6-3話 ガールズトーク②~朔夜の気持ち~
「ねぇ照くん。一つ聞きたいのだけれど……」
――そう言いながら体を寄せてきたのは、黒髪ロングの美人生徒会長・朔夜だ。
照の腕に自分の両手を絡ませ、体を密着させてくる朔夜。
「その陽莉という女は、照くんとはどういう関係なのかしら? もしかして大切な人?」
「えっ? ちょっ、何を……? ふぁあああっ!」
ムニュン……と肘に柔らかいものが当たる感触に慌てる照。
「あ、当たってます! 当たってますよ朔夜さん!」
思わず固まってしまう照に、 だが朔夜は「当ててるのよ」と堂々と言い切って離れようとしない。
「それより照くん、質問に答えなさい。陽莉という名前は、貴方のクラスメイトの瀬名陽莉の事かしら? その女は貴方にとって何者なの?」
「何者って、その、ボクの幼馴染で……あひぃいいっ! 耳に息を吹きかけないで!」
「その子は私よりも大切な相手なのかしら? ねぇ、照くん?」
「ちょっ! さっきから変ですよ、朔夜さん!」
朔夜の過激なボディタッチに、たまらず照が悲鳴を上げる。
「な、何なんですか、朔夜さん! さっきからのこの態度は!? まるでボクに気があるみたいに……」
「……アラ、気づいてなかったの?」
照の狼狽に、朔夜が妖艶な笑み返し――
「私……照くんの事が好きよ」
――と、照の耳元でそっとささやく。
「……へ? い、いやいや! からかわないでくださいよ、朔夜さん!」
「からかってなんかいないわ。ねぇ照くん、私、本気よ?」
「だ、騙されませんよ、朔夜さん! だいたい今までの流れで、朔夜さんがボクに惚れる要素なんて一切なかったじゃないですか!」
「……照くんこそ忘れたっていうの? 私の身も心も蕩けるほどに、あんなにも激しくしてくれたじゃない――」
「忘れたも何も、そんな事実は一切ありません!」
照はひときわ強く否定する。
すると――。
「……ひ、酷い……。私の事は遊びだったのね……くすん……」
「ちょっ、朔夜さん?」
突然涙を見せる朔夜に慌てる照。
「な、泣かないでくださいよ、朔夜さん! お願いします、泣き止んでください!」
「くすん……。だったら私が本気だって信じてくれる……?」
「いや、その……それは……」
未だ戸惑いを見せる照に、甘えた声を上げる朔夜。
「だったら……ねぇ照くん。私、どうすればいいのかしら? どうすれば照くんは、私が真剣だってわかってくれるのかしら?」
「真剣って……そんな……」
朔夜のその哀切な様子に、照も次第に心が揺らいでいく。
「ま、まさか……。朔夜さん、本当にボクの事……?」
「……もちろんよ、照くん。私……貴方の事が好きよ」
まっすぐ自分に向けられた朔夜の言葉に、さすがの照も疑い続けることはできない。
(そんな……。いつの間にかボク、朔夜さんを攻略していたのか……)
朔夜の気持ちを受け取ると同時に、悩み始める照。
(ど、どうしよう、こんな美人に好かれるなんて初めてだよ……。据え膳食わねば、なんて言うし、ここは…………って、何を考えてるんだボクは!? ボクには陽莉がいる! さっき決めたばかりじゃないか! 陽莉さえいればそれでいいって! だからボクは――)
そうして悩んだ照は、覚悟を決めて朔夜に応える。
「……朔夜さん、ボクは……」
「……そう。分かったわ、照くん」
苦しそうに言葉を紡ぐ照に、答えを察した朔夜。
照がすべてを言いきる前に、悲し気な笑みを浮かべつつ会話を引き取る。
「貴方のその辛そうな表情……やっぱり照くんは私ではなく、その陽莉という子を選ぶのね」
「うっ、それは……」
「大丈夫、キミの気持ちは分かったわ。でも……」
そこで一息ついた朔夜は、フゥ……と吐息を漏らし、潤んだ目で照を見つめる。
「ねぇ照くん……私の気持ちも聞いてくれないかしら? 私は……キミの一番でなくていいと思ってるの。照くんに他に好きな人がいたって構わない。二番でも三番でもいいからキミの傍にいたいの」
まるで捨てられた子犬のような目で、男に媚びるセリフを吐く朔夜。
それは普段の凛とした生徒会長からは想像もできない、か弱く憂いに満ちた姿を見せていた。
「……それじゃダメ? それでも私の気持ち、受け取ってもらえないかしら?」
そんな朔夜の切ない嘆願に、照は激しく動揺する。
「そ、そんな……。さ、朔夜さん……どうしてそこまで……」
「だから言ってるでしょう」
そうして朔夜は答える。
「私は照くんが大好きなの…………探偵として」
「……へ? 探偵?」
探偵という言葉に、思わずキョトンとしてしまう照。
それに構わず朔夜は熱く語り始める。
「照くん、キミのその推理力と、与えられた[探偵]というジョブは素晴らしいわ。他には何もいいところがない貴方だけれど、それだけで充分な魅力があると思うの」
「そ、それだけ……?」
「だって貴方って、チビで、貧相で、女みたいだし……男としての魅力は全くと言っていいほど無いでしょう? そうね……[探偵]じゃなかったら、貴方なんて道端の石ころ以下の価値しかないかしら」
「なぁっ……!」
あまりにもの暴言に思わず固まってしまう照。
そんな彼に朔夜は優しく語りかける。
「だから……安心して、照くん。私は男性としての貴方に興味はないわ。興味があるのは探偵としての照くんにだけ。だから別に、貴方がその陽莉という子を好きでも構わない。私は二番目でも三番目でもいい、ただ[探偵]である貴方の傍にいたいだけ。その為だったら何でもしてあげるわ」
言いたいことを言った朔夜は、会心の笑顔で照にささやく。
「だから……ねぇ照くん、分かってくれるでしょ?」
「分かるか――っ!」
思わず大声になる照。
そのツッコミは照にとって当然の抗議だが、朔夜は理解できないというように首を傾げる。
「どうして照くん? 何がダメなのかしら? 世の中には財産目当て結婚する女もいるんだし、別にジョブ目当てで付き合ったって構わないでしょ?」
「構いますよ朔夜さん! 金目的もジョブ目的もダメ!」
「貴方も私の体目当てだと割り切って付き合えばいいじゃない。私はそれで構わないわよ」
「じ、自分から体目当てって言うなっ!」
「ちなみに、私……まだ処女よ。危なかったけどギリギリ守り通せたわ(遠い目)」
「こ、この人は……」




