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咲いた薔薇の花

「きゃあっ!?」


「エトワール嬢!大丈夫ですか!?」


周りの令嬢達が騒ぎ始める。


そんな中、アミリアは放たれたような爽快感を覚えていて、倒れたエトワールを見下ろしながらぼーっとしていた。


騒ぎを聞いて貴族達が集まってきた中、リュカスが人混みをかき分けてアミリアに駆け寄る。


「アミリア!何があったんだい?」


「………リュカス…私…」


リュカスはアミリアを見るなり目を大きく見開いた。


アミリアの周りには薔薇の花弁と輝く粉が舞っていて、その瞳はキラキラと宝石よりも輝いて見えた。


そんなアミリアの姿に、リュカスは息を詰まらせた。


あまりにもアミリアが美しく、まるで本当に薔薇の花の妖精に思えるその姿に、目を奪われることしか出来なかったのだ。


「異能を一方的に使うなんて!処罰よ!処罰を…!」


「あの異能は…まさか、レヌエットの令嬢なのか…?」


「なんて美しい異能なんだ!」


人々がそうざわめいている中で、アミリアとリュカスはまるで二人だけの世界に入ったかのように見つめ合っていた。


しかし、それはエトワールが目を覚ましたことにより遮られてしまった。


「アナタ…異能を持っているなんて…!レヌエットの令嬢だったのね!?どうりで珍しい髪色だと…!」


エトワールまだ震えている手をぎゅっと握り、人さし指をアミリアに向けた。


その瞳には恐怖が見え隠れしていた。


そんなエトワールを無視して、アミリアはリュカスに話しかける。


その表情は、まるで褒められるのを待つ犬のようだった。


「リュカス、私異能が開花したみたいです。」


「おめでとう、あぁ…やっぱり君は最高だよ!」


そう言ったリュカスはアミリアの頭を優しく撫でてやる。


アミリアは気持ちよさそうに目を細めながら、頬をぽっと染めていた。


すると、一人の貴族がニヤニヤしながら話しかけてくる。


「あの…その異能をもつ女を譲って…いや、貸してもらうことは出来ませんか?」


自分の利益しか考えていない馬鹿な人間だ、リュカスは恐ろしい程に恍惚とした笑顔で貴族に向き直る。


すると、貴族の持っていたシャンパンのグラスがゆらゆらと揺れる黒炎に包まれた。


貴族の手から落ちたグラスが、ガシャンと大きな音を立てて落ちる。


「今俺は気分がいいからさ、邪魔されたくないんだよね。しかも、貸す?譲る?ふざけてるのかな?」


「ひっ…!」


貴族にずいっと近寄ると、顔を近づけてそう警告するリュカス。


その手には黒炎が轟々と燃え盛っていた。


今にもこの場を黒炎で燃やし尽くす勢いだったので、アミリアはリュカスに近づいて止めに入る。


辺りの人間は口をあんぐり開けて驚き戸惑った。


アミリアはリュカスをぎゅっときつく抱きしめて止めたつもりでいる。


しかし、周りの人間はその行動がリュカスの逆鱗に触れるのではないかと、絶望したり逃げ出そうとしたり様々だ。


しかし、リュカスは皆が予想した反応をしなかった。


「……なに、可愛いことしちゃって。」


「燃やしたらダメです、消してください。」


「えー」


「ダメです。」


「…はぁー、しょうがないなぁ。」


リュカスは満更でもない、ゆるゆると緩まった表情でふっ、と息を吹いて、手の上で燃える黒炎を消した。


「さて、今日はもう帰ろうか。」


「わかりました。」


アミリアはリュカスから離れようとしたが、腰を引かれてリュカスにまた密着する。


「リュカス、あの…」

「ん?」


これではまるで、恋人みたいではないか。


アミリアは美しい顔を髪色と同じ薔薇色に染めてリュカスと共に歩き出す。


体が芯から燃えているようで、まるでリュカスに染められたようで。


アミリアは、この燃えるような感情に疑問を持ちつつ、リュカスに腰を抱かれエスコートされて馬車へと戻った。


_____



「で、君の異能の話なんだけど…いつから開花してたの?隠してたとか?」


「開花したと思われるのは先程です。私もびっくりしました。」


馬車を走らせて数分、リュカスはアミリアに異能について優しく問いただしていた。


アミリアは淡々と質問に答えていくのに対して、リュカスはどこか愉快そうだった。


「侯爵家の…なんだっけ。」


「エトワール嬢です。」


「そうそう!泡吹いて倒れてたけど、君の仕業だよね?どうやったの?」


アミリアは先程の感覚を思い出してみる。


体が熱くて、でも心地よい。


鼻を擽るように薔薇の香りが掠めて、光を反射する粉が舞っていて。


記憶を頼りに色々考えてみるも、明確な答えは出てこなかった。


「わかんないか、仕方ないね。」


そこで、リュカスは真剣な表情に変わりアミリアに語りかける。


「俺はね、開花した時にたくさん戦いに繰り出されたり命を狙われたりしたんだ。きっと、アミリアも標的になってしまう。」


「…何が言いたいのですか?」


「…アミリアは強くならないといけない、他の誰にも負けないように。俺の手が届かない場所で襲われたりしたら大変だろう?その力で自分を守るんだ。」


でも、強くなるにはどうしたらいいの?


アミリアは疑問が増えるばかりで頭をぐるぐる混乱させた。


そんなアミリアを見たリュカスは苦笑してから、とある提案をアミリアに持ちかける。


「マディアは最近まで内乱が起きていて大変だったんだけど、抵抗軍がまだ残っているらしいんだよね。皇帝が俺に殲滅してこいって。アミリアも行かない?」


アミリアはさらに混乱した。


内乱?抵抗軍?絵本では見たことがない、血に塗れたその言葉に思わず耳を塞ぎたくなった。


閉じ込められていたアミリアは知らないが、マディアは戦争が強いことで有名なのである。


マディアには、異能を持つ家系が二つ存在するからだろう。


「勿論、異能を扱いが上手くなるまで練習も付き合うよ。どう?」


人を傷つけるのは気が進まないが、リュカスの言う通りに強くならなくては生き残れない。


でも、それでも他人を傷つけて強くなる事は本当に良いことなのか?


アミリアが葛藤しているのをリュカスは楽しそうに見つめるだけで、口出しはしなかった。


そして遂に心が決まったのか、アミリアが口を開く。


「れ、練習だけはしておきたいです…その後に抵抗軍のことは決めたい…。」


「わかった。アミリアは優しいね、俺とは全然違うや。」


リュカスは目を伏せてそう言った。


その表情はよく見えなかったが、アミリアは何処か寂しそうに見えたのだった。

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