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第3話 予兆


「はぁぁ、何なんだ彼奴は…。

アデル、本当に彼奴とは知り合いじゃないのか?

彼奴はお前を知ってる風な言い方だったが…」


「お父様、本当に私は彼を知りません。

あの方が言うには、きちんと挨拶するのは今日が初めてだけど、会うのは初めてではないと言っていたのです。

私は顔を見た覚えもなければ、ルドガーという名前すら知りません。ですから、てっきりお父様と一緒にいる時に私を見かけて、向こうが一方的に知っているだけだと思ったのですが…。」


「う〜ん…私も彼には覚えがないんだよ。

それにベント男爵家も私は知らない。仮に最近叙爵した元平民だとしても…そんな話はここ最近聞いた事がないしなぁ。この国の者ではないかも知れないな…」


「そうですか…お父様が知らない家の人を私が知る筈もないですし、一体あの方は誰なんでしょう。

……少し気味が悪いですね…。」


「……そうだな。とりあえず、私の方でも調べてみるが、アデルは暫く外出も気を付けた方がいい。当分は不要な外出は控えなさい。」


「はい。そうします。」


「怖かっただろうに、よく頑張ったな。」


お父様に優しく頭を撫でてもらい少し安心したが、自室に戻り一人になるとルドガーの言葉とあの含み笑いを思い出し、不安が押し寄せた。


「……ホント気味が悪い…」




ルドガーの訪問から一月経ち、それまでは彼からの連絡もなく偶然会うという事もなかったので、忘れかけていた。


そんなある日、お父様に執務室に来る様呼ばれ向かう。


コンコン…


「お父様、アデルです。」


「あぁ、入りなさい。」


「お呼びだと伺いましたが…何かありました?」


「…例の…ベント男爵家のルドガーの件だ。」


「…っ!!何か分かったのですか?」


「……結論から言うと、何も分からなかった。」


「……え…」


「ベント男爵家は我が国には無い。当然、ルドガーという人物もいない。隣国の知り合いに聞いてみたが、あちらにもベント男爵家もなかった。ルドガーという名前だけでは探し出すのは難しい。」


「そんな……では、彼の目的は何だったのでしょう?」


「アデル、もう一度よく思い出してごらん?もしかしたら、直接知り合いではなくても友人知人との交友関係で接点が無かったか…知らないうちに恨まれていたという可能性も無いとは言い切れないだろうから、今後の安全の為にもよく思い出してごらん?」


「……友人…知人…直ぐには思い出せませんが、心当たりはない…です。でも、もう一度よく思い出してみます。」


「そうしておくれ。今になって思うと、あの時私の帰りがもっと遅くなっていたら、大変な事になっていたかも知れないな…。本当に早めに帰れて良かったよ。」


「……本当にそうですね。あの時は…お父様の顔を見たら、ホッとして泣きそうになってしまいました。」


二人で溜息を吐いて、まだ暫くは外出を控えようという事でその話は終いとなった。


自室に戻ると急に恐怖心が増し、体の震えが止まらなかった。


「あの時、お父様が帰って来なかったらと思うとゾッとするわ……」


その後も暫くは学院の行き帰り以外は外出せず、屋敷に篭っていた。


親友のオリビア…ビクセル伯爵家の長女で、私と同じ伯爵家の爵位を継ぐ立場。それもあり、お互い直ぐに仲良くなり、今では親友と呼べる数少ない友人だ。


そのオリビアが今日は我が家に来てくれる。


ルドガーの件をオリビアにも相談して、色々と調べてくれて心配もしている。

今日はなかなか外出出来ない私を思って、遊びに来てくれたのだ。




コンコン…


「お嬢様、オリビア様がいらっしゃいました。」


「お通しして。」


…バンッ!!


「アデルッ!!」


「オリビア!!」


二人は久しぶりの再会の如く抱き合い対面を喜んだ。

…学院でも毎日のようにお会いしているのでは?と言いたげな専属侍女のマリ。


しかし、二人は学院では次期当主として淑女の仮面を被って過ごしている為、こんな風に歳相応の姿を見せられるのは信頼してる人の前でだけなのだ。


「お嬢様、先ずはお座りになっては如何ですか?」


「あ!そうね、うっかりしてたわ。オリビアお茶でも飲みながら話しましょ!」


「そうね。こんな私達を学院の人が見たら驚くわね。ふふふ…」


「ホントよね。でも、オリビアが居てくれるから学院での堅苦しい所作も頑張れるわ。家でも外でもじゃ、寝る時以外休めないもの!」


「それは私も同じよ!アデルが居るから学院でも当主教育も頑張れる。」


二人はお互いを唯一無二の親友と認めており、時々こうして本音を言い合う場を設けていた。


「…ところで、例のルドガーだっけ?どうなの?あれから何か分かった?」


「それが気持ち悪い位に何も分からないの。彼が何処の誰で、何の目的があるのか…本当に気味悪い。」


「うちでも伝手を辿って色々調べてはみたけど、本当に何も情報が無いのよね…一体誰なのかしら…。」


「私が話を聞かなければ後悔するみたいな言い方だったけど、全く思い当たる節が無いのよね。だから無闇に了承する訳にもいかないし。せめて、何かヒントでもくれたら良いのに…。」


「確かに気味悪いわよね。……パトリックが関係してるって事はない?あんな後味悪い亡くなり方されて、只でさえ迷惑なのにルドガーにも関係してたら…。」


「私もパトリックの事は過ぎったけど…多分違うと思う。確信は無いけど…。」


「そう…彼奴の事だから他にも女がいて、逆恨みでアデルにイチャモン付けてるのかもって思ったんだけど…。」


「確かにその線が一番有り得そうだけど、お父様がしっかり調べてその線はなさそうだと判断したから…。」


「でも、いつまでも外出しない訳にはいかないでしょ?これからどうするの?」


「……護衛を付けつつ徐々に…しか今のところ方法がないわね。……はぁぁ、ホント嫌になるわ〜!」


「婚約者もそろそろ決めないと、碌なの残ってないなんて事になるものね。」


「そうね……いっそ話を聞いてみようかしら…。」


「えっ!!危険よ!!」


「でも、それしか先に進む方法がないじゃない?」


「そうかも知れないけど…」


「もし、私に何かあったらお父様の事…我が家の事お願いね。一人娘だから、私が居なくなったら養子を取るとは思うけど、お父様が早まったりしない様に気を付けてほしいの。」


「ちょっと、やめてよ!縁起でもない!!」


「もしもの話よ〜。大丈夫、私だってまだ死にたくないもの。」


「アデル…」


それから学院では出来ない雑談をして、楽しい時間はあっという間に終わった。


「じゃあまた明日ね。」


「ええ。また明日。」


夕刻に近付き、オリビアは帰って行った。


「お嬢様…」


「マリ、大丈夫よ。さっきも言ったように私は死ぬつもりはないわ。ちゃんと考えてから行動するから心配しないでちょうだい。」


「ですが……」


「さ、この話はもうお終い。湯浴みの準備をお願いね。」


「……畏まりました。」


マリはまだ何か言いたそうだったけど、諦めて湯浴みの準備に向かった。


その後いつもより長めの湯浴みをし、ベッドに入った。始めはルドガーの事を考えたらなかなか寝付けなかったが、いつの間にか眠っていたようだ。


そして私は夢を見た…


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