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1-4話 ミステリオタクな生徒会長

 (テル)たち三人の前に颯爽と現れたのは、黒髪がよく似合う女子生徒だ。

 つややかなストレートのロングヘアに、平均より少し高めの身長。

 胸は控えめだが手足は長く、スラリとして流麗なスタイルをしている。

 陽莉(ヒマリ)とはタイプが違うものの、陽莉(ヒマリ)に勝るとも劣らない美貌を備えた、カッコいい系美少女だ。

 (テル)たちのいる読書スペースへやってきたその女子生徒は、長い髪をかき揚げながら彼ら三人に語り掛けてくる。


「図書室では静かに。これって常識じゃないかしら」

「ご、ごめんなさい……」


 第三者の登場に、ヒートアップしていた陽莉(ヒマリ)も我に返った様子。

 突然現れた彼女に、どうやら(テル)は見覚えがあったようだ。


「ねぇ剣人(ケント)、この凄い美人って誰だっけ? どこかで見たような気が……」

「二年の東雲朔夜(しののめさくや)先輩、この学校の生徒会長だよ」


 こそっと尋ねてきた(テル)に、剣人(ケント)もこそっとそう答えた。

 それを敏感に聞きつけた彼女――東雲朔夜(しののめさくや)生徒会長――は、改めて三人の顔を確認する。


「そういう貴方達は確か……一年の惣真照(そうまてる)さんに、櫻井剣人(さくらいけんと)くん。そちらの演説家は……同じく一年の瀬名陽莉(せなひまり)さんだったかしら?」

「へ? どうしてボクたちの名前を……?」

「それは、だって生徒会長だもの。生徒全員の顔と名前くらい憶えていて当然じゃないかしら」


 その言葉に驚きを隠せない(テル)


(うぉっ、実在したのか!? 全校生徒の名前と顔を全部覚えてる系の生徒会長!?)


 フィクションでしか存在しないと思っていた有能生徒会長の登場に、思わず(テル)のテンションが上がってしまったようだ。

 逆に陽莉(ヒマリ)はすっかりテンションを落とした様子で、生徒会長の朔夜(サクヤ)に頭を下げる。


「騒いじゃってごめんなさい……。アタシったらつい我を忘れてたみたいで……」

「そう、分かってくれたならそれでいいわ」


 そんな陽莉(ヒマリ)朔夜(サクヤ)は笑顔を返し――


「……あー、ところで……」


 ――と、少しためらいがちに話を続ける。


瀬名陽莉(せなひまり)さん。貴方がさっき言っていた論説、私も一部支持するかしら」

「――? 論説って……?」

「先ほどの演説で、小説は読者が楽しめてこそ――つまりはエンターテイメントだと言っていたじゃない。私もそれに同意見よ」

「――まぁ、ホントですかぁ!」


 思わぬ朔夜(サクヤ)の言葉に、陽莉(ヒマリ)はパッと表情を輝かせた。


「もしかして生徒会長さんもラノベ好き!?」

「いいえ、残念ながらラノベはほとんど読まないわね」

「え、でも今同じ意見って……」

「だから言ったでしょう、一部だけ賛成だって」


 期待した返答ではないことに当惑した様子を見せる陽莉(ヒマリ)に対し、少し肩をすくめて言葉を続ける朔夜(サクヤ)


「確かに小説にとってエンターテイメントは大事よ。でも、ただ読んでいて楽しいだけじゃ物足りなくないかしら? エンターテイメントだけでなく、そこに知的好奇心が必要だと思うのよ。つまり――」


 そして朔夜(サクヤ)は胸を張る。


「私が言いたいのは『ミステリーが最強!』って事かしら」

「は、はぁ……」


 戸惑う陽莉(ヒマリ)とは対照的に、エンジンがかかり始めた朔夜(サクヤ)はドンドンと早口になっていく。(※以下オタク的早口その2。読み飛ばし推奨)


