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第19話 三人での遊園地デートのはずが……

 日曜日になった。この世界も基本的に一週間は7日であり、土曜日と日曜日が基本的な休日という認識で相違ない。そこら辺は現実世界に即している感じだ。


 入学式の後、簡単なオリエンテーションの後、すぐに休日になった。本格的な授業が始まるのは今度の月曜日からだ。皆、思い思いの休日を過ごしているだろう。


 翌週の月曜日から始まる本格的な授業に備えて準備を進める者もいる事であろう。反対に、ただただ、だらだらと過ごし、寝て食ってを繰り返し、休養を取る者もいるであろう。


 しかし、俺達は呑気に遊びに来ている。王都にあるレジャーパーク、『マジックランド』に。ここには魔道具により動いているいくつもの遊具がある。料金を支払えば施設内の遊具が遊び放題という、素晴らしい施設なのだ。


 現実世界の言うところのネズミーランドのような主に若者に遊楽施設なのである。要するに現実世界で言う、遊園地のような施設なのだ。そう思って貰えれば差支えはない。


 休日にこのような施設で遊ぶのは何とも10代の少年少女らしい過ごし方であった。


 俺達はこの遊楽施設『マジックランド』の入場口に午後1時に待ち合わせをしていたのである。そして、時刻はもうすぐその1時になりそうなところであった。ちなみに、この世界でも時刻も24時間制でそこも現実世界と同じであった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ、すみません。お待たせしました」


 小走りで走って来たのは白いワンピースのような恰好をしたフィオナの姿であった。清楚なイメージの彼女にぴったりな服装だ。これが彼女の私服なのであろう。


「別に、焦る事もあるまい。そもそも、まだ5分前だ」


「け、けど。アーサーさんは既に待ち合わせ場所にお越しになっていましたから」


 フィオナをこの遊園施設『マジックランド』に呼びつけたのは他ではない。あの完璧チートイケメンむかつく主人公野郎——もといリオンの奴とこいつを結び付けて、運命(シナリオ)を本来の形に書き換えるつもりなのだ。


 それがこのフィオナにとってもこの俺にとっても幸せな事なはずだ。


「それで、どうして私をこんなところに呼び出したのです?」


「それはもう、わかっているだろ。夢の国『マジックランド』だぞ。そして10代の若い男女が来たのだ。何をしにきたのか、言わずともわかりそうなものだが」


「え? そ、それって。や、やっぱりデ、デートですか!?」


「違う! 遊びにだ! 遊びに! 三人で来たんだから」


 フィオナには遅れてやってくる三人目の事は教えていない。サプライズだ。俺のルームメイトが誰なのかくらい知っているかもしれないが、それでも実際にこの国の第二王子であるリオンがこの場に現れればそれなりにびっくりとする事であろう。


「そ、それはそうですよね……それでそのもう一人は?」


「ちっ……あいつ遅いな。完璧チートイケメン主人公の癖に時間も守れないのか」


「え? どういう事ですか?」


「な、何でもない。何でも」


 そのうち。俺が持っている魔道具が震え出した。最近、普及してきた連絡用の魔道具だ。現実世界で言う携帯電話のような道具だ。離れた相手との通話が可能なのだ。最初に一般家庭にこの電話機のような魔道具が普及し、それを持ち運べるようになった。


 携帯電話のように持ち運んで、離れた会話ができるようになったらしい。異世界の技術も進歩したものである。


「もしもし」


 俺はその『異世界携帯電話』に出る。通話の相手はそのリオンのようであった。そもそも、同じ寮で生活しているのだから一緒に出掛ければいいというのに、午前中リオンは用事があるからと先に外出したのであった。


『もしもし、アーサー君』


「うむ。そうだ。俺様だ。どうした? 何かあったのか? 遅れるのか?」


『いや、ちょっと用事が長引きそうで午後にそっちに行けなさそうなんだ。悪いけど、女の子と二人だけで楽しんでくれないかな」


「な、なにぃ!? そ、それでは意味がないだろうが!」


『本当、ごめん。この埋め合わせはいつか、ちゃんとするから。それじゃあ、よろしく』


 通話を切られた。リオンの声が聞こえなくなる。


 もしや、奴は気を回したのではないか。俺が気になっている女子を連れて行きたい、二人だと心細いので自分がサポート役に呼ばれたのだと。そして、自分が二人の仲を阻むお邪魔虫なのではないかと、そう理解し、体よく二人切りにしようと計らったのだ。

 

 そう考えても不思議ではない。奴は無駄に察しがいい。だが、今回はその察しが完全に俺の思惑から外れている。今回の目的はフィオナとリオンの二人に接点を持たせ、本来の運命(シナリオ)に軌道修正する事にあったと言うのに。これでは目論見はご破算であった。


「ど、どうかしましたか? 何かあったのですか?」


 フィオナが茫然としている俺に対して不安げに尋ねてくる。


「すまない。予定していた一人の都合が悪くなり、この場に来れなくなったそうだ」


「そ、そうですか……それじゃあ、どうしますか? このまま帰りますか?」


「いや、それではわざわざ時間を割いてこの場に来てくれた貴様に対して、あんまりな仕打ちであろう」

 

 俺は頭を悩ませる。


「こうなったら仕方がない。奴の思惑通りに事が運んだようで実に尺ではあるが、このまま貴様と二人でこの夢の国『マジックランド』を楽しもうではないか」


「いいのですか!?」


 一転、フィオナは目を輝かせる。


「き、気にするな。俺とて、せっかくこの場に来たのだ。どうせなら楽しみたい。このままただ黙って帰ったのではこの『マジックランド』に来たのがただの徒労になってしまうではないか」


 俺は内心まずいと思った。ただでさえ好感度が高くなっていそうなフィオナの俺に対する好感度がさらに高くなりそうで。だが、もはや今更、このまま帰る事などできそうにない。


 俺達は今日一日夢の国『マジックランド』で遊ぶ事にしたのだ。


 まず、俺達は入場料を払う事になる。


「え……えっと」


 フィオナは財布から金を取り出そうとする。この国は基本的に紙幣制が導入されている。紙幣には国王の顔が描かれていた。つまるところ、あのリオンの親父である。全く、実に偉そうな顔をしやがって。実際偉いのだろうが。気に食わん!


「気にするな。俺が払う」


「え? でも」


「平民のお前は金がないだろう? その反面、俺様は貴族だぞ。お前達とは比べ物にならない程裕福なのだ」


「で、でもいいんですか?」


「心配するな。何のためにお前達平民から貴族が税を搾り取ってると思っているんだ。なに、気にするな、少しばかり還元してやっているだけだ。元々はお前達から搾り取った金だからな、ぐあっはっはっはっはっはっはっは!」


 俺は悪役貴族っぽ哄笑する。


「アーサーさんはお優しいのですね。私の懐事情にまで気を遣ってくださって。ありがとうございます」


 フィオナはまるで天使のような優しい笑顔を浮かべた。くっ……流石光属性の正ヒロインだけの事はある。思わず心がクラっとなるような笑顔を向けてくる。


「て、照れくさくなるような事を言うな。では、行くぞ」


「はいっ!」


 俺達は出入口で入場料を支払い、夢の国である『マジックランド』に入っていったのである。


 本来のリオンを交えた三人ではなく、二人だけで。


 い、いかん。こ、これではまるでデートみたいだけではないか。というか、何も知らない外野から見ればただの仲睦まじいカップルにしか見えない事であろう。


 と、ともかくとして、こうして俺達二人の夢の国である『マジックランド』の一日は始まったのである。





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