4-3話 小学生ですでにHカップだった天使のように可愛い陽莉
照が悲鳴を上げたその瞬間――
「[聖剣術レベル1 ]セントスラッシュ!」
――という掛け声とともに白く輝く斬撃が飛来する!
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[セントスラッシュ]
[聖剣術レベル1]の剣術。
魔力を込めた斬撃を飛ばし、離れた相手を攻撃する。
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そして斬撃は照とホブゴブリンの間の地面をザックリと切り裂いた。
「――ッ! ぐぅウッ、な、何ダ?」
二人を引き離すように放たれた斬撃に、ホブゴブリンは怯んだ様子で照から距離を取る。
そして剣撃の放たれた方向を探るように睨みつけるホブゴブリン。
彼の睨んだその先から姿を現したのは一組の男女。
「どうしてこんなところに女の子がいるんだ? ここは『魔の森』の最深部だぞ?」
照を見てそう言ったのは男性の方だ。
(あ、今『魔の森』って言った? や、やっぱり……違うと信じたかったけど、やっぱり……)
向き合いたくなかった真実を突きつけられ涙目の照。
茫然となりながらも、照は改めてその男を見る。
――癖の強いナチュラルショートな黒髪に、黒い瞳の端正な顔。
軽鎧を身に着け、右の腰に剣を下げた、まさに冒険者然とした服装だ。
この異世界ではよく見る恰好だが、日本人のような黒髪黒目という容姿はこの世界では珍しい。
というより……。
(……あれ? この人、見覚えが……)
「キミみたいな可憐な少女がいる場所じゃないだろう……ってどうした? 人の顔をじっと見て?」
「……って、ああっ! 思い出した!」
「なんだ、俺の事知ってるのか? キミみたいな可愛い子、会っていたら忘れないと思うんだが……」
「もしかして、尊兄ちゃん!? そうだ、尊兄ちゃんだよね?」
照が思い出したのは幼馴染の陽莉のお兄さん。
四年前の『高校生神隠し事件』によって異世界転移したと考えられる、瀬名尊という人物だ。
「はぁ、兄ちゃん? 確かに俺の名前は尊だが、お前のような妹はいないぞ? 俺の妹は……小学生ですでにHカップだった天使のように可愛い陽莉だけだ」
「Fカッ……! いや、確かに陽莉は巨乳だけど……。てかこの感じ、やっぱり間違いない。この人、陽莉の兄ちゃんだよ……」
相手の反応にガックリと肩を落としながら、目の前の男が瀬名尊だと確信する照。
と、そこへ――
「おイッ! 貴様ラ何を勝手に喋っていル!」
――そんな二人に向かって、ホブゴブリンが吠えた。
仇討ちを邪魔をされたことに対し、切れた態度を見せる。
「貴様が邪魔をシたのか! 許さんゾ、その人間の味方をする気なラ、まとめて殺してやル!」
その瞬間――
「ほう……其方、我が主を殺すと申したか?」
――そんなセリフと共に凄まじい殺気が放たれた。
殺気の主は尊の後ろに控えていた妖艶な女性。
見事なプロポーションの上に、水着も斯くや、という露出度の高い黒のドレスを着用している。
豊かに波打つ黒髪を腰まで伸ばし、肌は一切の生気を感じないほど真っ白だ。
「主に牙を向けるなら、例え我が森の住民でも許さぬぞ?」
「なっ! ア、貴女はっ!」
自分に敵意を向けてきたその女性を確認したホブゴブリンは――
「貴女はまさか『魔の森の女王』さマ!」
――驚愕の表情でそう呼んだ。
(へ? 女王様? この『魔の森』の? ど、どういう事? このエロいお姉さんって、普通の人間じゃないの?)
戸惑う照を余所に、ホブゴブリンとドエロいお姉さんの会話は続く。
「どウして女王様が人間の味方なド……!」
「今の妾はこの尊の『従魔』じゃ。 その証として主から『マリー』という名も与えられておる」
そう言うと『魔の森の女王』と呼ばれた女性は、色っぽい仕草で尊にしな垂れかかった。
「ナッ! 女王様が人間ノ従魔だト!?」
動揺し言葉を失うホブゴブリン。
その態度に『魔の森の女王』――マリーはいぶかしむ表情を見せる。
「なんじゃ、其方は知らんのか? 見たこともない顔じゃが……もしかしてハグレかや?」
「い、いエ、ゴブリンの村で三年前に生まレたホブゴブリンでス」
「三年前――おお、ひょっとしてお主が噂の珍種かのう? 生まれながらのホブゴブリンだったという」
「は、はイ、そうでス……」
「じゃが、それならなぜこの男の事を知らぬのじゃ? ゴブリンの村には通知しておいたかと思うがのう」
「……い、言われテみればソんな話を聞いタ気が……。だ、だがまさカ本当の事だっタなんて……」
信じられないものを見たかのように目を見開くホブゴブリン
同じく照も驚きを隠せない。
(『従魔』ってアレだよね? 人間に使役されたモンスターの事だよね? ウェルヘルミナが見せてくれたスライムみたいな……。え、じゃあこの色々きわどいお姉さんってモンスターなの?)
驚くホブゴブリンに、やれやれと肩をすくめながら魔の森の女王――マリーが話を続ける。
「お主がどう思おうが、この人間が妾の主じゃ。そしてそこの人間も、主の旧友である以上、妾にとっては大事な客人じゃ」
「ま、待ってくださイ女王様!」
女王様であるマリーが照の事も庇うような発言をしたことに、慌てて反論するホブゴブリン。
「その者は我が兄を殺したのでス! 仇を討たねば納得できませン! 我にそいつを殺す許可ヲ!」
「フム、殺された兄というのはそこな遺体じゃな? うーむ……おいお主!」
少し考え込む様子を見せたマリーが、次に照へ向かって語り掛ける。
「はっ、はい! なんでしょうか?」
「そのボブゴブリンを殺したのは汝か?」
「いえ、違います! そもそもレベル1のボクに倒せるモンスターなんて、このヤベー森にはいないと思います!」
「なるほど、それは真理よのぉ。確かに貴様はただのゴブリンよりも弱そうじゃ」
「はい! ゴブリンどころかスライムにも負ける自信があります!」
何故か自分の弱さに胸を張る照。
その様子にうんうんと頷くと、女王はホブゴブリンに向き直る。
「お主も此奴がお主の兄より強いとは思わんじゃろ? なら此奴は犯人ではない。納得したかえ、童っぱ」
「し、しかシ……。その者が犯人でなけれバ、誰が犯人だと言うのでス!」
「知らぬよ、そのような事。ともかく此奴は関係ない、それで納得する事じゃ。分かったら、兄の遺体を抱えて早う去れ」
「グゥウ……」
ホブゴブリンは顔を歪ませつつ、マリーを睨みつけていたが――
「……承知いたしましタ、女王様」
――最後には絞り出すようにそう返し、兄の遺体を担いで去っていった。




