リュカスの心の内
「…リュカス?大丈夫ですか?」
アミリアはリュカスにそっと近づこうとする。
しかし、リュカスが大丈夫と慌てて言ったためその場に留まった。
リュカスは両手を顔に当てて、指の隙間からアミリアを覗き込む。
自分の方が背が高いのだから当然だが、リュカスを見るアミリアは上目遣いになっており、タオルが巻かれた胸元はふくらみにより隙間が…。
「むり!!あつい!!!」
リュカスはそう叫んで風呂場を走りだす。
残されたアミリアはぽかんとして首を傾げたが、自分も急いで浴槽を出て脱衣所へ向かった。
脱衣所には既に服を着たリュカスが立っていて、アミリアが声をかけるとビクッとしてからゆっくり振り向いた。
「いや、これはね、のぼせちゃって…」
なんと、リュカスの鼻からは血がぽたぽたと垂れているではないか。
アミリアはぎょっとしたあとに近くに積んであったタオルを一枚取ってリュカスの鼻に押しつけた。
「熱かったですか?大丈夫…?」
「だ、大丈夫大丈夫!」
それでもどこか落ち着かない様子のリュカスにアミリアは疑問が増すばかり。
「リュカス、なんだか変ですよ。」
「……だって。」
そこで、くぅと可愛らしいお腹の虫が鳴いて、二人でくすりと笑い合う。
「こ、これはっ…お腹が空いてしまって…」
「……ははっ、じゃあ食事にしよう。」
二人は脱衣所を出て無言で食堂へ向かう。
が、その表情は柔く優しげな空間が出来ていた。
何も言わずとも平気な程、二人の間には絆が確かに生まれている。
それを噛みしめるかのように、ぱっとお互いに目を合わせ微笑んだ。
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食事も終わり、窓の外は月が高く輝く真夜中になっていた。
アミリアはリュカスの寝室で、ベッドの端にちょこんと座り、なかなかベッドに近づこうとしないリュカスに不満気にしていた。
「リュカス、寝ないんですか?」
「寝る、寝るよ。」
先程から挙動のおかしなリュカスに、アミリアは首をかしげることしか出来ず、諦めてベッドに寝転んだ。
リュカスを見ると、まだ一緒に寝るのを躊躇う様子で部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。
「やっぱり、私と一緒に寝たくないですか…?」
アミリアは痺れを切らしてリュカスにこう言い放った。
こんなことを言うのは少し恥ずかしいし躊躇いもあったが、リュカスは慌ててベッドに入ったので結果オーライ、アミリアの思う壺だった。
「それじゃあ、おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
二人は枕に頭を預け、横向きで向き合って目を閉じた。
その内、アミリアはすうすうと気持ちよさそうに寝息を立て始める。
リュカスはというと…
(無理無理無理!!寝られない!!!可愛い!!!)
暗い部屋の中、顔を真っ赤にしてのたうち回りたい所をギリギリで耐えていた。
今まで女性を避けてきたし興味も無かったので、初めて好きになったアミリアが可愛くて仕方がないのだ。
そして、日々自分をかっこよく魅せる為に奮闘しているのだが…
「ッ………はぁ〜……」
この男、気取っているが実はウブである。
ウブなのだが、アミリアを猛烈に愛している。
アミリアが自分を好きになってくれなくても、側にいてくれればいいとさえ思っている。
いつしか、アミリアの幸せがリュカスの幸せになっていた。
「…子供みたいな寝顔。」
隣で安心しきっているアミリアの寝顔を見て、心に花が満開に咲いているかのような気分になった。
リュカスはアミリアを抱きしめて、その温もりを感じながら目を閉じる。
心臓はどくどくと早く鼓動を響かせていた。
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「ふぁ………おはようございます………」
「おはよう…ふふ、髪の毛がボサボサだね。」
先に起きて何処かへ行っていたのか、部屋の外からやってきたリュカス。
アミリアはリュカスに笑われながら髪の毛を指摘されて、バッと両手で頭を押さえた。
「リュカスだって、ボサボサですもん…!」
「ごめんごめん、怒らないでよ。俺が梳かしてあげる。」
リュカスは先程持ってきたであろうブラシを、じゃじゃんと言ってアミリアに見せる。
二人ベッドの上で、アミリアの髪の毛を梳かし梳かされ、朝の冷たい空気が頬を掠めるも、二人の心は暖かかった。
しかし、突然やってきた慌ただしいメイドによってその時間は終わりを告げる。
「リュカス坊ちゃん!!」
「チッ……何?」
リュカスはアミリアの頭を撫でてから、部屋の入口で息を切らすメイドの方へ向かう。
メイドは何かを耳打ちして、それを聞いたリュカスは頭を抱えてイラついた様子でメイドを帰した。
「リュカス……??」
リュカスはアミリアの方へずんずん進んでいく。
アミリアはリュカスの謎の気迫に押されながらも、何があったのかもう一度聞き返す。
だが、リュカスからの返事は無かった。
代わりに、リュカスはアミリアの両手を優しく自分の手で包みこんで、真剣な表情でこう言った。
「アミリア、俺のお嫁さんになってほしい。」