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4-9話 連続殺ゴブリン事件(捜査編②)

 (テル)はゴブ助に連れられて村を歩く。

 ちなみに今は(テル)とゴブ助の二人っきりで、(タケル)と女王マリーの姿はない。

 (タケル)が『もう飽きた』と言って消え、マリーもそれを追っていったのだ。

 一人きりにされるのは怖かったが――


『ちゃんとお主を襲わぬよう、充分に言い聞かせてあるから大丈夫じゃ』


 ――と言ったマリーの言葉を信じ、(テル)はゴブ助の後を追っていた。

 暫く村の中を進んた後、ゴブ助はとあるテントの前で足を止めた。


「ここが最初の犠牲になった、四十郎オジの家ダ」


 そう紹介されたテントは、そこにたどり着くまでにいくつも見たものと同じ、木と藁と葉で作られた円錐型のものだ。

 中の空間は一畳半程度で、ゴブリンがいくら小さいとはいえ寝るのが精一杯の広さだろう。

 部屋には木の実が干され、床には藁で編まれた布団のようなものが敷かれている。

 人間から見ると、とても質素な生活をしているようだ。


「四十郎叔父は我に棍棒ヲ使った戦い方を教えてくれタ。我ノ師匠と言っテいい人ダ。この村でも三本の指に入る戦士だっタ。どうダ、家を見て何か分かるカ?」

「いや……うーん……。今回のは通り魔的な犯行っぽいしなぁ。被害者の家を調べても何も分からない気が……」

「むぅ、そうなのカ?」


 残念そうに眉をひそめるゴブ助に(テル)が尋ねる。


「被害者の家より、殺害現場は見れないの? 事件の現場を見た方がよっぽど手掛かりになりそうなんだけど。

 どうやって殺されたのか、状況が解らないと推理もクソも無いんだよね」


「そう言われてモ、我ハ殺害現場なんか知らないゾ?」

「遺体を見つけたゴブリンに、現場がどこか聞けば……」

「ゴブリンの記憶力じゃ無理だナ。場所なんてとっくに忘れてるだろウ」

「えぇえ……」


 まったく役に立たない証言者に唖然とする(テル)


「そ、それじゃゴブ郎以外の遺体は?」


 ゴブ助から聞いた情報だと、遺体はみんな左肩から右脇腹に向けて袈裟切りされてたそうだ。

 だがそれだけだと情報が足りない。

 遺体を実際に検分することが出来れば、もっと手がかりが得られるはずなのだが……」


「ねぇゴブ助、他の殺されたゴブリンの遺体はどこにあるの?」

「残念だが今はもうないゾ」

「ないって……埋葬したって事? じゃあ亡くなったゴブリンには申し訳ないけど、掘り返して遺体検分を……」

「マイソウ……とはなンだ?」

「いや、仲間が死んだら遺体をお墓に埋めるでしょ?」

「ゴブリンにそんナ風習は無いゾ。だいタい埋めるなンてそんナもったいない事はしなイ」

「……も、もったいない?」


 普通は遺体に使わない形容詞に戸惑う(テル)に、ゴブ助が応える。


「死んダ仲間は……みんなデ食べるゾ」

「へ、食べる?」

「もしクは遺体を餌にしテ、別の獲物を誘き寄せるカ……。死んダ後も使い道ハいくらデもあるからナ。殺されタ被害者達の遺体モ、きっト有効利用されタはずだ」

「うぇえ……マ、マジでか……」


 ゴブリンの人間離れした倫理観におののく(テル)


