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第7話 夢じゃない


「…それは本当…なのですか…」


「あぁ。本当だ。まさか死んでしまうとはな。」


「……最期まで自分勝手ですわね…」


「………そんな…」



エリックは私との婚約が破棄され、不誠実な行動を騎士団に咎められクビになり、実家の子爵家からも平民の女が良ければ好きにしろと絶縁され、その平民の彼女の元へ行くが騙されたと詰られ拒絶された。

絶望したエリックは自ら命を絶った…。


お父様から聞かされた話はこうだった。


信じられないという思いと、自業自得だという思いがごちゃ混ぜになり、混乱して頭が痛くなる。


体調不良で今日は学院も休み、自室のベッドで横になる。



「……そんな事って…嘘でしょう…」



アデルは夢の事を考えていた。


夢では平民の女が聖女になり、公爵が養子に迎え王太子と結婚し、その後王太子との子を産んだら聖女の力が使えなくなったと言って、偽聖女だと国中から非難される。産まれた子は王家の色を持たず、その血すら怪しまれ後に処刑される。王太子は責任を問われ廃太子となり、産まれた子と共に幽閉された…表向きは。

実際は毒杯を賜わり、赤ん坊と一緒にこの世を去った。


「……そんな…まさか…いいえ、違う…」


アデルはブツブツと何か呟き、上掛けを頭まで被せ身を縮ませ震えた。


「……私は聖女じゃないもの。私じゃない…私じゃない…私は夢のアデルとは関係ない…」


アデルは夢の中のアデルと現実の自分(アデル)との区別が曖昧になって、次第に精神を病んでいった。



学院をずっと休んでいたアデルを心配したオリビアがお見舞いに来た。


「……アデル…私よ…オリビアよ。」


アデルはオリビアの声にビクッと反応し、恐る恐る上掛けから顔を出した。


「……オリビア?」


「…っ!!アデル、私よ、オリビアよ!」


「……オリビア…」


「……心配したのよ…一体どうしたのよ。

エリックの事はなんて言うか…私も驚いたけど…アデルが気に病む必要なんてないじゃない。」


「…………そうね。でも…エリックの事というより…」


「…?何?ごめん、聞こえなかったからもう一度言って?」


「……ううん、何でもない。来てくれてありがとう。」


「……そう…あんまり長居してもいけないから、今日はこれで帰るけどまた来るわ。早く元気になってね。」


「……うん。ありがとう。」


「……それじゃあ、行くね。」


「うん。……またね…」


僅かな時間ではあるが、オリビアと久しぶりに会えて少しだけ気分が落ち着いた。

これ以上考えても仕方がないと自分を叱咤し、週が明けたら学院に行こうと思うアデルだった。




そして週が明け、久しぶりに学院に来た。

教室に着くまでは、様々な視線を受けて一瞬帰りたいと思ったが、オリビアがスっと傍に来てくれて笑顔で手を握ってくれた。


その笑顔にホッとして、二人で教室に入り授業を受けた。昼休みになり、私達は中庭の木陰でランチを摂った。



「…顔色が少しは良くなった…かしら。先週よりは…マシ…みたいね。まぁ、色々不躾な視線は感じるだろうから、あんまりいい気分ではないと思うけど…。」


「……そうね。正直、覚悟はしてたけど、やっぱり…いい気はしないわね…。」


「暇な人達だから、そのうち他の話題に移るわ。暫くの辛抱よ。」


「……そう…よね。大丈夫。私にはオリビアがいてくれるから。……いてくれるわよね?」


「当たり前じゃない!!いくらでも私が盾になってあげる!私はアデルの騎士なんだから。ね?」


「ふふ…ありがとう、オリビア。大好き…」


「やだ、告白されちゃった〜」


「誰に告白されたんだい?」


不意に背後から声がして、オリビアと二人振り向くとそこに居たのはオリビアの婚約者、ハデムだった。


「やだ、ハデム。びっくりするじゃない!!」


「あはは、ごめんごめん。愛しのオリビアが誰かに告白されたと聞いたら黙ってられないだろ?」


「もう、やめてよ…恥ずかしい…」


二人は政略での婚約だが、婚約を結んだ当初から意気投合し、オリビアが素の姿で接する事が出来る程信頼関係が築けている。

そんな二人がとても眩しく…羨ましかった。


「ハデム様、ご機嫌よう。病み上がりの私にはオリビアが必要なのです。ごめんなさいね。」


「病み上がりの時だけじゃなく、普段から僕はアデル嬢の次扱いなんだけどなぁ〜」


おどけて笑うハデムを見てからオリビアを見ると、二人共優しい目で互いを見つめ幸せそうだ。


「何だか今日は暑いわね…」


そんな言葉しか思い浮かばなかった。


それから三人で昼休みが終わるまで他愛のない話をして、チャイムが鳴ったので教室に戻る。


ハデムは経営学科で校舎が違う為、途中で別れた。


「……貴方達はいつも仲がいいわね。冗談抜きで妬けちゃうわ〜」


「もう、アデルったら!

……でも、ハデムには感謝してる。こんな私の為に色々尽くしてくれるから…。」


そう言って頬を染めるオリビアは、いつもの淑女ではなく年相応の恋する少女だった。


私達はまだ十七歳。社交界デビューしたと言っても、まだ一年しか経っていないし、大人から見れば小娘だ。常に淑女と次期当主の仮面を被り続ける毎日は酷く疲れるが、ほんの僅かな時間でもそれを癒してくれる存在があるかないかでは雲泥の差だ。


そんな癒される存在がいるオリビアが、心から羨ましいと思う。私にも信頼し癒される存在があれば…と、立て続けに婚約者が亡くなり悪夢まで見るアデルは、その気持ちは心からの叫びでもあった。





『いいね……もう少し……もう少しだ…』



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