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1-8話 ラノベ部の愉快な仲間たち②

「やぁ、どうしたんだい?」


 ――と、颯爽と現れた新たな女子生徒。

 髪はグレージュカラーでショートなカーリーヘア。

 男性並みの高身長で、まるで宝塚の男役のように中性的でイケメンな女子生徒だ。

 キザに髪を掻き上げる仕草が様になっている。


「あ、ジュンちゃん部長!」

陽莉(ヒマリ)くん、何を騒いでいるのかな?」


 どうやら陽莉(ヒマリ)の知り合いのようだ。

 『ジュンちゃん部長』と呼ばれたことから考えて、どうやら陽莉(ヒマリ)の所属する『ラノベ部』の部長だろうと推測できる。


「そ、それが、オトメちゃんが急に倒れこんじゃったんです……」

「そうなのか、どれどれ……」


 そういうとその――ジュンちゃん部長と呼ばれたラノベ部部長は、倒れた乙女を調べ始める。

 すると自然と前屈みになるのだが―― 


(ぬぉっ! こ、これは……!)


 ――彼女の体の一部に、思わず注目する(テル)


(な、何という素晴らしいおっぱい! このサイズ、陽莉(ヒマリ)にも勝るとも劣らない……!)


 そのマニッシュな外見に関わらず、ラノベ部部長の胸部は人並み以上に女らしく豊満だったのだ。

 着くずしたワイシャツの胸元から見える彼女の谷間に、(テル)は目が釘付けになってしまう。

 すると(テル)の視線に気づいた彼女が尋ねる。


「ふむ……。君は同じ女性の胸を観察するのが趣味なのかな?」

「ふぁっ!?」


 不意に尋ねられた(テル)は思わず変な声を上げてしまった。


「ひょっとして君は『巨乳に憧れる系女子』なのかな? 自身も巨乳になりたいと、そう考えているのかな?」

「そ、それは……」


 ラノベ部部長に指摘され、思わず言い淀む(テル)


(そ、そうだよね、失礼な態度だったよね……。いくら不意打ち巨乳だったからって、初対面なのに胸をガン見しちゃうなんて……)


 (テル)は己のおっぱい好きを反省し謝罪する。


「ご、ごめんなさい部長さん。初めて会う人に不快になるような態度を取っちゃって……」

「ああいや、怒っているわけではないんだ。ただ巨乳に憧れているなら、一言忠告しておこうと思ってな」

「ち、忠告……?」

「いいか、これだけは覚えておいてくれ――」


 不思議に思い尋ね返す(テル)に、部長はハッキリと告げる。


「――巨乳は悪、貧乳こそ正義だ!」

「……へ?」


 思いがけない言葉に戸惑う(テル)

 構わず部長は持論を力説し始める。


「巨乳なんて重いし、動きづらいし、肩凝るし! 男はキモい目で見てくるし、不快なイジリもされるし! 太って見えるし、ブラのサイズ無いし! 汗かくし、将来垂れるかと思うと恐怖でしかないし! 巨乳なんて何一つ――な・に・ひ・と・つ、いい事なんてないからな!」

「は、はぁ……(やばい、この人も変な人だ……)」


 巨乳の不便さを声高に主張する相手にタジタジとなる(テル)

 どうやらラノベ部の部長さんは、自分の巨乳がお気に召さない様子。

 さんざん巨乳について愚痴った後――


「しかし……」


 ――今度は(テル)の胸をまじまじと見つめて嘆息する。


「君は見事なまでにペッタンコだな、羨ましい……。私もそれくらいペッタンコに生まれたかったものだ」

「……おい」

「ところで陽莉(ヒマリ)くん 、こちらの見事なペッタンコは誰かな?」

「ペッタンコって言うな! それは誉め言葉じゃないぞ!」


 心は男な(テル)にとって『貧乳』は気にならない身体的特徴だ。

 だが――。


(この令和の時代に『外見をバカにする行為(ボディシェイミング)』なんて許せない!)


