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悪魔大公の屋敷にて

馬車が止まると扉が開く。


リュカスが先に降りて手を差し伸べたので、アミリアはなるべく体重が乗らないようにそっと手を重ねて降りた。


大きな屋敷、広く噴水のある庭、ガラスの大きな温室。


レヌエット家も権力のある貴族だったが、これ程までに豪華ではなかった。


恐らく、マディアの戦争での強さや他国との交易が上手くいって栄えているのだろう。


アミリアはリュカスに付いてくるように言われて、キョロキョロ辺りを見渡しながらゆっくりと付いていく。


屋敷まで着くと大きな扉が目の前に立ちはだかった。


「お、重そう…ですね…」


「え?重くないよ。」


リュカスは大きな扉をスッと開けてしまったので、アミリアも反対側の扉を開けようとしたがやはり重かった。


「あー…閉じ込められてたから体力がないのかな。」


リュカスは疲れただろう?と言って、アミリアをひょいと軽々持ち上げた。


アミリアは当然抵抗するも、リュカスの有無を言わさせないような笑顔で静かになった。


「その、ありがとうございます…。」


「うんうん、素直でよろしい。」


素直にさせているのはリュカスの方なんだけど…と、アミリアは気づかれないように瞼を少し下げて、呆れたような表情を見せた。


「さ、ようこそ。ここが今日からアミリアの家だよ。」


アミリア、と初めて名前を呼ばれて胸がなんだかむず痒くなる。


そんなアミリアを見たリュカスは愛おしそうに顔を緩ませた後、アミリアの手を引いてとある一室へ連れて行く。


「ここは…?」


「ん?お風呂。メイドを呼ぶから待っていて。」


アミリアは命令されてピタッと止まる。


その場で端切れのような服をぎゅっと掴んで大人しく待つことにした。


風呂場からは柑橘のいい匂いがして、アミリアは顔を綻ばせた。


暫くするとメイド数人がやってきて、アミリアの端切れのような服を脱がせ浴場に押し込まれる。


アミリアは困惑することしか出来ずに、ただされるがままになっていた。


「あの…私、自分で出来ます…」


「いえ、坊ちゃんの命令なので。」


「う……」


リュカスの命令なら仕方がないと、アミリアは大人しく髪を洗われる。


土煙や灰をかぶっていた髪は、泡で優しく洗われて綺麗な薔薇色になった。


それを見た一人のメイドが黄色い声をあげる。


「綺麗な髪の毛ですね!自分以外の女性の方を洗うなんて事はあまり無いので楽しいです!」


「こら!私語は慎みなさい!」


アミリアの髪の毛を褒めたメイドは、他のメイドに叱られしゅんとした表情で髪の毛にオイルを塗る。


そんなメイドの様子を見たアミリアは自分から話しかければ私語にはならないと考え、メイドに何か話題を振ろうとする。


「あの、あの!えっと、シャンプーいい匂い…ですね…!」


「そ、そうですか!気に入りましたか?坊ちゃんと同じシャンプーなんですよ!」


「おんなじ…」


「それにしても、本当に綺麗な髪…羨ましいです!」


メイドが楽しそうに話すのを、表情が硬いアミリアは出来る限りの笑顔で聞いていた。


話がつまらない訳でも、楽しくない訳でもなく、ただ今まで笑う機会がなかったので表情筋が固まってしまっただけである。


そんなアミリアの様子を見た先程おしゃべりなメイドを叱っていたメイドは、アミリアのぎこちない笑顔を見て止めようと思ったが、その瞳は楽しそうにキラキラしていたので止めることをしなかった。


______


アミリアは体を拭かれてネグリジェを着て、少しのぼせてぼーっとした頭で脱衣所を出た。


外で待っていたのか、リュカスが脱衣所の近くの部屋から出てきてアミリアに駆け寄った。


「うん、綺麗になったね。それじゃあ食事にしようか。」


アミリアは残飯でも貰えればそれでよかった。


レヌエット家では、運ばれては来るものの量は少なくまともな食事をしていなかったからだ。


しかし、食堂に着くとリュカスに席に座るように促され、目の前には美味しそうな料理がたくさん並んでいた。


「私の食事は残飯ではないのですか…?」


「そんな訳ないじゃないか。君はペットに…ピュティに残飯を食べさせるの?」


確かに、と納得するアミリア。


大切なピュティには美味しいものを食べてもらいたいから、いつも運ばれた食事の美味しそうな部分を分け与えていた。


「さ、食べなよ。」


「いただきます…」


薄い黄色のスープを一口音を立てないように啜ると、アミリアの顔は無表情のままだが、どこかぱぁっと輝いて見えた。


「美味しいかい?」


アミリアがこくこくと頷くと、リュカスはアミリアの隣の席に座る。


そして、いい焼き色のお肉をフォークで刺してアミリアに差し出した。


「君は内臓が弱そうだから、少量ずつ慣れていこうね。はい、あーん。」


「あー…ん…!」


アミリアは目を細めてもぐもぐとお肉を咀嚼する。


食べたことのない美味しさ!塩の味とお肉の凝縮された旨味が口の中に広がって、何という幸せなんだろう。


「ど、どうしたの?美味しくなかった?」


「………?」


気がつくと、アミリアの頬には一筋の涙が伝っていた。


リュカスはアミリアの涙を親指で拭ってやり、今度はデザートのケーキを一口分掬ってアミリアに差し出す。


「ほら、泣かないで。甘いものは好きかな?」


アミリアはケーキをぱくりと食べる。


ケーキの甘さに涙がどんどん溢れてくる。


食事とは、こんなに美味しくて幸せなものだったんだ。


「美味しい……」


「そっか、美味しくて泣いてたんだ。これから美味しいものいっぱい食べようね。」


アミリアはこくんと頷いて、ケーキが食べたいとリュカスに言うと、リュカスは喜んだ様子でケーキをどんどん差し出した。


食事が終わって暫く経ち、アミリアは眠気からふわぁ…と欠伸を一つした。


リュカスに連れてこられた部屋は大きくて、一人だと少し寂しい気持ちもあるが今日一日色々なことがありすぎて、アミリアは一番に睡眠を欲していた。


ベッドにそっと寝転がると、寝心地の良さにすぐ目を閉じてしまう。


これからペットとしてちゃんとやっていけるのか。最後にそう考えながら夢の中に旅立った。


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