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第8話 嫉妬


夢の始まりはいつも一組の見知らぬ男女だ。

今回も見知らぬ男女がいる事で、夢だと確信する。


『……どうしてなの!!私の何がいけなかったの!!』


『……すまない。君は何も悪くない。僕が不誠実だっただけだ。本当にすまない……』


今回はいつもと少し様子が違う。

いつもなら振られる側の女性が割りと大人しめで、こんな風に声を上げる事はなかった。

男性側は王太子。でも今回は…そこまで高位ではなさそう?ただ、不貞は不貞だ。……続きを観よう。


『……どうして…どうしてアデルなのよっ!!』


『すまないっ!!初めはそんな気持ちはなかったんだ。君の親友だから親切にしてただけだったけど、段々彼女の境遇が不憫に思えて…同情…だったんだ。

それが……同情ではなく……愛…『聞きたくない!』…』


『……信じてたのに…貴方となら信頼し合える夫婦になれると……信じてたのに…ぅぅぅ』


『……すまない…』


『………………ふぅ…分かった。貴方とは婚約破棄させてもらう。必要な手続き等は改めて父から連絡してもらいます。それから……アデルとも今後は友人ではいられない。貴方達を……見たくない。今後は話しかけないでちょうだい……ハデム様。

今まで…ありがとう。お元気で……。』


『……オリビア…嬢。……すまない…。』


「…っ!!」


何で!!何で今回は相手の名前が、現実と同じなの!

そんなバカな…嘘…よね……これは…まさか…まさか私の願望……なの……?


容姿も声も何もかも違うのに、名前だけが現実と同じだなんて、悪い冗談であってほしい。

二人を羨ましいと思ったけど、ハデム様を奪うなんて事考えてないわ!


そう心で叫ぶと、何処かから声が聞こえる。


『……ホントに…?』


「誰っ!!」


『……ホントに奪いたいと思ってない?』


「誰なの!出てきなさいよ!!」


『……出来るなら奪いたい?』


「……っ!!何を…」


『……今、揺れたね?』


「……やめて」


『……力を貸そうか?』


「…やめて…言わないで…」


『……奪ってあげようか?』


「……やめてってばっ!!」


大声を出して拒絶したら、声は聞こえなくなった。

そして目が覚めた。


体はびっしょりと汗をかき、喉がカラカラだった。

全身が怠く、疲労困憊…といった風で、何か飲みたいと思いベルを鳴らそうと呼び鈴を手にするが、余計な心配をかけると思い留まり自分で厨房へ向かった。


階段を下り一階のサロンの前を通り過ぎようとしたら、中から話し声が聞こえる。こんな時間に誰だろうと、扉に耳を当てると両親の声だった。


はしたないと思いつつ、聞き耳を立ててしまう。


「はぁ…どうしたもんか…」


「あの子に落ち度は無くとも、状況的に厳しいわね…」


「一度目は運が悪かったと言えたが、二度目ともなると……私の見る目がないのか…」


「貴方は悪くなんかないわ…でも、こうも続いてしまうと…困ったわね…」


「「……はぁぁぁぁ…」」


どうやら私の婚約者の話だろう。それもそうか。二度も婚約破棄の上、相手が亡くなってるとなれば悪い噂も出るだろうし、怖がられるのも無理もない。

逆の立場なら、自分も死ぬんじゃないかと身構えてしまう。


自分のせいで伯爵家に迷惑を掛けていると思うと、胸が苦しくやるせない気持ちになる。男運が悪いで済まされる話じゃなくなってる。


そっと溜息をつきサロンを離れる。


厨房で水を飲み自室に戻る。その間もずっと頭の中は、何故?何がいけなかったのか、どこで間違えたのか等と、過去の婚約者との関係を思い返していた。


しかし、思い当たるとするなら、自分に可愛げがなかったとか、容姿が相手の好みじゃなかったとか、想像の域を超えない。


考えても埒が明かないと、再び眠ろうとベッドに入り上掛けを首まで上げると、不意に先程見た夢を思い出した。


『……同情ではなく…愛…』


オリビアの声に遮られたあの言葉に続く言葉は何だったんだろう…愛…情だったら嬉しいな…


「…っ!!私は…何を…あれは夢よ…現実のハデム様じゃないのよ…いえ、現実でも望んではいけない…ありえないわ…」


私は愚かな事を考えてしまったと自分を恥じた。

夢の中で見た愚かな人達にはならない…なりたくない…と自分に言い聞かせる。


言い聞かせている時点で、最早アデルは愚かな人達の仲間入りに片足を付けたも同然だという事に気が付かない。



それからアデルは、少しずつハデムと距離を取ったり、オリビアとハデムが一緒の時はそれとなく理由を付けて二人から離れた。


その不自然な行動はオリビアとハデムを悩ませ、却って距離を詰められる事になる。


オリビアはアデルのその不自然な行動に、何となく予感がしていた。だが、アデルに限って…まさか…と、疑念を振り払っていた。

しかし、アデルがハデムに向ける眼差しがこれまでと違うのは明らかで、オリビアもこれ以上は自分を誤魔化しきれないと腹を括った。



「アデル…ちょっといい?話があるんだけど…。」


「……え…えぇ…分かったわ。」


アデルはいつになく真剣で決意を持った目をするオリビアに、これまでか…と覚悟を決めた。


二人は中庭のベンチに座り、なかなか一言めが出なかった。そして暫く沈黙が続き、意を決した様にオリビアが言葉を発する。


「……アデル…貴方…ハデムの事が好きなの?」


「………………うん………ごめん…」


「やっぱり…最近様子がおかしかったのもそのせいなんでしょ?」


「……うん。この気持ちはいけないって分かってるから、なるべく距離を取って近付かなければそのうち気持ちも無くなるかな……と思って…」


「……それで?……気持ちは無くなったの?

離れる事で逆に強くなったんじゃないの?」


「……っ!!どうしてそれを……っ!!」


「見てれば分かるし、逆効果だと思うから。」


「……逆効果…?」


「…そう、逆効果。離れる事で、無意識に悲恋の自分に酔ってる…とでも言うのかしら?傍から見てると、そんな風に感じるのよね。」


「……そんな言い方しなくても…酷いわオリビア…」


「……ホラ。今の貴方、これまで貴方が嫌ってたナルシスト令嬢そのものだって気付いてる?」


「……え…ナルシスト令嬢…?」


「そうよ、ナルシスト令嬢よ!小説なんかによく出てくる、悲劇のヒロインぶるいけ好かない令嬢よ!

一体どうしたのよ、アデル!!何でこうなっちゃったの?以前の溌剌としたアデルはどこに行ったのよ!」


「オリビア…酷いわ…グス…」


「……アデル…貴方…」


ガサガサ……背後から人が出てくる。


「ごめん、我慢出来なくて…」


「ハデム…」


「ハデム様…」


ハデムの登場に驚いたアデルだが、同時に夢でのシーンを思い出し期待していた…彼は自分を選んでくれると。



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