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社交パーティーと薔薇の花の決意

アミリアとリュカスは、大きく豪華な装飾の付いた馬車に乗り込みパーティー会場へと向かう。

アミリアは初めてのパーティーに胸を躍らせる一方で、パーティーに参加する貴族に恐怖を覚えていた。

そんな不安定な様子を見せるアミリアは、暗くなってきている窓の外を見ながら心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。

「緊張してる?」

リュカスがそう問うも、アミリアは考えを巡らせることに意識を全て向けているのか反応を見せなかった。

リュカスはそんなアミリアをじっと見つめる。

アミリアは顔が整っている。

それは、異能力が強い歴代のレヌエット家当主が綺麗な女性を娶ってきたからだろう。

化粧を施された彼女の横顔は彫刻のように美しく完成されたものであった。

リュカスは頬を染めながらアミリアの手を取る。

手を取られたことでようやくリュカスの方を向いたアミリアは、小首を傾げて不思議そうにしていた。

「ガラス細工は繊細で美しいよね。だけど、脆くすぐに壊れてしまう。アミリア、君はガラス細工に似ていると思うんだ。」

アミリアはさらに首を傾げて眉間に皺を寄せる。

まるで意味が分からない、と言っているようだった。

だが、リュカスは話を続ける。

「悩み事があったら、壊れる前に相談してくれよ。」

リュカスは気を使ってくれていると理解したアミリアは、ぽつりぽつりと考えていたことを話し始める。

「私…異能が使えないから…貴方の側にいても迷惑をかけてしまいます…」

「俺が好きで側に置いてるんだ。心配する必要はないよ。」

「でも、私がお側にいては皆が何を言うかわかりません…」

「そんな無礼な奴、俺がやっつけてあげる。」

自分の悩んでいた事を、全て否定するように答えを返すリュカスに、アミリアはだんだんと張り詰めていた心が解けていく感覚を覚えた。

「ありがとうございます、リュカス。」

「うんうん、笑ってる方が可愛い…あ、着いたみたいだよ。」

馬車が止まり、御者が扉を開けてくれて、リュカスのエスコートの元馬車を降りる。

リュカスの屋敷より小さな赤い屋根の屋敷が目の前にそびえ立っていた。

リュカスはアミリアの手を取って屋敷に向かいゆっくりとアミリアに歩幅を合わせて進んでいく。

屋敷の前にはスーツを着た人が立っていて、アミリアを見ると駆け寄ってきた。

恐らく今日来る人をチェックする受付をしているのだろう。

「大公様、そちらの方は…?」

「あぁ、俺のペットさ。自己紹介して?」

「…ペットのアミリアと申します、ごきげんよう。」

ペットと自己紹介したアミリアを怪奇の目で見る受付の男。

アミリアを参加させないようにすることも出来たが、リュカスの目が笑っていない笑顔を見て自主的にやめることにした。

「どうぞ、お通り下さい…。」

「はは、感謝するよ。」

扉が開かれて、会場であるホールに通される。

きらびやかに光っていて、宝石の付いた豪華なシャンデリア。

食欲をそそる匂いを放っている美しい盛り付けをされた料理達。

談笑したり食事をしたりする、着飾った賑やかな人々。

アミリアは初めての光景に目を少し見開いて興味深そうに全体を見渡す。

周りの人々はリュカスとアミリアに気づくと、こそこそと話す者もいれば目を蕩けさせてリュカスを見つめる者もいて反応は様々だった。

耳を澄ますと、色々な声が聞こえる。

『悪魔大公が来たぞ。』

『隣の女は誰だ?』

『きゃあ、かっこいいですわ…!』

聞いていて気分が良いものは少なく、アミリアは少し眉をひそめた。

そこで、リュカスがアミリアの顔を覗き込み優しく微笑んでこう言った。

「飲み物を取ってくるね。待っていられる?」

「はい。」

「いい子だ。」

アミリアがはっきりと返事をすると、リュカスは頷いてから飲み物を取りにアミリアの側から離れる。

アミリアは料理を見に行こうと思い歩き始めようとするも、前に立ち塞がる数人の令嬢によって行く手は阻まれた。

そして、その中で一番目立つ笑みを浮かべた令嬢に声をかけられる。

「アナタ、大公様と一緒にいらしたようだけど。」

「はい。」

アミリアは表情を変えずに返事をする。

その淡々とした態度が気に食わなかったのか、令嬢は口元を引き攣らせている。

「何者なのよ、名乗りなさいよ。」

「はい、ペットのアミリアと申します。」

アミリアの周りを囲む令嬢は動揺し、アミリアの周辺はざわつく。

そして、笑みを浮かべていた令嬢は笑顔を崩し怒りを顕にする。

「アナタねぇ、冗談はよしなさい。あの大公様がペットなんて飼うわけないでしょう?しかも、こんな目立たない体つきの女性だなんて。」

アミリアは自分の体を見下ろす。

確かに大きな胸はついていないし、健康的かと言われれば少し痩せすぎている。

なので、その通りだと思ったアミリアは素直に

「確かに私は貧相ですが、ペットです。」

と、答えた。

それが挑発に聞こえたのか、次の瞬間にアミリアの頬にはじんじんとした痛みが広がっていた。

「アナタ、生意気なのよ!私が誰だかおわかりになって?侯爵家のエトワールよ!ペット…奴隷ごときが……!!」

アミリアは姉を思い出す。

大切な絵本を破かれ、奪われた記憶。

何も間違ってなどいないのに、一方的に暴言を吐かれ頬を叩かれたこと。

目の前の令嬢に姉の姿が重なり、ふつふつと怒りが湧いてくる。

今までの私ならやり返さなかった。

でも、私は私を傷つける人を許したくない。

もう、部屋に籠もって泣くだけの私じゃない。

そう心の中で唱えると、何故だか身体が熱くなってきて、気がつくと目の前の令嬢はピクピクと痙攣しながら泡を吹いて倒れていた。



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