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第5話 夢か現実か


目覚めの悪い朝を迎えたアデルは、憂鬱な気分で学院へ行く為の身支度を整える。


「お嬢様…顔色が優れない様ですが大丈夫ですか?」


「…大丈夫よ。ちょっと嫌な夢を見て気分が優れないだけ。学院でオリビアに会えば回復するわ。」


そう冗談を言うアデルをマリは心配そうに見る。


「……そうですか。マリではお力になれませんか?」


「あら?マリったら、オリビアにヤキモチかしら?

家にいる時はマリが私の元気の素よ。だからオリビアに妬きもちなんて焼かないで。」


「…お嬢様ったら…ふふ。分かりました。それでは、学院ではオリビア様にお任せする事にしますね。」


「ええ、そうしてちょうだい。ふふ…」


マリのお陰で憂鬱さが紛れ、オリビアに会うのを楽しみに学院へ向かった。



「……何それ、その男最低ね!!」


「でしょ〜?見てて腸煮えくり返って仕方なかったわ!」


「でも、結局その男は不幸になったんでしょ?自業自得よね!」


「そう!正に自業自得!!ざまぁみろって思ったわ。でも、亡くなったフローラは可哀想だった。」


「そうね…せめて次の恋でも出来たらまた違う結末だったでしょうに…」


「私もそう思う。」


「「……ふふ、夢だけどね!」」


アデルとオリビアは、ヒソヒソ声で昨夜のアデルの夢の話をしていた。

気の合う二人の感想は同じで、王太子と不貞相手のアデルは悪でフローラは可哀想な被害者だった。


「でもねぇ…名前が何でアデルなのよ!って思っちゃって。私、前世で何か悪い事でもしたのかしら?

それとも、夢じゃなくて私の前世だったりして…」


「バカねぇ…そんな訳ないじゃない!今の貴方のどこにその悪女の要素があるのよ。こないだあのルドガーの話した事で、不安な気持ちが変な形で夢に出てきたんじゃない?」


「……そうかなぁ。それなら良いんだけど…」


「そうに決まってるわ!そんな事に落ち込む位なら、貴方の新しい婚約者の事でも考える事ね!」


「もう…オリビアったら…」


「何よ、真っ赤になっちゃって!彼とは上手くいってるの?」


「……そうね。よくしてもらってる…と思う。」


「……ふふ。その顔見たら上手くいってるって一目瞭然ね。幸せそうで何よりだわ♪」


「オリビアったら、からかわないでよ!」


「ふふ…か〜わいい、アデル。」


こんなやり取りも、ほぼ表情を変えずヒソヒソ話でやってしまう二人は淑女の鑑であり、ある意味次期当主としての風格を既に備わっているとも言える。


アデルは最近、次の婚約者が決まったのだ。

その彼は、現在騎士団に所属している子爵家の三男であるエリックだ。

初めこそパトリックと名前が少し似ている事に躊躇いがあったが、容姿も性格もパトリックとは似ておらず、直ぐに別人だと思えた事もあり、それからは何度か会う様になり婚約に至った。


しかし、エリックは騎士団勤めで休みが不定期な為、なかなか会えない。

エリックが急な休みになる時に限ってアデルの予定が入っていたり、元々休みで会う約束をしている時に急な呼び出しがかかる事も何度かあった。


結婚後は騎士団を辞め伯爵家の補佐業務に専念する事になっているので、それまでの辛抱だとアデルは会いたい気持ちを抑えていた。


だから、あんな夢を見たのだろう…そう思う様にしていた。


だが、現実は酷かった…。



ある日エリックの誕生日が近いという事で、何かプレゼントをと思い護衛を連れて街に買い物出掛けていたアデル。

この日はエリックも勤務日の為、一緒に来る事は出来なかったが、好きな人の贈り物を考えるのは楽しくて、一人でも全く苦に思わなかった。


アデルが目当ての店に近付くと、店の手前の路地にエリックによく似た人を見つける。

あら?っと思い、目を凝らしてよく見るとエリック本人だった。が、格好が騎士団の制服ではなく私服なところを見ると、急遽休みになったのかもと思い声を掛けようと駆け寄る。

人混みを掻き分けもう少しでエリックに届くと思ったその時、アデルの伸ばした手はピタッと止まり力なく下ろされた。


それは間違いなくエリックだったが、その隣りに知らない女性がいた。しかも、二人は手を繋ぎ微笑みあっている。


「……誰?」


思わず呟いた声は、人混みに紛れエリックには届かなかった。

茫然としているアデルを残し、二人は身を寄せ合い仲良さげに遠のいて行く。


心の中で待ってと叫ぶが声にならない。何故、どうして、誰なの…いつかと同じ感情がアデルを襲う。


アデルから少し距離が空いた辺りで、二人は顔を寄せ何やら耳元で会話した後、エリックがその女性の頬に口付けた。


「……っ!!うそ…」


二人の会話を聞かずとも、目の前の光景、それが全てだった。


あんなに愛おしそうな目で見つめられた事はない…

あんなに顔を寄せ合う事をした事はない…

あんなに気安い雰囲気を見た事はない…


アデルの後ろでマリは顔を顰め、護衛達も気まずそうに横を向く。


意を決したマリが「お嬢様…帰りましょう?」と声を掛け、アデルは漸く我に返り屋敷に戻った。


マリに帰ろうと声を掛けられてからの記憶がない。

両親も心配していた様だが、自分が何と答えたか覚えていない。恐らくマリが説明してくれるだろうと思い、湯浴みをして早々にベッドに入った。


上掛けを頭まで被り、視界を真っ暗にしても眠気が起きない。何も考えず眠りたい…そう思っても、目を閉じればエリックと見知らぬ女性の後ろ姿が浮かんで、目を開けば涙が溢れる。


何で…どうして…またなの?


そんな言葉が頭の中を埋め尽くす。


アデルは泣き疲れ、いつの間にか眠っていた。

そしてまた夢を見た……


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