6-4話 ガールズトーク③~鈴夏の状況~
あまりの朔夜の言い分に言葉を失う照。
たまらず向かいに座った鈴夏――元刑事のカッコいい系美少女――に助けを求める。
「ねぇ鈴夏さん、助けてください。お願いですから、朔夜さんに何か言ってやってくださいよ。この人ちょっとおかしいんです。ガッカリ美人なんです」
「……ああ、何だ照? 悪い、聞いていなかった」
照と朔夜があれだけ騒いでいたにもかかわらず、やっと気づいた様子の鈴夏。
少し顔色が悪いように見えた。
そういえば鈴夏は馬車に乗ってからずっと静かに俯いていたと、照は気づいて心配になる。
「大丈夫ですか、鈴夏さん? 馬車に乗ってからずっと黙り込んでましたけど……?」
「すまない、ちょっと考え事をな。……なぁ澪。君に一つ聞きたいことがあるんだが……」
「えっと、何かな鈴夏さん?」
ようやく口を開いた鈴夏が澪に尋ねる。
「君のフルネームは『神宮寺澪』だったな? それって確か、四年前に消えた高校生の一人と同じ名前のはずだが……」
「ああ、それなら間違いないよ。私は四年前に異世界転移してきたの。確か日本じゃ『高校生神隠し事件』って呼ばれてるんだっけ?」
「そうか、やっぱり。なら君に聞きたい。四年前に転移してきた君以外の日本人は今どこにいるんだ?」
「何処って……変なこと聞くね? 私以外の二人――蓮司と尊なら、後ろの男子用の馬車にいるじゃない」
「――二人? ちょっ、ちょっと待ってくれ澪!」
澪の返事を聞き、鈴夏は慌てた様子を見せる。
「二人だって? 四年前の転移者は四人のはずだ。君以外にあと三人いるんじゃないのか?」
「あーそう言えば……確か剣人くんもそんなこと言ってたっけ……? でも四年前の転移者は全員で三人だよ?」
「なっ! そ、そんなバカな……!?」
澪の答えに顔色を青くする鈴夏。
その様子に慌てて照が声をかける。
「だ、大丈夫ですか鈴夏さん!? 顔色悪いですよ? 確かに四年前の転移者の人数が違っているのには驚きましたけど、どうして鈴夏さんがそんなにショックを受けて……って、アレ?」
そこで照はふとあることに気付く。
「確か残りの一人の名前は『不知火秋兎』だったはず。不知火……鈴夏さんの苗字も同じ不知火でしたよね? まさかそれって……」
「……ああ、そうだ」
思い詰めた様子で鈴夏が答える。
「『秋兎』は私の息子だ」
「む、息子さん!?」
思わぬ告白に驚く照。
傍で聞いていた澪も困惑の声を上げる。
「えっ!? こ、子供って鈴夏さん、その若さで……?」
「ああ、そういえば鈴夏さんって、異世界転移で若返っていたのだったかしら」
事情を知らない澪に、朔夜がこれまでの経緯を語って聞かせる。
「そ、そうなの朔夜さん?」
「ええ、澪さん。確か元は実年齢40代の刑事さんだったはすよ」
息子がいたという事に困惑する一堂へ、鈴夏は自身から見た四年前と現在の状況を説明する。
「四年前の『高校生神隠し事件』で消えた四人の内の一人が、私の息子の『秋兎』だったんだ。当時私も刑事としてこの事件に関わっていたのだが、結局息子を見つけることができなかった……。今回の異世界転移というものに巻き込まれ、状況が四年前の事件と同じと聞いたとき『ひょっとしたら秋兎も異世界転移していたんじゃないか? だったらいずれ息子に会えるかもしれない』という希望を抱いていたのだが……まさか異世界に来てもいなかったなんて……」
語り終えた鈴夏は、真っ青な顔で明らかに落胆した様子だ。
「す、鈴夏さん……」
「……ああ、すまない照、心配させてしまったか?」
力なく笑う鈴夏は言葉を続ける。
「だが……そうだな……すまないが今は余裕が無いみたいだ。少し気持ちの整理がつくまで、そっとしておいてくれないか……」
そう言い背を向ける鈴夏に、照たちは何も言えなくなるのだった。