「心惹かれる魅力的な謎と、それが解けていくカタルシス! これこそ知性を刺激するエンターテイメントじゃないかしら? その中でも特に『探偵もの』は最高ね! ミステリーで知的好奇心を満足させつつ、メインストーリーは探偵が犯人を懲らしめるという予定調和な勧善懲悪。この驚きの展開と、安心して読める王道とのコラボレーションこそが至高の娯楽小説というものよ。さらに探偵にキャラの魅力があれば申し分ないわね。どうしても退屈になってしまう捜査シーンも、キャラが立っていれば楽しく読めるもの。それらが揃っている『探偵もの』は、やはりキングオブミステリでありキングオブエンターテイメントなのよ。だというのにそれが世間一般に浸透しているかと言えば、現状では決してそうじゃないと言わざるを得ないわね。特にラノベを読むようなライトな読者層では何も考えずに読めるような作品が人気で、頭を使うミステリーのようなジャンルは残念ながら不人気だもの。かつてはミステリー専門のラノベレーベルもあったそうだけれど、売れなかったのか潰れてしまったそうよ。さらにアニメ界でも、『氷菓』という名作アニメを切っ掛けに『日常の謎』と呼ばれるジャンルのアニメ化が流行ったことがあったけれど、結局は一時のブームで終わってしまったしね。全く嘆かわしい限りだわ。だけど――だからと言ってミステリーがライト層にウケないジャンルかというと、決してそうじゃないと思うの。例えば小説ではなくリアルな体験型の『脱出ゲーム』や『謎解きゲーム』など、従来とは違う形でミステリーというモノが受け入れられる例もあり――――――――――――」


「え、えっと……」


 淀みなく滔々と話す朔夜(サクヤ)に、先ほどまでとは逆の立場となった陽莉(ヒマリ)が怯んでタジタジになっている。

 その様子に、(テル)剣人(ケント)はあることを察したようだ。


「なぁ剣人(ケント)、生徒会長って……」

「ああ……間違いないな」


 陽莉(ヒマリ)はラノベ――。

 生徒会長はミステリ――。

 有能生徒会長の東雲朔夜(しののめさくや)は、ジャンルは違えど陽莉(ヒマリ)と同じタイプの人間だったようだ。


 そして時間が過ぎ――。


「――っと、少し喋り過ぎたかしら?」


 気持ちよく喋り続けていた朔夜(サクヤ)が、ようやく正気に戻ったようだ。


「悪いわね、貴方たち、私もう行かないと。あぁそうそう、最後に忠告しておくけれど、貴方たちラノベばかり読んでいないで、少しはミステリも読んだ方がいいんんじゃないかしら。それじゃ失礼」


 言いたいことを言い終えた朔夜(サクヤ)は、来た時と同じように颯爽と去っていった。

 ようやく解放された三人は、茫然と彼女を見送る。


「や、やっと終わった……。何だったんだあの人……?」

「さ、さぁ……?」


 呆れた様子でつぶやく(テル)剣人(ケント)

 その隣で同じように胸をなでおろしていた陽莉(ヒマリ)だったが――。


「って……あぁーっ! 忘れてた!」


 ――突然思い出したかのような声を上げた。


「ど、どうしたんだよ陽莉(ヒマリ)?」

「生徒会長、ラノベを読まないって言ってたよね? いけない、ラノベがどれだけ素晴らしいか、今度はこっちが教えてあげないとだめなのです!」

「ちょっ、待って! 落ち着いて、陽莉(ヒマリ)! それ余計なお世話だから!」

「お前はどうしてそうラノベの事になると人が変わるんだよ!?」


 暴走しそうになる陽莉(ヒマリ)を慌てて止める(テル)剣人(ケント)であった。


 ――――その後。

(それにしても……)と、生徒会長の事を思い返す(テル)


(アレがうちの学校の生徒会長か。綺麗だけど変な人だったなぁ)


 ――だが(テル)はまだ知らなかった。

 このときの朔夜(サクヤ)はまだその本性の半分も出していないかった事を――。

 本気の彼女はただの『ミステリ好き』ではなく、もっとヤバい変態だという事を――。

 そして――そんな彼女と共に、もうすぐ異世界転移してしまうという事を――。


 (テル)朔夜(サクヤ)はどうして異世界へ行くことになったのか?

 さらに二人と共に異世界転移してしまう、残り『六人』はいったい誰なのか?

 はてさて――。


 このとき――――(テル)たちが異世界転移するまであと三週間。

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