「じ、じゃあ……誰か事件について話が聞けそうな人は……」

「遺体にシろ現場にシろ、ゴブリンたちの中で状況を把握してイそうなのは頭領ぐらイだろうナ。頭領の記憶力であれバ、物事をちゃんト覚えているだろウ」

「頭領か……」


 (テル)は『儂は何も喋らんぞ!』と叫んでいた頭領の剣幕を思い出す。


「あの様子じゃ、何を聞いても教えてくれなさそう……」

「ではどうすル人間? 諦めて死ぬカ?」

「死なないよ! とはいえ他に手がかりも無いし……。じゃあ一応、他の被害者の家も案内してよ。ひょっとしたら何か事件につながるものが見つかるかもしれないし……」

「……分かっタ」


 そうしてゴブ助の案内は続く。


 ――――――

 ――――

 ――


 ――二件目。


「ここが二番目に犠牲になった七郎オジの家だ」


 そうして連れてこられたのは、先ほどと変わらぬ小さなテント。

 促されて中を確認するも、前のテントと同様に、狭い住居に質素な生活が伺えるだけだった。



「七郎オジにはよク狩りの仕方を教わっタ。彼もまた勇敢な戦士だっタ……」

「……うん、何も分からないから次行こ」


 ――三件目。

「三番目に犠牲になった三十九郎オジの家ダ。罠の張り方を教わっタ」

「……次行こ」


 ――四件目。

「四番目に犠牲になった七十四子オバの家ダ。料理の仕方を教わっタ」


 ――五件目。

「五番目に犠牲になった九十一郎オジの家ダ。薬草の見分け方を教わっタ」


 ――六件目。

「六番目に犠牲になった三郎オジの家ダ。武器の作り方を教わっタ」


 ――七件目。

「七番目に犠牲になった十五美オバの家ダ。交尾の仕方を教わっタ」


 ……七軒回ったが全て同じような住居で、(テル)は何の手掛かりも得られなかった。



 * * *



(ど、どうすんのコレ……? 全く推理できる手掛かりがないんだけど……)


 無駄足ばかりで心を折られつつ、(テル)はゴブ助の案内で先に進む。

 最後に辿り着いたのは、村はずれの山の急斜面。


「ココが最後に犠牲になった、ゴブ郎兄さんの家ダ」


 そう言ってゴブ助が指さしたのは、急斜面にぽっかりと開いた洞穴だ。

 中を覗くと存外に広い洞窟となっていた。

 木でできた棚や水ガメのようなものもあり、他のゴブリンたちの家に比べたら知性のあるインテリアになっている。

 とはいえ――


「うーん……何もない……」


 ――(テル)が幾ら家探しをしても、犯人を突き止めるヒントになるものは見つからなかった。


(ど、どうしよう……。事件の手がかりなんてどこにも無いんですけど……。ノーヒントなんて本物の名探偵でも事件解決は無理だろ。というか本物の名探偵ならこの中からヒントを見つけてたりするの? じゃあやっぱボク名探偵でもなんでも無いって……)


 最後の家ですら何も見つけられない状況に、焦りを覚える(テル)

 いや、正確には『気になっている点はいくつかある』のだ。

 だがそれらはまだ点の状態で、(テル)の中でまだ線として結びついていない。


「ちなみにココは我の家でもあル。我はここで兄と住んでいタ」


 そんな悩める(テル)に、ゴブ助がゴブ郎との思い出を語りだす。


「ゴブ郎兄さんは、兄といっテも我の本当の兄ではなイ。我は珍しい生まれつきのホブゴブリンだガ、ゴブ郎兄さんは村のゴブリンの中デ、唯一ホブゴブリンに進化しタ真の強者ダ。少し変わっタところはあっタが、村一番の戦士であり村一番の賢者でもあっタ。我ニ言葉を教えてくれタのもゴブ郎兄さんだったしナ。そして兄さんハ、この事件で最も犯人を憎んでいたようダ。犯行が行われルようになってかラ、兄さんはよく言っていたヨ、『強くなって絶対に犯人を殺してやる』っテ。だかラ……」

「――ち、ちょっと待って!」


 ゴブ助の言葉を聞き咎めた(テル)が、慌ててゴブ助の話を遮る。


「キミの兄さんは、ホントに『強くなって絶対に犯人を殺してやる』って言ってたのか?」

「あア、そうダが……。そレがどうシた?」

「『強くなって絶対に犯人を殺してやる』と言ったって事は……ゴブ郎さんは、犯人の事を知っていたんじゃないのか? 相手が分かっていたからこそ、強くならないと勝てないって言ったんじゃ……?」

「うン? ……そウ言われれば確かニそんな風にも聞こえるナ。まァ兄さんは天才だったかラ、犯人が何者か見抜いていてモおかしくないと思うガ」

「だったらゴブ郎さんから何か聞いていないの? 犯人が誰か、ヒントになるような事を……」

「うーむ、分からン。兄は何も言ってなかったと思うガ……」

「そっか……」


 (テル)はそのまま考え込んでしまう。


(ゴブ郎さんが犯人を知っていた……。知っていて、復讐しようと考えていたとしたら……)


 そのとき、(テル)の中の点が繋がり始めた。

 全く関係の無い事だと思っていた事が、ドンドンと(テル)の中で結びついていく――。


「……ねぇゴブ助、一つ聞きたいんだけど」

「なんダ?」

「ゴブ郎さんが強くなろうとしていたって言うけど……人間と同じでゴブリンも、敵を倒してレベルアップしたりするの?」

「……? 当然だロ? 人間も魔物も、自分以外の生き物を殺してレベルアップするのは変わらんゾ?」

「そうか……だったら……。そういう事か……」

「どうしタ? 何か分かったのカ?」


 尋ねるゴブ助に答える(テル)


「ああ……。スキルじゃ見れない真実が見えたよ」

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