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【完結済】懸想の影  作者: 梦月みい


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第十六章「ごっこ遊び」※一部性的な表現あり

ぱら、とページを捲る音。忘備録として雑にペンを走らせた一冊の手記は、俗にいう日記帳なのだろうか。ただ、日記帳と呼ぶには少し自分語りが過ぎるような…そう思ってはみたが日記なんて、そも人に見せることは想定していない、自分語りの塊の産物であろう。

几帳面で、真面目で、自分勝手で、思い込みの激しいこのニンゲンだったものの手記は読み物としての娯楽性は自分にとって非常に高く、存外楽しめた。なので自分は全然コイツのことは知らないが、自分の存在の種として見つけ出したら引っ張り出してそうして、必死に愛を乞いながら、慈しみながら、ズタズタに殺してやろうとそう思っている。

でも自分も似たようなものなので、ほどほどにしてあげないとと、要らぬ優しさと配慮の心だけはしっかり持ち合わせていた。



********

198×年


×月×日

目玉焼きを焦がす。苦いという声。可愛い。

新しいパジャマ。着ている所を見そびれた。今夜見る。

よく眠れるように冷蔵庫の麦茶にまじないをかける。

×月×日

夜はまじないが効いてぐっすりだった。小さな机に伏していたので、可哀想なので新しいパジャマに着替えさせてベッドに寝かせる。仕事が余程疲れているのだろうか、よく眠っているのでマッサージを施す。肌がすべすべで玉のようだ。

×月×日

朝はまじないが残っているのか少し眠そうにしていた。洗い物したっけ?いつ着替えたんだっけ?と首を傾げているので、自分がやっておいたと伝える。慌てて出かけたので聞こえなかったのか。今日は金曜なので早く帰ってくるだろうか。鍵を掛け忘れて出かけたので、お仕置が必要か?気付いたのが自分なので良かった。

×月×日

日付が変わって帰って来たので、少しばかりお仕置きをしてやった。ちゃんと夫婦になるまでは触れないと決めたそこに、下着越しに押し付けてやった。よがる声が可愛かったが、酒と薬の影響か目を覚まさなかったのが残念だった。楽しみはとっておく。

×月×日

二日酔いでなかなか起きないので、少しイタズラをしてやった。顔中にキスをしたが、唇への口付けは起きている時のために取っておく。

×月×日

月経が始まったようで、せっかくの日曜なのに苦しそうに布団にくるまったまま一日を過ごす。可哀想だが男の自分にはさすがに何かをしてやれることはないので、今日は安静に寝かせてやることにする。一昨日指で押し込んだ子種は経血と共に流れてしまうのだろうか、早く彼女と本当にまぐわいたい。

×月×日

体調が悪そうに仕事に向かう。勤勉で大学時代から変わらない。いい子なので、部屋の掃除をしておいてあげた。経血の汚れのついた下着は、彼女にはいつも綺麗な下着を身につけていて欲しいので自分が預かることにした。

×月×日

珍しく友達を家に呼んだようだ。茶でも差し入れしたかったが、久しぶりの大学時代のまともな部類の友人なので水いらずにしてやった。最近片付けた覚えがないのに片付いている、と彼女がこぼしていたが、まともな友人は彼女がもともと少し抜けているところがあるのを知っているのか「自分が片付けたのを忘れているんじゃないか」と笑っていた。自分もそう思う。

×月×日

下着がないと騒いでいる。相変わらずそそっかしい彼女のために、代わりの下着を用意してやらないと。

×月×日

卵を落とす。そそっかしいところは治らない。可愛いので許す。

また鍵を掛け忘れて仕事に行ったので、帰ったら不用心だとまたお仕置きしてやらねばならない。今日は本当にそそっかしい。

×月×日

帰宅が遅いと思ったら珍しく美容室に寄って帰ってきたらしい。担当美容師は女らしいので許している。可愛くなったので許容する。

×月×日

美容室に行った分の金を財布に入れてやる。そのぐらいの甲斐性は当然持ち合わせている。彼女が可愛くいるのは歓迎だが、他の男が可愛い彼女を見るのは腹立たしい。

×月×日

無断で帰宅が遅い。日付が変わる前までは許しているが、午前様は許していない。今日のところはギリギリ日付が変わっていないので、許してやることにするが、無断で遅いのでやっぱり仕置きは必要だと判断し、履いていた下着を詫びの品として受け取ることにした。

×月×日

見た事のない香水があった。色気づくようになったらしい。腹が立ったので、床に叩き落としてやった。

帰って来るなり「高かったのに」とボヤいていたので、夜に財布にその分の金を入れてやった。貧しい生活をさせるつもりは毛頭ない。

×月×日

また帰りが遅い。逐一送迎を考えるべきかもしれない。今日は仕置きとして少し口を塞いでやるつもりだったが、あまりの光景にそのまま果ててしまった。不甲斐ない。

×月×日

見た事のない派手な下着があった。まだ着用したことはなさそうだ。自分の趣味ではないが、その気持ちは可愛らしいと思うので見なかったことにしてやった。

×月×日

洗濯物の中に例の下着があった。

怯えた目をしている。浮気がバレて慌てたのか?自分は寛大なので、許してやる。

×月×日

栗沢栄、大学4年。実家は北海道のxx市の地主の長男。認知していなかったが自分たちの後輩らしい。実家の資産レベルは自分と同じ程度か。かたや北海道こちらは都内の資産家庭の息子で自分の方が条件はいいだろう。大学内のミスターコン準優勝らしい。優勝でないのであれば大したことはない。卒業後は地元に帰るらしいが、由良は実家とはあまり親しくはしていない。同郷らしいが、一時の火遊びだろう。憎い。許せない。どう始末をつけようか考えなくては。許してやりたい。可愛い。

×月×日

他の男に抱かれた事実を上書きしてやった。初めてはもっとロマンチックにしたほうが良かっただろうが、消毒が先決である。

×月×日

栗沢栄の卒業式。早く失せろ。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

×月×日

どういう訳か、僕に黙って引っ越し作業をしている。お見通しなのに、考えが浅くて可愛くてたまらないので今日も抱いてやった。泣いてよがっている顔をあの男も見たのかと思うと腑が煮え繰り返りそうだ。

×月×日

浅慮なことに、僕にバレないようにするためか都内で住居を転々としている。

引っ越しで疲れているだろうから、抱いてやるのはしばらくお預けにする。逃がすか。

×月×日

最終的な引っ越し先は北海道。

とてもいいことを思いついた。ほんの少しだけ、由良の思惑に乗っかってやることにする。



「…うふふ、あははっ、きもちわるーっ最高!こういうの今で言うストーカーだよね」

まだ少し続きはあるが、眠くなって来たので今日はここまでにするかと何度も読み返したそのノートのページをぱたんと閉じて、雑に床に放り捨てる。そして、愛おしげに腹を撫でた。

「早く会いたいな」

私にも「愛おしい」という、愛の感情があるのかと少し膨らんだ腹を見て嬉しくなった。

早く、息の根を止めないと。だって「愛してる」から。


そうして都会の汚れた空気と鮮やかなネオンに照らされた星の少ない夜空を見上げ、リミットを数えて楽しそうに足を揺らした。

「人間ごっこはもうおしまいだよ、ゆり」

愛してる、憎らしい、おぞましい、可愛い、大好き、大嫌い、妬ましい、愛してる、愛してる、殺す。

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