはできません」
ちっ……相変わらずクソ真面目な女め。流石は光属性の正ヒロイン。まるで聖母のような少女だ。
「……ちっ。モブ男よ。行って良いぞ」
「な、名乗ったのにモブ男って言い方……」
不服に思いつつもモブ男——ポールはそそくさとその場を立ち去った。
「……ちっ。昼食代をカツアゲし損ねたぞ」
「昼食代だけではなく財布まるごと、カツアゲしようとしてましたよね?」
フィオナに諫められる。
「それもそうだが。どうするのだ? これで昼飯が食えなくなってしまったぞ。どうするのだ。腹が減って、昼以降の活力が失われてしまうぞ」
俺は大きく肩を落とし嘆いた。
「私はお弁当を持ってきています。だから、これを分けてあげます」
そう言って、フィオナは大きめのバスケットを示す。
「ん? ……そうか。それは実にありがたい……ありがたいが」
一緒に弁当を食べるというイベント、恋人同士かあるいは気になっている男女がするようなイベントであろう。
とはいえ、今はその事を気にしていても仕方ない。腹が減るのも確かなので俺とフィオナは学園の屋上へと向かい、そこで昼食を取る事にしたのである。




