許嫁?との攻防
キスをした、と主張する許嫁に対して、アミリアは突然リュカスの方を向いて両頬を自分の手で挟む。
「むぐ……」
「いいでしょう、貴女がキスしたというなら私たちもここでキスをすればいいでしょう。」
その場にいたリュカスや許嫁、メイドや執事までの全員、アミリア以外の人間が固まった。
「な、ちょっとアミリア」
「何でしょう?ほら、目を閉じて下さい。」
「いやいや、流石にここでキスするの!?」
「だって、私たちが愛し合っていると証明できるではありませんか。」
リュカスは顔を真っ赤にして腕を右往左往させる。
メイド達は黄色い声を上げ、執事は頭を抱える。
しかし、許嫁はわなわなと震えながらブツブツと何かを呟いている。
すると、アミリアに向かってこう叫び始めた。
「あの女は魔女よ!きっとリュカスを誑かしているの!私は魔女なんかに負けないんだから!」
許嫁はアミリア達に向かって突進し、アミリアの腕をガシッと掴みリュカスから離そうとした。
しかし、アミリアはここで許嫁に対する嫌悪がマックスになったのか、ついに異能を出してしまった。
「きゃあ!?ば、薔薇のいい匂い!?」
「この通り、私は魔女ではありませんが異能力を扱えます。つまり、貴女は私に勝てない。」
「は……あははッ!!」
リュカスが吹き出して、けらけらと笑いながらアミリアの肩を抱き寄せた。
「この通り、俺たちはめちゃめちゃ強いから。君みたいなひ弱なお嬢さんじゃ勝てないよ。」
「何で……何でよッ!!何でその女なの!!私はリュカスとバージンロードを歩くの!!」
「はぁ。」
「それなのに…酷いよぉ…!」
ついにアミリアの悪女ムーブ(?)に耐えきれず泣き始める許嫁。
しかし、言われたことはきっちり守るのでアミリアはこんなことでは止まらない。
「そもそも、本当にキスまでしたんですか?許嫁なら相手と相思相愛で、貴女くらいの年齢だったら一緒に暮らしたりしているのでは?」
「だって、リュカスは戦ってばかりで中々会えないし、それなら居る時に会ったほうが…!」
「貴女は、会うことだけを考えているのですか?それは自分が満たされるだけでは?リュカスがどんな思いで戦場に出ているかも考えずに?」
「う……私だって、心配してるもの!」
「心配?それは戦場の相手にですか?」
「……え?」
「だって、リュカスは好んで戦闘しているから…あ、知りませんでした?」
「うっ……」
アミリアはおとぎ話に出てくる魔女や悪役をイメージしながら、許嫁をリュカスから遠ざけるためにただひたすらに思いついた言葉を並べていた。
リュカスはそんなアミリアを見て、アミリアが無愛想なのはこういう時に使えるんだな、と一人納得していた。
「……大体アナタは誰なのよ!異能が使えるのに今まで出てこなかった!本当にリュカスを誑かして…!」
「もうそれでいいです、リュカスは私のことが大好きですから、貴女が何と言おうと関係ありません。」
アミリアはそう言って、自分の肩を抱いているリュカスの顔に向かって背伸びをした。
ちゅっ、と可愛らしいリップ音がして、リュカスの唇にはアミリアの口紅が薄く付着している。
アミリア以外の全員は、またもや固まってしまった。
「な………な……!!!」
許嫁は許せないという表情を浮かべながら、拳をきつく握って震えている。
リュカスはロボットのように母音を途切れ途切れに発しながらアミリアを凝視する。
「……アミリア、え、キス、え?」
「はい、キスしました。」
リュカスはキスされたと理解した瞬間、薔薇よりも赤いのではと思ってしまうくらい、耳や首まで真っ赤に染めて口元に指を添える。
甘かった。
許嫁が言っていることは真偽が分からないが、リュカスにとって好きな女性からの初めてのキス。
酸っぱさは全く無く、形容し難い甘さがリュカスの全身を駆け巡った。
「ちょっと…!抜け駆けはよくないわよ!」
「…………ふっ。」
勝った、という笑みを浮かべて許嫁を流し目で見るアミリアは馬車に乗って立ち去るように許嫁に言い放った。
が、許嫁は帰ろうとせず、ついにはここに残ってリュカスを取り戻すなどと言っている。
「いやよ!帰らないわ!リュカス、ね、私と一緒がいいでしょ?」
「あー、ごめんけど君に興味無いから。」
「そんな……ま、魔女だって言いふらしてやるんだからーッ!!」
許嫁は長時間、それも足が痛くなるくらい粘ったが、ついには泣きながら悲劇のヒロインのように去っていった。
「ふぅ………リュカス、これで大丈夫ですよね。」
「うん、まぁ…。」
「では、私は温室に行きますね。」
「い、いってらっしゃい。」
ぎこちないリュカスに対して、アミリアは凛としていて動揺一つ見せていなかった。
しかし、薔薇色の髪の毛に隠れていた可愛らしい耳は真っ赤に染まっていた。




