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4-13話 我儘だって言われても絶対に譲れない

 悔しさで地面を殴りつけながら、怨嗟の叫びをあげるゴブ助。


「ちくしょォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 そのとき――。


『タイプ[ホブゴブリン]のレベルが1上がり、レベル10(Мax)になりました』

『条件を満たしました。上位種[ゴブリンウォーリアー]に進化を開始します』

『スキル[二段階進化]が発動しました。さらなる上位種[ゴブリンキング]に進化を開始します』


 ――ゴブ助の脳裏にそんな天の声が響いた。


 瞬間――ゴブ助の体を光が包み込み、バクンッと風船のように膨れ上がる。

 体が急激に成長し、ゴブ助の体が不自然に作り替えられてゆく。


「おお、魔物の進化か! しかもこれって……二段階進化か? なかなか珍しいものが見れたな!」


 その様子を見守る(タケル)は、驚きながらも何故か楽しげな様子。


 ちなみにモンスターの進化は、タイプと呼ばれる種族のレベル――人間でいうところのジョブレベル――がカンストしたときに起こる現象だ。

 人間の場合、ジョブレベルカンスト後に『転職の儀』というものを受けることによって新たなジョブを得ることが出来る。

 だがモンスターの場合は、タイプレベルがカンストすると自動的に上位種へと進化する。

 その結果、種族が変わりステータスが上がると同時に、また新たなアクティブスキルを得ることが出来るという仕組みだ。

 今回ゴブ助が進化できたのは、運よくタイプ[ゴブリン]のレベルがカンストしたからだ。

 そしてさらに二段階進化したのは、彼の持っているスキルが原因である。


====================

[二段階進化]

 進化の際、さらにもう一段上の上位種に進化する事が出来るスキル。

 習得条件:称号『進化の天才』の取得。

====================


 このスキルのおかげで、ゴブ助は通常よりも一段上の上位種に進化が可能となったのだ。

 メキメキ、バキバキと音を立て、元のゴブ助の二倍以上はあろうかという姿に変貌していく――。


 ――――――

 ――――

 ――


 やがて成長が止まり、姿を現したのは――山のように巨体なゴブリンだ。

 ゴブリンキング――そう呼ばれるゴブリンの上位種。

 身長は3メートル近い体躯で、筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がっている。

 オークを超えるほどのその巨体は、まさにキングと呼ぶに相応しい迫力だ。


「……フッ……フははッ! 凄イ、凄いゾ! これなラ――」


 進化を終えて高揚するゴブ助は、そのまま(タケル)に向き直り――


「これなラ貴様を殺せるゾォおおおおおおおおオッ!」


 ――勢いに任せて(タケル)に襲い掛かった!


 ――ブォンッ!


 (タケル)めがけて降り降ろされる剛腕!

 だが(タケル)は体を沈めると、ゴブ助の拳を掻い潜りながら、その脇の横を軽やかなステップですり抜ける。

 そしてすれ違いざま剣を抜き、(タケル)がスキルを解き放つ。


「[聖剣術Lv.3]チェインブレイド!」


====================

[チェインブレイド]

 [聖剣術Lv.3』の剣技。

 一瞬で敵を切り倒す連続攻撃。

====================


 その一瞬――煌めく無数の太刀筋がゴブ助を襲う。


「――っがは!」


 次の瞬間――ゴブ助の体に無数の刀傷が現れ、全ての傷口からブシュゥウウッと血が吹き出した。

 気付かぬウチに全身を切り刻まれていたゴブ助は、そのまま力無くドサッと片膝をつく。

 あえなく倒れ込んだゴブ助に、だが(タケル)は賞賛の声を送る。


「いやぁ、お前スゲーな。こんなギリギリでゴブリンキングに進化するなんて、なかなか根性あるじゃないか。でもまぁ……」


 (タケル)はそう言うと、再び剣を振り上げる。


「残念だったな、終わっとけ」

「――待って!」


 (タケル)の剣が下ろされる寸前に、またしてもゴブ助を庇う声。

 マリーに回復してもらった(テル)が、再び(タケル)の前に立ちふさがった。


(テル)……お前、バカなの?」


 二度目のバカな行動に、さすがの(タケル)も理解できない様子で首を振る。


「なんでまだそのホブゴブリンをバカみたいに庇ってんの? あれだけぶっ飛ばされてまだわからないバカなの? バカなの? マジでバカなの?」

「……そんなにバカバカ言わなくたっていいだろ。 (タケル)兄ちゃんの言ってたことは、実際に体験して嫌ってほど分ったから。人間と魔物は敵同士、決して相容れない。この世界ではそれが当たり前なんだって」

