第十三章「欲求」※微R15表現あり
ドクンと心臓が跳ねて、不整脈のような嫌な胸の拍動を感じる。
どうして自分を愛してくれないのか?
なんで自分じゃないのか?
その笑顔は、どうして、なんで、やめて。
そこまで思ったところで手が出ていた。
それは完全に無意識ではあったが、細い彼女の肩を掴み、引っ張り、振り返ったところでその可愛く白い頬を力いっぱい張っていた。
ぱちん、という乾いた音と、なにが起きたのかわからないと言った男の顔と、左頬を真っ赤に腫らした彼女の顔。
「────え、す、すみ、だ……くん……?」
驚きなのか後ろめたさなのか、声が震えている彼女が小さく自分の名前を呼ぶ。すかさず、彼女の前に立ちはだかった男は、彼女を守るさながら王子のような立ち位置で彼女を背にこちらに睨みをきかせてくる。
怖くはない。
ただ、憎らしい。汚らわしい。
この男が、彼女の、僕の最愛の女性の髪を、頬を、唇を、細い首を、果実のような胸を、括れた腰を、しなやかな足を、僕が大切に大切に守った秘密の場所を暴いて犯して蹂躙したに違いない。
「……お前か、大学の頃からコイツに付きまとっていたのは」
男が、さも汚いものを見るような目でこちらを見ていることだけが気に入らない。
何様だコイツは。知らない顔だ。
誰が彼女に付きまとっている?
自分こそが彼女の恋人であり、将来を約束した仲であるというのに。
「……ふ、はは」
思わず口をついて出た乾いた笑い声。
あからさまにびくりと肩を揺らす彼女を見て、ぞくりと支配欲のようなものが背筋を巡るのを感じた。
「まぁ、いい」
いいだろう。
結婚前の火遊びくらい必要だろう。
彼女の「ハジメテ」が自分じゃないのは気に入らないが、肝心なのは「サイゴ」だ。
初めては痛いと聞くし、自分が彼女に負担を強いて泣かせたくはない。泣かせた男はコイツなんだ。自分じゃない。
そう思うと、幾分か気持ちが楽になったような気がする。
今にも殴りかかって来そうな男を制する彼女の声を背中に聴きながら、ふらふらと2人の愛の巣に帰ることにする。
いいだろう、せいぜい今だけは楽しむといい。
「待ってっ、やめて、お願い栄さん!!」
大事にしたくない、そう訴える由良の声は、自分との秘密の関係を暴かれたくないと、きっとそう言いたかったのだろう。
わかっているよ、由良。
そう思いながら帰宅した愛の巣。
由良が住まう部屋の、左隣。
室内は最低限のものしかなく、生活感は皆無。
由良の部屋に隣接した箇所にベッドが置いてあり、いつものようにそこに腰掛け壁に耳を当てる。
まだ由良が帰宅していないのはわかりつつ、いつものように由良の自宅から持ってきた下着を鼻先に宛てて匂いを堪能しながら、墨田千歳は由良のあの怯えた瞳を思い出して興奮と欲をその下着にぶちまけた。




