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悪魔のささやき

ペットにならないか、と言われたアミリアはぽかんとしてしまう。


それもそうだろう、会場を黒炎で燃やした男が急にそう言ってきたのだから無理もない。


だが、この男のペットになる利点が一つある。


それは、燃えている会場の裏にいる檻の中の人達を助けられるかもしれないということだった。


アミリアは檻の中で売られるのを待つ恐ろしさを知って、あの人達も同じなんだと感じた。


だから、助けたかった。自由になってほしかったのだ。


「…なります、ペット。」


「本当かい?命拾いしたね。なるって言わなかったら殺すところだったよ。」


ぞくり、と背中が震える。


この男は本当の事を言っているように思える。


つまり、燃やされて殺されていたかもしれない。


そう思うとアミリアはこの男が何処か狂気的な部分を感じ取った。


だが、自分と複数人の命なら、と腹を括った。


「あの、裏の檻に閉じ込められた人達を助けてほしいんです。」


「どうしてだい?」


「……自由になってほしい。」


「………わかった、助けよう。」


男は杭と繋がった鎖を炎で溶かしてアミリアを動ける状態にした後、アミリアに案内をさせ檻のある部屋へと辿り着いた。


不思議と、鎖や檻の扉を溶かす時の黒炎は熱くなかった。


オークションに出される予定だった人々は無事逃げ出すことが出来た。


「ありがとうございます……ご主人様?」


「リュカスでいいよ。」


「リュカス様」


「様もいらない。」


ペットは奴隷と同じようなもので、主人を様付けしなければいけないと思っていたアミリアは少し目を見開いて驚く様子を見せた。


そんなアミリアにくすっと笑う様子を見せたリュカスと名乗った男。


アミリアはリュカスの顔をよく見てみる。


先程までしっかり顔を見ていなかったのだが、主人なら覚えておいた方がいいと考えてじっとリュカスを見つめる。


さらさらとした白髪にザクロのような赤い目が映える。


少し釣り上がった目は絵本で見たキツネのよう。


アミリアは純粋に綺麗だと感じた。


すると、リュカスが頬を染めながらこてんと首を傾けてアミリアを見つめ返す。


「なぁに?俺に見惚れちゃった?」


「いえ、そうでは…」


「違うの?」


一瞬だけ、ほんの一瞬だけ視線が鋭くなった気がしたアミリアは、見惚れていたと咄嗟に言った。


するとリュカスは笑顔を見せてアミリアの頭を撫でた。


「うんうん、そっか。見惚れちゃってたんだ?可愛い。」


可愛いと言われたアミリアは耳を疑ったが、リュカスを見ると蕩けるような視線でこちらを見ていたので、本心だったのか、とアミリアは頬をぽっと染めた。


「さて、そろそろ行こうか。」


「ど、どこに?」


「んー?俺の生まれた国。」


「こ、ここではないのですか?」


レヌエット家があるこの国はサリュティス。


しかし、リュカスはサリュティス出身ではないようだった。


なら、何故このオークションの存在を知っていたのだろう。


そして、何故私を買うと言ったのだろう。


会場を崩壊させるタイミングと私が出されるタイミングが一緒だったのか?


アミリアは色々な考えが頭に過る。


が、リュカスに下手に聞いて殺されたくはなかったので、頭をぶんぶん振って考えないようにすることにした。


________


アミリアは現在、リュカスの馬車に乗せられてどこか知らない場所へと出発をしていた。


オークション前に乗った馬車より乗り心地が良いのは、心の重荷が少し軽くなったからだろうか。


アミリアはリュカスをちらりと見る。


「…ん?」


リュカスはこちらの視線に気づくと、首をこてんと傾げてアミリアを見つめ返す。


少し照れくさかったが、アミリアにはそれよりも気になることがあった。


「……リュカス、貴方は何者なんですか?」


「ん、あぁ。言ってなかったね。」


リュカスは座り直すと、腕を組んでニヤリと笑いキメ顔をした。


「サリュティスの隣国、マディアの悪魔大公さ。」


「…悪魔、大公?」


アミリアは訳が分からなくなった。


この男は悪魔で、だからあんなに強い異能力を持っていたのか、と。


そして、大公という偉い立場にいるのに何故サリュティスのオークションに来たのかも、謎が深まるばかり。


「悪魔なんですか…?」


アミリアは絵本が好きだ。


空想の生き物も絵本でたくさん見てきたのだから、当然悪魔も見ただろう。


そんな絵本では悪役として出てくることが多かった悪魔が目の前にいる。


そう考えるとアミリアの目には涙が溜まっていた。


「ははッ!俺は悪魔じゃないよ。そう呼ばれてるだけさ。」


「そ、そうですか…。」


悪魔じゃなくてよかったと、アミリアは心底ほっとした。


「君、ユニコーンとか好き?」


「な、何故それを…?」


「だって、絵本好きでしょ?」


何故絵本が好きなことがバレていたのか。


幽閉されていた部屋にいたのは、アミリアとピュティしかいない。


そこで、ピュティの事を知っているのでは?と考えたアミリアはリュカスにピュティのことを聞いてみる。


「リュカス、ピュティ……白くて桃色の宝石が付いたドラゴンを知ってますか?」


「ん?あぁ、俺の使い魔の事かな?君が好きそうな見た目にしたんだけど…」


アミリアは、またピュティに会えるかもしれないと、顔にはあまり出さなかったが喜ぶ様子だった。


「俺が小さい頃、レヌエット家に遊びに行ったんだけど…使い魔と視覚を共有しながら探索遊びしてたんだ。」


「………?」


「つまり、それで君を見つけたってわけ。最初はびっくりしたよ。家族全員で俺を迎えないなんて失礼だったから殺そうかと思った。」


アミリアは、ずっとずっと、リュカスに監視されていたということを知り、驚きから口が開いたまま閉じなかった。


だが、リュカスが自分を買った意味が分からなかった。


「何故、私を買ったのですか?」


「あー、それはね。君が好きだから。」


「………はい?」


好きだから、といきなり言われたアミリアは理解があまり追いつかずに間抜けた顔をしてリュカスを凝視する。


「そんなに見つめないでよ、照れちゃうじゃないか。」


頬を赤らめてそう言われ、アミリアはハッとしてそっぽを向いた。


だんだん頭が整理されてきて、アミリアも耳まで真っ赤に染めていた。


つまり、唯一の友達であるピュティはほぼリュカスだったというわけである。


「最初は玩具を見つけたと思ったんだけどね、視覚共有して君を見てたら可愛いなって、側にいたいって思ったんだ。」


「そんな……ことって…」


あるんだなぁ、それが。


なんてリュカスがうっとりとした表情でアミリアの濁った瞳を見つめる。


「君が異能力を使えなくても、俺の側にいたら迫害されない。今日からペットとしてよろしくね。」


そう言ってリュカスから手を差し出されたアミリアは、リュカスの態度に振り回されながらも付いていくしか無いので手をそっと重ねた。


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