表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

第9話 夢と現実の違い


「オリビア…言い方。」


「……ごめんなさい。」


オリビアを咎めるハデムを見て、やはり私を…と心が踊る。


「……アデル嬢。」


「…はい。」


「……はっきり言わせてもらうね。」


「……はい。どんな言葉も受け入れます。」


オリビアと別れて私と…そう言われるのを期待して待つアデル。……だが


「……アデル嬢の気持ちは有難いが、受け止める事は出来ない。僕はオリビアを愛してる。政略とか婿養子だからとかは関係なく、一人の女性としてオリビアを愛してるし、信頼してる。

貴方の境遇には同情するが…冷たい言い方になるけど…僕はアデル嬢の人生を背負う事は出来ないし、そのつもりもない。

オリビアの親友という気持ちしか持っていない。それは今後も変わらないと断言出来る。

僕を想ってくれてありがとう。でもその想いに応えるつもりはない。

そして、アデル嬢から私への異性としての好意が消える迄は、例えオリビアの親友だとしても距離を持ちたい。今後は、私からアデル嬢に声を掛ける事はしないでおくよ。」


「………………そんな…」


ショックでそれ以上の言葉が続かない。まさか拒否されるとは思わなかった。

……いや、本当は分かっていた筈。彼がそんな不誠実な事をする訳がないと。


でも、あの夢を見た後ではもしかしたら…と期待してしまった。


あれはやっぱり私の願望だったのね…


認めたくなかったが、認めざるを得ないこの現状に情けなくなる。


「……ハデム様。それからオリビア。本当にごめんなさい。私どうかしてたわ…。普段ならこんな事…。

やっぱり私…冷静になる為にも暫く一人でいたい。」


「……アデル…」


「…オリビア。本当にごめん。私、色々あり過ぎて頭がおかしくなったみたい。あんなに嫌ってたナルシスト令嬢に…まさか自分がなってるなんて…恥ずかしいわ。

ハデム様の言う様に、暫くはお互い近付かない方がいいと思うから…オリビア。貴方とも少し距離を置かせて。お願い…」


「……分かったわ。学院には来るんでしょ?」


「ううん。学院も暫く休むわ。耳障りな声や視線もうんざりだし、この状況で私達がよそよそしくしてたら、オリビアにまで変な噂が流れちゃうかも知れないでしょ。それに私もこれからの事とか、静かにゆっくり考えたいし。」


「……そう。分かったわ。貴方の気持ちを尊重する。

でも、大丈夫になったら連絡ちょうだい。直ぐに駆けつけるから。」


「……ありがとう。また連絡するね。」


「…うん。待ってるわ。」


私達はこうして暫く会うのをやめた。



その後、私は休学届けを出し領地に引きこもった。


それからは地獄の様な日々だった。

毎日毎日、後悔してはどうして私ばかりがという被害妄想からの嫉妬、そして自責の念に駆られ後悔するの繰り返し。出口の見えない負の感情がループし、徐々に精神が病んでいき、いつしか夢に縋った。


夢の中ならハデムが自分を選んでくれる…と。


そして再びあの声を聞く。


『……手を貸そうか?』

『……奪ってやろうか?』

『……自分だけのものにしたくはないか?』


そして私はその声に返事をしてしまった。



「……手を貸して。奪って、私だけのものにして。」



そしてその声は答えた。



『……承知した』



でも、承知したと確かにその声は答えたのに、何も起こらない。

やはり夢か…と自分の愚かさに自嘲する。


それからも心の回復は出来ず、夢に縋り逃げ続け、眠る時間が増えた事で体力も減り痩せ細り、以前の様な堂々とした姿は欠片も無くなった。


医者には精神的なものからくる心の病だと診断され、学院復帰の見込みもなくなり退学した。

当然次期当主としての役割は果たせず、両親は泣く泣く遠縁から養子を貰う事にした。


既に生きる希望を見出せなくなった私は、眠るか黙って窓の外を眺めるかしかやる事がなかった。


学院を退学して一年が経ち、オリビアとハデムが卒業を迎える年になった。


確かあの二人は卒業後結婚する予定だったな…とぼんやり思い出し、結婚式には呼ばれないだろう…もう忘れられてるか…等と何となく考えていた。


そしてその日もまた夢を見た。


いつも見るその夢は、アデルにとって心の平穏を保つ唯一の救いになっていた。

ここは現実ではなく夢の中だと頭では分かっているが、心が認めたくないと思っているのだろう。

自分に都合のいい、甘く居心地のいい…願望の世界だった。


ハデムが毎日自分に愛を囁き自分を求めてくれる…何とも甘美な夢だ。


気分良く目覚めたアデルは、久しぶりにオリビアに手紙を書こうと思った。

ハデムと結婚したであろう想定で。


祝いの言葉を贈ろうと…



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