「だったら――」

「――でも嫌なんだ、ゴブ助が死ぬのは! バカなこと言ってるって事は分かってても、嫌なものは嫌なんだ! 我儘だって言われてもこればっかりは絶対に譲れないからな!」


 そう言って頑なな態度を見せる(テル)

 どうして彼はそこまでゴブ助を庇うのか?


 ――元々(テル)は感情的な人間だ。

 [探偵]なんて理論派そうなジョブを貰ってはいるが、本人は理屈や理性より感情で物事を考える傾向がある。

 正義感が強い発言が多いのも、理不尽や不条理に憤るというより、ただただ自分が「嫌だから」という個人的な気持ちの表れだ。

 だからこそ折れない、譲れない。

 論理的な意見なら論破もできるが、感情的な意見は説得もできない。

 ゆえに自分が納得するまで妥協ができない、その頑固さこそが彼の本質と言えるだろう。


(タケル)兄ちゃん、ゴブ助は絶対に殺させない! だってもう、ボクはゴブ助のこと友達だって思っちゃってるんだから! どうしてもゴブ助を殺すなら、だったら先にボクを殺せよ!」


(テル)、お前なぁ……。ここまでバカで頑固だとは思わなかったぞ」


 (テル)の呆れた懇願に、(タケル)はたまらず渋い顔を作る。

 倒れたゴブ助も――


「人間……どウしてそこマで……」


 ――と、信じられないような表情で(テル)を見上げていた。

 そこへ――「なぁ主様」と、、女王マリーが(タケル)に提案をする。


「殺さず言う事を聞かせたいのなら、主様が此奴を従魔にしてしまえばよいのではないか?」

「従魔か……でもなぁ……」


 そんな提案を受けた(タケル)は、ゴブ助の傍にしゃがみ込んで尋ねる。


「よう、ゴブ助……だっけ? お前、負けを認めるか?」

「……ふザ……けるナ……。お前は殺ス……絶対……に殺ス……」

「……これはダメだな。負けを認めない相手に[隷属魔法]はあまり効果がない。これだから知性のある魔物は従魔にするのが難しいんだよ。うーん、どうするかなあー……」


 そうして(タケル)は考え込むと、ゴブ助に質問する。


「なぁゴブ助。お前はマリー――魔の森の女王にも復讐しようと思ってるか?」

「……女王様ハ……関係なイ……。お前だけダ……人間、お前だけは絶対ニ……」

「……そっか、じゃあいいや」


 そう言って(タケル)(テル)に向き直る。


「おい(テル)、お前の望み通り、コイツは見逃してやるぞ」

「ほ、本当か、(タケル)兄ちゃん!」

「ああ、コイツ程度ならいつでも返り討ちにできるからな」

「あ、ありがとう(タケル)兄ちゃん!」

「というわけで……」


 再度ゴブ助に目を向ける(タケル)


「おいゴブ助。俺が憎ければいつでもリベンジしに来い。ただし次は殺すからな。俺に勝ちたきゃもっと強くなって、せめて最上位種の[ゴブリンディザスター]に進化してから来ることだ」


 そう言って(タケル)はゴブ助から離れ――


「それじゃ帰るか。行くぞ(テル)、マリー」


 ――そのまま村の出口に向かう。


「あ、ちょっと待ってよ!」


 (テル)は慌てて(タケル)を追おうとするが、足を止めてゴブ助に向き直る。


「……ありがとう、ゴブ助」

「……? ……なぜ礼を言ウ……?」

「あの時キミ、手加減してくれたろ? 君が本気で殴ってたら、レベル1のボクなんて一発で死んでるよ、だから……。魔物と人間は敵同士かもしれないけど、それでもキミには感謝してる。それだけ伝えておきたくて……」

「…………」

「……それじゃゴブ助。バイバイ、元気でね」


 そう言い残し、(テル)はその場を立ち去る。

 そんな(テル)の頭の中で天の声が響いた。


『称号『ゴブリンの友』を習得しました』

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