 どうやら(テル)の正義感がそれを許せないようだ。

 食ってかかろうとする(テル)をなだめに入る陽莉(ヒマリ)


「まぁまぁテルちゃん、落ち着いて。ジュンちゃん部長もあまり失礼なこと言っちゃダメですよ」

「そんなつもりはなかったのだが……。ところでこちらの素敵なペッタンコは何者なんだい?」

「おい! だからペッタンコを連呼するなっ!」


 怒れる(テル)を押し留め、陽莉(ヒマリ)は部長に(テル)を紹介する。


「こちらはアタシの幼なじみの惣真照(そうまてる)ちゃんです」

「ああ、キミがいつも陽莉(ヒマリ)の話題に出てくる(テル)くんか」


 どうやら会うのは初めてだが、(テル)の事はよく話題に上っているようだ。

 続いて陽莉(ヒマリ)は、(テル)にラノベ部部長を紹介する。


「テルちゃん、こちらはラノベ部の部長さんで、三年の皆月純(みなづきじゅん)先輩だよ」

「はじめまして、惣真照(そうまてる)くん。いやぁ、君のようなスレンダ……ペッタンコな体型は本当に羨ましいよ」

「おい今、スレンダーで良かっただろ! 何で言い直した!?」


 相次ぐ貧乳イジリに対し、怒気をはらんだ目で睨みつける(テル)


「いい加減にしろよ部長さん! アンタ人の身体的特徴を揶揄しちゃダメだって学校で習ってこなかったのか!? 貧乳イジリなんて今のコンプラじゃ完全にアウトなんだぞ!」

(テル)くん、何を言ってるんだ君は? 私は心の底から貧乳に憧れ、貧乳になりたいと切に願っている人間だぞ? 貧乳イジリなんてしたつもりは一切ない」

「一切ないって、さっきからやってるじゃないか! 受け取る側がセクハラだと思えばそれはセクハラなんだよ!」

「嘆かわしい、私はこの溢れんばかりの貧乳愛を表現しているだけだと言うのに、そんな誤解をされてしまうなんて……。貧乳好きを標榜すればコンプラ違反なのか? それが本当の多様性なのか?」


 (テル)に反論しながら、大げさな手振りで悲しみを表すラノベ部部長――皆月純(みなづきじゅん)


「そもそも(テル)くん、『ペッタンコ』は悪口なんかじゃなく、貧乳に対するリスペクトを込めた敬称だろう?」

「そんなわけあるか! どう考えたって蔑称だろ、屁理屈言うな!」

「それは価値観の相違だな。やれやれ(テル)くん、どうやら君とは意見が合わないようだ」


 分かり合えないとため息をついた(ジュン)部長は、気を失った乙女(オトメ)の状態確認を終える。


「それはともかく――どうやら乙女(オトメ)くんは大丈夫そうだ。脈も呼吸も正常だし、気を失っているだけらしい。だが念のために保健室に連れて行こうか。私が肩を担いでいくから、陽莉(ヒマリ)くんは反対側の肩を頼む」


「分かりました、ジュンちゃん部長」


 (ジュン)部長と陽莉(ヒマリ)が両側から乙女(オトメ)の肩を担ぐ。


「それじゃテルちゃん、またね」

「さらばだ、惣真照(そうまてる)くん」


 そして陽莉(ヒマリ)(ジュン)部長の二人は、乙女(オトメ)を担いで保健室へ向かう。

 それを見送る(テル)は――


「くっそ、あのおっぱい差別主義者め! ……しっかし変な人ばっかりで大丈夫かラノベ部?」


 ――と、陽莉(ヒマリ)の所属するラノベ部に対して不安を感じるのだった。


 劇の台本の作者で(テル)推し文学少女――影文乙女(かげふみおとめ)

 巨乳なのに巨乳嫌いのラノベ部部長――皆月純(みなづきじゅん)

 それに陽莉(ヒマリ)を加えた三人のラノベ部員たち――。


 彼女たちもまたこの先、爆破事件に巻き込まれることとなる。

 異世界転移するのは彼女たちの中の一人か、二人か、もしくは全員か……。

 それは後々明らかになるだろう。


 このとき――――(テル)たちが異世界転移するまであと二週間。

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